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165 リスクによって起きた衝撃は波紋する。

 Another side



「いないっすね、精霊」

「そうでござるねぇ」

「あんたたちねぇ、こんな森の入り口付近であっさり見つかるわけ無いでしょ」


 リーダーである田中次郎がいないパーティーは北宮がまとめているケースが多い。

 本来であれば、年長者である海堂が率いるのがセオリーであるのだが、あいにくと前に出ることが多い立場であるのと人をまとめるという行為が苦手な彼では効率が悪いということで、その分野が得意である北宮がまとめている。

 もちろん戦闘では参謀というポジションで南が全面的に指示を出すことが多いが、通常の行動指針などは彼女がまとめている。

 今も行き先を案内役のダークエルフとともに地図を広げ相談しているのは彼女であるのはそのためだ。

 加えて北宮自身、今回の精霊との契約はかなり乗り気であった分そのやる気は高い。

 なので次郎からまとめ役を任されたときは素直にその役割を受けたのであった。

 そんな彼女は呆れた目線で遠くを見ようと額に手を当てている二人に対して注意するも、すぐに案内役のダークエルフのアドバイスに耳を傾ける。


「それで、やっぱり属性ごとに精霊のいる場所って特徴があるのね?」


 精霊というのは自然に寄り添う存在のためその自然環境に左右されるケースが多い。

 なので生息地域に傾向が出るのだ。

 

「ええ、水の精霊が泉や湖といった環境を好むように火なら火山の火口付近、土の精霊なら洞窟の中、風の精霊なら高原といったよく風の吹く場所にいることが多いです。まぁ、中にはひねくれた性格の精霊もいたりしますのでなんでこんな場所にいるかって話の精霊もいますけどね」

「なるほど、でもその場所に行けばその精霊と会える確率は高いのよね?」

「ええ、それは間違いありません」


 それなら無闇矢鱈に歩き回るのは得策ではないと、北宮は考える。

 ほかのテスターは何も考えず案内役に任せて目的の精霊がいそうな場所に案内してもらっていたが、それでは効率が悪いような気がしたのだ。

 だから出遅れるのを覚悟して、こうやって事前に案内役のダークエルフの青年と打ち合わせをしている。


「となると最初に目的地を決めてから行動したほうがよさそうね。じゃないととてもじゃないけど予定している日数だけじゃ回りきれないわね……あと、確認なんだけど中級以上の精霊と出会えるのは運次第なのよね?」

「ええ、彼らは自我も強く、私たちダークエルフでも簡単には見つけることはできませんからね。こればっかりはアドバイスのしようがないですよ。まぁ、それでも滅多に見ないというだけで、今日もしかしたら会えることがあるかもしれませんね」


 今回の案内をしてくれる青年のダークエルフは、一つ一つ丁寧にどの場所にどんな精霊がいるかを説明してくれる。

 その説明を受けてさらに北宮は頭を働かせる。

 この予定が完全にその通りに進むとは彼女は考えていないが、それでも骨組みは作っておくべきだと判断したからだ。

 何も考えず行動すれば、確かに自由に動き回れるかもしれないが、迷った時に初心に返れる地点がなくなってしまう。

 それを彼女は避けたかったのだ。


「とりあえず全員が契約できるようにはしたいんだけど……希望通りってわけにはいかないかもしれないわね」

「よほどのことがなければ精霊は答えてくれますが、何か事情でも?」

「はぁ、そこで無邪気にはしゃぎまわっている二人の希望が面倒なのよ。とりあえず手頃なところから行くべきかしらね。アミーの風の精霊が近場にいそうだからそこから先に行こうかしら」


