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15 職場の改善には上司の力が必要不可欠、つまり上司を味方につけた奴が勝者だ

一週間、どうにか書き上げられました。

いい加減、パーティメインのお話をしたいのですがなかなか難しいものですね。

田中次郎 二十八歳 独身 彼女無し 

職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



「さて次郎、お前が呼ばれた理由はわかるか?」

「心当たりが多すぎてどれなのかわかりません」

俺が今いるのは小会議室と呼ばれる個室の一つだ。

頭に第何とつくがここが何番目なんてことは今は問題ではない。

問題なのは、エヴィア監督官に直接呼び出しを受けて、完全に説教の態勢に入っていることだ。

「潔いな、人間だったら誤魔化すことぐらいはするのではないか?」

蛇と蛙、狼と羊、ドラゴンと農民、そんな関係図が成立している時点で白旗を振る以外に選択肢はあるのだろうか?

それに誤魔化すも誤魔化さないも人間だろうが悪魔だろうが関係ない気がする。

しかしどうやら先制のジャブは効果があったらしい僅かに剣呑であったエヴィア監督官の雰囲気が和らいだ。

俺には優等生という言葉は自分に最も似合わない称号だと思っている。

逆に問題児という称号の方が身近に感じる時があるくらいだ。

そんな人間がどの口で自分に問題はないので呼び出された理由はわかりませんと言えるか。

第一、怒る前兆を見せているエヴィア監督官に対して嘘を言うなんて自殺行為ができるわけがない。

やればやった後がどんなことになるのやら。

「ソロで行動している時点で周囲とは協調性は皆無、そんな人間がどの口で特に思い当たる節はありませんって言えばいいのですかね?」

「クククク、違いない」

まぁ、ここまで理屈を並べてはいるが要はこの方法が経験上被害が少ない方法であると理解しているからこういった会話になるというのもある。

無闇に謝って問題の説明を求めるよりも、問題点は理解していると示したほうが早く終わる。

欠点は後処理を間違えると上司とかなり険悪になるということだ。

幸いこの人? 悪魔?は話がわかる存在だ。

いきなり頭ごなしに説教をしてくるような人ではない。

こうやって、冗談に乗ってくれるくらいの猶予は与えてくれる。

「さて本題だ。貴様への退職希望クビが上がっていてな」

「〝え〟」

だが、どうやら冗談を言っている場合ではなかったようだ。

血の気とはこうやって引いていくのだろう。

明確に社会的な地位を断ち切るべく、断頭台が用意されていると聞けば冷や汗の一つや二つはかく。

頭の先からすぅっと下に下がっていくのが明確に感じられる。

「早合点するな、我々からではない」

「と、と言うと?」

「上がってきたといっただろう。テスターの一部から貴様をクビにしたほうがいい、なんてものが来てな。事情を聞いたところ、次郎、貴様テスターの一人を殺しかけたそうじゃないか」

安心した。

いや、そもそも監督官の言葉の内容に安心する要素など欠片もないのだが、少なくとも上のお歴々から首切り宣言ではないことに血の気が少しもどる。

更に言うなら、嗜虐的であるがいたずらに成功したと語るような口元と目が笑っていることも安心要素になっている。

こうもわかりやすく俺で遊んでいると表現してくれる存在は珍しい。

そして最大の安心要素は問題となっている話に心当たりがあるからだ。

もっと言うならそれほど俺自身が問題視していないからこその安心感だ。

「……そっちかぁ」

「他のことに関しては後で裏をとって聞いてやる。とりあえず事実なのだな?」

監督官にとっては普通に質問しているつもりなのだろうが、鋭い容姿のせいで詰問しているように聞こえる。

鬼ヤクザと暗黒紳士ほど心臓に悪くはないので落ち着いて答えることはできる。

「訂正するなら、向こうが脅してきたので脅し返したというのが正確ですね」

つい昨日のことだ。

じっくり考えなくても概要程度なら簡単に思い出すことはできる。

そして簡単に事情を説明すれば。

「やはりそうか」

監督官は理解してくれる。

そういった信頼関係は作ったつもりだ。

「やはりって、相手側の意見は信用してなかったってことですか?」

「ふん、貴様らは悪魔という存在を舐めているのか。我々は虚偽と契約を生業にする存在だ。騙す騙されるが当たり前で生きてきた私に嘘など通じない。二十年しか生きていない若造ごときの言葉の真偽など白と黒を区別するようなものだ」

