173 人との共同作業を得られると、便利になる。
四十二階層の階層主、俺たちの中ではソルジャーコマンダーと呼んでいるが、見た目は人型をしていない。
そして、その取り巻きを戦車と呼んでいるが現代に存在する砲塔を持ち砲弾を打ち出すような兵器と同じわけではない。
まずソルジャーコマンダーであるが、パッと見はモノリスだ。
ああ、テカリ具合からして見事に表面を研磨された鉄板のような存在だ。
そいつが東京ドームと同じか、少し広い程度の空間の最奥に浮遊しながら位置し、謎の発光信号を随時放っている。
実際に戦って、そいつ自体の戦闘能力は大したことないのがわかっているのだが、コイツの厄介なところは空中から空間を俯瞰することで全体を把握し取り巻きを自分の体のように指揮してくることだ。
そして、その取り巻きである戦車であるのだが……
「左側から二体ドリフトしながらやってくるっすよ!?」
「北宮! 地面を凍らせてそのまま場外に飛ばすでござる!」
「無茶言わないで!! こっちはこっちで魔法使い過ぎて魔力が持たないのよ!!」
「じゃぁ、海堂先輩! GOでござる!!」
「轢かれて終わるっすよ!?」
海堂、南、北宮がてんやわんやしながら対処に回るその正体は、下半身を一輪車のようにしたゴーレムのことだ。
その機動力は整地された広い空間であれば無類の強さを発揮する。
縦横無尽に駆け回る姿に、加速度を加えた攻撃、さらに重量もゴーレムのためある程度以上に備えている。
車輪で動くため、二足歩行ほど細かく動けない単純な突撃でも、その五メートルを超える身丈と重量のせいで当たったら致命傷を負うことは間違いない。
加えて数を揃え、片手に盾もう片方の手には突撃槍を持って交代で突撃された日には、チェーンソーの刃を突きつけられているように間断なく攻め立ててくる。
「ったく、自分が出した改善点に苦しまされるのはいつもどおりだが、これはこれで鬱陶しいな!!」
「そういう風になるように作りましたからね」
「ううー、攻撃が当たらないネ」
『アミーの場合は攻撃力も足りないからね』
自分の首を自分で締めているのはこの仕事をするにあたって、いつものことであるが、我ながらなかなか面倒なモンスターを生み出したようだ。
サーキット場で聞こえるようなタイヤ音を聞き、悪態をつきつつ体はゴーレムたちを迎撃するために動かす。
もともとここの階層にいたボスはソルジャーコマンダーと普通のナイトゴーレムがこの場を守っていた。
だが、それだと簡単に攻略できてしまう。
事実、俺たちは簡単に、余裕をもって攻略できた。
なので改善案として広い空間を有効に使えるように、下半身を一輪車にした高機動ゴーレムを提案した。
そして用意されたゴーレムは、俺たちの予想を上回る性能を備えて実装された。
おかげでこうやって苦労する羽目になっている。
愚痴をこぼすのだが、打ち合いに持っていけないのは正直辛い。
時速百キロを超える速度で常に動き回られては、攻撃を繰り出す頃には安全圏に逃げられてしまう。
そうなるように提案したわけだが、これを体験すると、今の自分に前衛としてのスピードが足りないことを実感する。
「っち、切りそこねた」
「それでも先輩は切れるんすね」
踏み込む時に一時的には追いすがることはできるも、追いつくことはできず。
唯一アメリアだけが、対等な速度を出せるが持続面で難があり、攻撃力も低い。
一人突出させてさせてしまっては格好の的だ。
なので走って追いつけないのなら基本的に待ちの姿勢に回ってしまう、要はカウンター狙い。
そうなれば自然と位置が固定され、相手を追い回すことが少なくなってしまう。
敵は自由に位置取りができてしまい、ソルジャーコマンダーにとっては都合よく味方を配置でき、段々とこっちが不利になっていく。
そうならないよう、速度に関係なく有効である北宮の遠距離攻撃を繰り出してはいるが、その攻撃も魔力という限界が有り無限に放てるわけではないので、それだけには頼ることができない。
加えてダメージ比率が後衛に傾けば、前衛の火力が削がれる。
前衛が主力であるこのパーティーの欠点が出てきた。
「ここら辺も要改善か」
「先輩何か言ったっすか!?」
「独り言だ! 手を止めんな海堂!」
舌打ちをこらえ、迫ってきたゴーレムをすれ違いざまに腕を切り落とし、盾を持っていた腕が地面に転がるが、俺としてはさっきので胴体を切り飛ばす気でいた。
「っ」
次から次へと改善点が浮き出てくる。
精神的にも肉体的にも俺を含めパーティーはまだまだ強くなれるという事実ではあるが、今この状況に晒されては不甲斐なさの方が強く感じる。
高速で迫る槍を躱しながら攻撃するというのはなかなか難しい。
ボクシングの高等技術であるカウンターの要領でやらないといけない。