 指差した方向には、かくれんぼをしている相手を探すように木の上や岩の裏、茂みの中を探すいい年した男女二人の姿があった。

 その姿を見せたあと、あの二人は後回しでいいと北宮は告げ、先にできそうな話を振る。

 案内役のダークエルフもその話に納得の色を示す。


「おそらく他の案内がその場に案内しているでしょうから、少し離れますがこっちの方がよろしいでしょうね」


 海堂の希望は火の精霊を所望している。

 王道の精霊ゆえ存在する数こそ多いが、あいにくと火というのは自然界では存在しにくいものだ。

 なので自然と存在を確認しやすい環境は限られ、北宮が見る地図の中でいそうなのは、森入口付近から正反対と言ってもいい山の頂にある火口付近ということになる。

 距離的には一番離れた場所で、正直時間が掛かる。

 彼自身火系統の魔法を得意とすることもあり、それを強化したいという目的がある。

 なので面倒だと口にはしたが、今後のことを考えそれを否定するつもりも諦めろと言うつもりも北宮にはなかった。

 それが必要なことだからと理解し納得しているからだ。

 もっぱら頭痛の種になり面倒だという言葉の意味合いの大半を占めているのは南の希望と言うべきだろう。

 彼女のパーティーでの役割は補助サポートだ。

 いわゆる、縁の下の力持ちと呼ばれるポジションだ。

 周囲を索敵したり、味方の防御をあげたり、逆に相手の攻撃力を下げたりと間接的に戦闘に貢献する機会が多い。

 そしてその役割も多岐にわたり、気配りが重要であの性格でよくできるなと口にはしないが北宮も南の実力を認めている。

 その彼女を支える力、補助となるべき精霊は少々特殊にならざるを得ない。

 いや、どんな精霊と契約すればいいのかわからないと言い換えてもいい。

 なにせ役割が多すぎて、どこを強化すればいいかわからないのだ。

 当人でない他者が選ぶのは少々困難だ。

 本人にどのような力が必要かと聞けば、当人は珍しい精霊であればいいと言う始末。

 曰くどんな癖のある精霊でも使いようで、むしろ癖があった方が面白く使いこなしてみせるという自信からくるそうだ。

 北宮からすれば注文が曖昧すぎていまいち目標を絞りきれていないからはっきりしろと言いたくなる話だ。

 いや、事実言ったが暖簾に腕押し、糠に釘、フィーリングだと感覚的な話しかしない南にこいつは最後だと北宮が判断したのは自然な流れだ。

 なので面倒事はあとに回し処理しやすいことから処理していく。

 その処理しやすいのが、アメリアと勝だ。

 斥候としての役割を担っているアメリアは速度や隠蔽をサポートし、スキルで遠くの音を拾うことができるのでその長所を伸ばす意味で風の精霊を希望。

 回復役を担う勝は、回復の効果上昇とポーションの自主製作による経費削減という主婦の節約術を目指し、水の精霊との契約を希望。

 この二人の希望は比較的簡単で、ダークエルフの青年もすぐに答えてくれた。


「ワーオ! マイク! どんな精霊がいると思う?」

『う~ん、下級の精霊にもいろいろといると思うけどねぇ、君の性格なら元気のいい精霊がいいんじゃないかな?』

「アミーのあとは勝くんの水の精霊でいいかしら?」

「はい、それで問題ありません」

「ぶーぶー、拙者は後回しでござるか?」

「ならあんたはもう少しまともな注文をしなさいよ。まったく、計画を考えるこっちの身にもなりなさいよ。ほら、身体強化かけなさい」

「了解でござる~」


 ふんと南の発言に少々不機嫌になりつつもいつものことだと思い、注意しつつ地図に番号を振り、向かう順番を決める。

 北宮自身の希望は少々特殊であるので、あとに回すことになりそうだと地図を眺めつつ彼女はため息を吐く。

 彼女も精霊との契約を楽しみにしていたのだ。なので早く精霊と契約したいという(はや)る気もある。

 気が強い彼女であるが、元来の真面目な性格からその言葉を口にすることなく、仕事を遂行する。

 日程としてはあまり余裕がないからできるだけ早めに行動したい。

 移動を早くするためにパーティー全体に強化魔法をかけ、そうしてダークエルフの先導のもと森の中を駆け始める。


「おお! 入り口付近では姿が見えなかったっすけど、結構いるんっすね」

「そうでござるなぁ。人里から離れた途端に現れると生活圏の違いを思い知らされるでござる」


 普段からこの面々で行動している分、集団での移動には慣れたもの、周囲を警戒するノウハウも溜まり、こうやって会話をしながらでも移動は可能であった。

 日本の一般人がその光景を見れば忍者か!? とツッコミを入れそうな移動手段である木々の上を飛び回っているが、ダンジョン内でありとあらゆる場所を足場にしている海堂たちだからこそできる技である。