付け加えるようにお前の言葉も同じだと告げられる。

そこで俺は気づいた。

ということは件の優男は嘘だと見抜かれているのにもかかわらず自分に非がないと説明して俺をクビにするべきだと熱弁したのか。

それはなんと言うか。

「随分と滑稽だったぞ?」

「思考を読まないでください」

それに滑稽だとは思ったがどちらかといえばこの人に嘘が吐けるとか勇者はいたのかと思うほうが近い。

「悪魔の楽しみを奪う気か? 傲慢だな」

「傲慢って」

おそらく地球上で悪魔に傲慢だと言われた男など俺くらいではないだろうか。

そんなどうでもいいことを思い浮かべる。

「ふん嫌ならもう少し顔を取り繕え、そうすれば私の楽しみも少しは増える」

「そもそも人の心を読むのを趣味にしないでください」

狸と狐、いやこの場合は化かし合いというより心理戦といった方が近いだろうか。

そういったことが好きそうなエヴィア監督官が俺の希望を聞いてくれるわけもなく。

「断る」

「ですよねぇ」

綺麗に切り捨ててくれる。

最初の緊張感はいったい何だったのか、これまでの会話や俺の心情に鑑みるとエヴィア監督官が俺を弄んだだけのような気がしてならない。

「貴様らの体裁を気にしてこのような場を設けてやっているんだ。この程度の些事くらい見逃せないようでは男の度量が疑われるぞ?」

エヴィア監督官の立場上こうやって訴えかけられれば人間関係を円滑に回すため動かずにはいられない。

明らかに嘘だと種族的に分かっていても、人間である俺たちは納得しない。

なのでわざわざ手順を踏んで俺たちが納得しやすい環境をつくりに来てくれている。

こうやって俺に説明している時点であまり意味がないかもしれないがまさに喜劇だ。

ここまで綺麗に手のひらで転がされると、同じ立場の名前が思い出せない件の優男に同情してしまう。

明日には忘れるような同情であるが。

「了解です。要は俺が読まれないように努力すればいいだけのことでしょう」

「理解が早い男は好きだぞ」

「どうも」

性格はかなり嗜虐性を多分に含んだ快楽主義であるが、見た目はアイドルだろうが女優だろうが裸足で逃げ出すほどの美人だ。

形式でも好きだと言われれば少しは気分が良くなる。

「さて次郎、本題だ。立場上仲良くしろと言わなければならないがそれは人間側の都合だ。私は自分の怒りを、理不尽に抑え込んで仲良しこよしをしろとは言わん。ただ、面倒を起こさず実績を残せ」

そして監督官はカチリとスイッチを切り替えるように真面目な顔つきになり言い放ってきた。

「それ、問題を起こした人間にかける言葉じゃないですよね?」

「ふん、できない奴に私は言わん。それに、みんなで仲良く一緒になんて青臭いだけの表面で馴れ合っているだけだ。人間は綺麗事で仲間意識を持とうとするが、私からしたらそんな集団意識は吐き気を催す唾棄すべき対象でしかない」

うちの監督官は白っぽいものがお気に召さないらしい。

友情・努力・勝利の少年誌お約束である三原則の内、二角を真っ向から否定してきた。

「いいか次郎覚えておけ。私は人間という種族を腐るほど見てきた。欲深い者、清廉な者、賢き者、愚かな者、貴様ら人間は変わらない、個々の意識が違うだけで何も変わらない。我々は悪で、我々を滅ぼし得る武器を片手に振り上げ大義名分を掲げて振り下ろしてくる。欲に素直になり俺は悪くない。自分は正しいと信じ私は悪くない。全ては敵が悪い。相手が悪い。正義は我にありとな。随分な正義もあったものだ」