一歩間違えればこちらが串刺しになるかもしれないという危険性を孕んだ精神状態での反撃というのはなかなかうまくいかない。
無意識で思考が防御に回ってしまう。
踏み込みのタイミングと武器を振り下ろすタイミング、そのどちらのタイミングにも防御という無意識が介入し攻撃の位置をずらしてしまった。
意識して、それを排除しようにもまだまだ慣れが必要そうだ。
さて、こうやって苦戦はしているが、会話のできる余裕はある。
いわゆる膠着状態というわけだ。
だが。
「ぬがぁ!? 誰でござるか!? あんなもの作ろうって言った奴は!?」
ジリ貧でもある。
ついに我慢の限界を迎えた南が地団駄を踏みながら天井から伸びるアームを指差す。
指差したアームはついさっきまでは存在していなかったが、俺が腕を切り飛ばしたゴーレムが真下を通りかかった時に出現した。
天井板をスライドさせ、複数のアームをその隙間から出し、ゴーレムのパーツを持った手と持たない手で器用にゴーレムを修理している。
昔、動画でF1カーのタイヤ交換を三秒以下で済ませる光景を見たことがあるが、このアームもそれ並みかそれ以上の速度でゴーレムを修理しやがる。
「いずれは相手にも回復役が出てくると思ったが、攻略した階層に投入してくるとはな」
「ヒーラーとはなんか毛色が違う気がするっすけど」
「そうですね、回復っていうより修理って感じですし」
「相手が無傷の状態まで戻るんだ、大して変わらんだろ」
敵は高速で動き回り、捉えるのは難しい。
さらに攻撃しても一撃で倒さなければ修理される。
意図的に消耗戦を強いてくる環境が整っているというわけだ。
「さて、参謀である南は、何か策を思いついたか?」
その土俵にいつまでも居座っているわけにはいかない。
解決策を指揮をしている南に問う。
俺の中で、相手に決して実力で劣っているとは感じないので、俺が鉱樹とリンクして地道に力技でゴリ押しで行けば勝てるとは思う。
だが、それはできれば避けたい。
これはピンチではあるがチャンスでもある。
一つの方法に頼り切るよりも、手札を増やせるときに増やしておきたい。
方法があるのならそちらを選びたいところ。
「順番に倒すしかないでござるね」
今もタイヤで地面を擦る音を響かせながら攻撃に晒されているが、各自対処しながら南の対策に耳を傾ける。
南が提示したのは、王道的な方法。
「まずはアームをどうするしかないでござる。あれがあるうちは相手が回復されて、こちらの攻撃が意味なくなるでござるし」
「方法は?」
「北宮に天井一面を丸々凍らせてもらうでござる」
「はぁ?あんた何言ってんのよ。いったいどれくらいの面積があると思ってるのよ。魔力が足りないわ」
広さからして天井のみに範囲を絞ってもかなり広い、その一面を凍らせるとなると今の北宮には荷が重いと言わざるを得ない。
それを理解し、できないと正直に述べる北宮に南も分かっていると頷く。
「広さは拙者がなんとかするでござる。北宮は凍らせることに集中するでござるよ」
自信有り気に語る南、方法があるというのなら相手の後方支援を潰すのは定石だ。
だが、そのアームは常に天井の裏に隠れているため攻撃が届かない。
なので倒すのではなく封じるという方面に持っていった南の考えは悪くはないと思う。
「……それならどうにかなるな。けど地面の敵はどうするつもりだ?天井を凍らせて修理アームを封じても時間が経てば突破される、奴らを修理できるようになってこちらは後方火力を失うことになるぞ」
「天井を凍らせるのと同時に地面の方の動きも鈍らせるでござるよ、見たところ一輪車タイプのゴーレムしかいないのが幸いしたでござる」
「勝算があるんだな?」
「任せるでござるよ」
「……わかった。俺たちは動きの鈍った車輪ゴーレムを倒して、最後に丸裸になったソルジャーコマンダーを倒せばいいわけだな?」
そして会話をしている悠長な時間はない。
代案が出てこないのなら、南の作戦に乗って各自の動きが始まる。
「そうでござる。魔力の問題で動きを止めたあとは拙者と北宮は動けなくなるでござるから」
「ああ、海堂、勝。お前らが護衛につけ。アメリアは俺のバックアップ。行けるな?」
「うっす!」
「わかりました」
「OK!!」
「それで行けるな南」
「それがベストでござろうなぁ。あとは時間との勝負でござる」
北宮と南を囲み、守るような陣形を取れば、なにか俺たちがしようとする雰囲気を察し、自然と相手方の攻撃も盛んになる。
総攻撃と思うくらいに、攻撃を重ねて来る相手に苦笑しつつ。
倒すことよりも捌き、攻撃をもらわないことに意識を傾ける。
背後では南と北宮が魔力を練り、大魔法の準備が進められている。
「さぁ、出番でござるよユラ!」
「お願いねスノウ!」