 その途中で視界に入るのは様々な下級の精霊たちである。

 ほかの場所に移動途中なのか、そもそも森の中にいるのが当たり前なのか、度々彼らの視界に入ってくる。


「・・・・・マイク~」

『どうしたんだい?』

「何か、私、精霊さんたちに避けられている気がするネ」

『うん、気がしているんじゃなくて。避けられているね』


 その道中で少し問題が発生した。

 アメリアが半泣きの状態ですがるように体の中にいるマイクに話しかける。

 アメリアは高速での移動中であるにもかかわらず、迷うことなく太い枝を足場にして前進を続けていた。

 固まるように動いているわけではあるが、どうしても同じ足場を使うわけにもいかず、咄嗟に離れた足場を使うこともある。

 そんな時にふとした拍子にアメリアの前に蝶のような下級精霊が躍り出てきた。

 それにアメリアは喜色の色を見せるように笑顔を見せたが、その喜びの反応に対して蝶はビクリとその体を震え上がらせて、蝶の見た目からは絶対に出ないと思われる速度でその場から逃げ出した。

 移動中なのでそれを追うことはなかったが、かと言ってそのような仕草を見せられたアメリアが何も思わないというわけがなかった。

 最初はなにか驚かせたかなと思い、気を取り直し再び他の精霊に話しかけてみたが、それが繰り返されれば普段の元気印な彼女の精神も折れかける。


「うえ~ん」

「よしよし、何か原因があるのよ。気をしっかり持ちなさい」


 おまけに止めを刺すように、目的地に着くとビクリと精霊たちがアメリアに反応して一斉に逃げ出してしまえば、さすがの彼女の精神的耐久値にも限界が来る。

 ダークエルフの案内役もこんなことは初めてで困り顔を浮かべてしまう。

 涙目からついに涙が溢れ北宮に抱きつく。

 アメリアに抱きつかれている彼女も、最初からこんなことが起きるとは思っておらず困惑の色を見せている。

 口でこそしっかりしろと厳しく言っていたが、アメリアの髪を撫でるその仕草は優しげであった。


『なんでこんなことに?』

「いや、どう見てもマイクのせいでござるよ」


 この現象の原因であるマイクが不思議そうに、見えないが首をかしげるような仕草を表すかのように疑問を口にする。

 それに対して、マイクの正体から正確に原因を割り出した南はお前が言うなとジト目で言うのであった。


「どういうことよ?」

「マイクは自称魔王の魂でござるよ? その魂に精霊たちが怯えても仕方ないでござる」

「あ~」

「……」


 パーティーの中では当たり前になっているがアメリアの中にいる存在は一応機密の存在なのだ。

 道中のアメリアとマイクの会話も声を抑えたものであった。

 なので案内役のダークエルフを気にしてアメリアを抱きながら、耳を寄せるように南に聞けば、彼女も小声で答えを返してくる。

 いわゆる、魔王の魂に怯えてしまったのだ。

 アメリア自身に責任はないが、マイクの魂を内包しているせいで彼女が精霊との契約ができないと判明してしまった瞬間である。

 そしていきなり計画が頓挫し、どうしようと北宮が頭を抱える。

 初歩的なミスを犯し、こんなことになるとは思わなかった彼女は、この原因解決の相談相手であるこのパーティーの統率者がいないことを悔やむのであった。


「どうしようかしら」

「とりあえず、今日は引き上げたほうがいいでござるね。ムイルさんならもしかしたら対策の方法を知っているかもしれないでござるし」

「……そうね。そうするしかないか」

「う~ソーリー」

「馬鹿、あんたは謝らなくていいの、悪いのはあんたに居候している馬鹿なんだから」

『ハハハハ、こればっかりは僕も言い訳ができないけど、その言い方はないんじゃないかなぁ?』

「うっさい、居候」


 このまま他のメンバーの精霊を契約しに行くのが効率的にはいいのかもしれないが、パーティーの雰囲気的に避けるべきだと判断した北宮はダークエルフの案内役に謝罪し、拠点に戻ろうかと思ったのだが。


「あれ? 天気が怪しくなってきたっすね」

「本当ですね、さっきまであんなに月が綺麗だったのに」


 突如としての天候不良、月の光が遮られよりいっそう視界が悪くなったことにより、帰還するのが難しくなった。 

『違う、これは』

「北宮!! 敵襲でござる!!」


 普通の天候不良だと思っていた北宮であったが、若干二名の反応は違った。

 マイクはその魂の存在から、南は探知魔法からその怪しげな雰囲気を感じ取った。

 暗闇に染まる森の中、アメリアの原因以外の理由で精霊が消え去り、その森の中から赤黒く光る眼光がまばらに出現し始めた。

 それを見るよりも、南の声に反応した面々は素早く戦闘態勢を整え、その眼光に向き合うのであった。

 トラブルの波紋は今目の前に現れた。


今回はこれで以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いします。

これからもどうか本作をよろしくお願いします。

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