互いにサポート役で精霊を呼び出し、順調に魔法の準備は整っていく。
そして、準備が進むにつれてこちらを妨害しようと必死に攻撃を仕掛けてくるゴーレムたちがいるわけなのだが。
「通すわけねぇだろ」
敵を捌くことを優先するといっても倒せるのなら倒していく。
近づいてくれるのなら、こちらとしてはやりやすい。
密集することで直線的であった動きがさらに制限され、一撃で切り落としやすくなった。
胴体と下半身が泣き別れ魔力へと消え去っていく様を脇目に見つつ、パーティーのカバーにも意識を割くが。
勝と海堂、アメリアも俺の守れる隙間を塞いでくれるように立ち回ってくれているおかげで動きやすい。
「準備できたでござる!」
「ああ、もう、どうなっても知らないわよ!!」
時間にて数分にも満たない、そんな僅かな時間で発動する魔法とは。
ちらりと一瞬だけ隙をついて背後を確認すれば天井に向けて杖を掲げる二人の姿が見える。
「北宮、時間差でござるよ!」
「わかってるわよ!」
その杖の先から魔法が解き放たれた。
「濃い雲!!&天候操作!!」
「絶対零度の氷結晶!!」
南が天井に向けて魔法を放った結果、閉鎖空間に生まれる濃厚な雲。
積乱雲などに見られる、光すら遮るような濃厚な雲。
その雲はあっという間に天井一面に広がり、瞬く間にレンガで敷き詰められた天井を覆い隠した。
そしてわずかに空気中に含まれる水分が増えたという感覚が肌越しに伝えてくる。
そんな空めがけて、ゆっくりと登る蒼白い結晶。
北宮の残りの魔力を全て注ぎ込んだ魔法はかなりの魔力を含み、それがゆっくりと雲の中に消え去り。
「はじけなさい!!」
パンと軽い音がし、遅れるようにガキンと何かが凍りつくような音があたり一面に響いた。
「はははは、成功でござる」
「ハァハァ、全魔力を投入した一撃よ。もう、初級魔法すら無理よ」
そして、南が展開した雲からゆっくりと大粒の雪を降らせ始めた。
ガキンと響いた音は、天井一面に広がる高濃度の魔力の雲を凍らせることでスライド部分の動きを固定したときの音だ。
そして冷気の余波で、凍らなかった雲の温度を下げ、生まれたこの大粒の雪といえば。
「次は、冬タイヤも用意するでござるよ」
地面にうっすらと、そして次第にその厚さを増し、地面状況を悪化させる。
一輪というバランスの悪い形のゴーレムがすべり転倒し走行できなくなるほどの積雪を発生させた。
冷気を生み出した北宮と凍る物質を用意した南の合作魔法は、スピードに乗せて走り回っていたゴーレムに猛威を振るう。
「行くぞ!」
「OK!」
それを見逃す俺たちではない。
千載一遇のチャンス、それを作り出した、魔力を消費し杖に寄りかかり体を支える二人の努力に応えるために、俺とアメリアは走り出す。
手近にいる、転倒し起き上がろうとしたゴーレムを次から次へと鉱樹で切り捨て、俺が間に合わない部分、身動きを取ろうとしたゴーレムに対してアメリアが急所を狙い動けなくしていく。
頼みの綱である修理ハンドは天井を凍らせたことで降りてこられず、雪道を想定していなかったゴーレムたちは転倒し身動きが取れなくなり次から次へと始末されていく。
「もう少しゆっくりしていけよな! 大将!!」
そんな光景から離脱を図ろうとしたソルジャーコマンダーにめがけ、ただ走るでは間に合わないと判断し、近くにあったゴーレムの残骸であった左半身に手をかけ全力で投げつけた。
そしてその塊はソルジャーコマンダーの側を過ぎる軌道を描くと想定され、かの存在の思考にわずかに当たらなくてよかったという安心感を与えた。
「キエェェェェェェェェェェェイヤァァァァァァァァァァァァ!!!!」
それを目隠しにした俺がいるとも知らずに。
ゴーレムの巨体に身を隠し、大ジャンプし最後に空中にあったゴーレムを足場にし飛びかかる。
そして猿叫とともに振り下ろした一撃は、僅かな抵抗も感じさせず。
そのなめらかな表面に一太刀の亀裂を走らせ。
崩れ落ちた。
「……仕事終了だな」
それを見届けた俺は、誰も動かなくなった現場を見て。
パーティーメンバーに、この戦いの終わりを告げるのであった。
そして、この後のことに、少し思考を飛ばすのであった。
今日の一言
三本の矢というものがあったが、協力することで生まれる何かを想像してほしい。
今回は以上となります。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。
発売日は2018年10月18日を予定しております。
また、同年10月31日に電子書籍版も刊行予定です。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
どうかそちらの方もよろしくお願いいたします。