心底嫌悪するように吐き捨てるエヴィア監督官の言葉にそれほどショックは受けなかった。

人との関係とはそんなものだ。

信じたいものだけを信じて、都合の悪いものは目をそらすか拒絶する。

希に汚いものを見ても平気でいられるような関係も存在するが、そんなものはごく一部で大多数は浅くほどほどの距離というのを保って付き合っているだろう。

「そんなものを見てきた私にどうやって笑顔で仲間だから仲良く連携していけと言えと?」

監督官にとってそれは青臭い馴れ合いにしか見えないのだ。

それを理解も納得もできる俺はといえば

「その通りで正論ではあるのですが、人間の俺にそれを言いますかね?」

反応に困るしかない。

「これでも区別はつく方でな。私にとって人間である前に貴様は田中次郎という存在だ。特例の存在くらいつくるさ。他がそうなるかは知らん。奴らの努力次第だ」

暗に貴様ならやれると言われて悪い気はしない。

それもこの人の手の内だと分かっていたとしてもだ。

「弄る対象として?」

「フ」

「いえ、言わなくて結構です」

言われなくてもその表情を見ればわかります。

ええ、実に楽しそうな表情をしておりますね。

「それにな次郎、魔王様の命令と言えど本来であれば私のダンジョンに人間を招くなど虫唾が走る思いでしかなかったのだ。しかし掘り出し物がいて存外楽しめて私は満足しているのだ」

掘り出し物というのは自惚れて考えれば俺のことだろう。

上司から気に入られるのはいいことだ。

しかし

「ちょっと待ってください監督官、今なんて? この会社がダンジョン?」

いい雰囲気で話しているところに水をさして申し訳ないが、今、この悪魔はさらりととんでもないことを言ってのけたような気がする。

「なんだ、気づいていなかったのか。いや、魔力に慣れさせるために濃度は若干薄めにしているせいで気づかなかったか……この会社の建物自体私のダンジョンだ。でなければ他のダンジョンにつながるゲートを備えるどころか魔力がない世界に限定的とは言え魔力を充満させることなどできるわけがない」

「ああ」

どうしよう、漏れてきた言葉から察せるかもしれないが、地球上に気づけばダンジョンが作られていた件に関して半ばこの会社なら仕方ないと納得している自分がいる。

それに思い返してみれば、確かにこの会社は大きいが物理学上おかしいくらい屋内に広大な面積を誇る施設がいくつか存在している。

訓練室然り、地下の商業施設然りだ。

説明された内容も言われれば確かのそうだと納得できるもの。

「となると、この会社の建物にも」

「ああ、ダンジョンコアが存在する。それを破壊されれば私も存在を保てなくなり消滅するな」

「いいんですか? 言って」

「構わん、機密ではあるが早々どうにかなるような場所に設置はしていない。仮にもダンジョンと呼ばれる存在だ。それなりの防備は備えてある。どうせなら次郎、警備チェックの名目に私のダンジョンに挑んで私を敵に回してみるか? 今なら他の将軍もついてくるぞ?」

「これ以上仕事を増やすのは御免なので遠慮しておきます」

自分でも素早い切り返しだったと思う。

エヴィア監督官が作ったダンジョンなどエクストラステージ的な裏ボスが潜んでいてもおかしくない。

オーソドックス?なダンジョンでも手こずっているのだ。

死に戻りでのレベリングすらできない環境など御免被る。

「そうか、公爵の奴が暇を持て余していると聞いたからちょうどいいと思ったのだが、残念だ」

「そのままその公爵様には暇を持て余し続けていただいてもらっていて下さい」

公爵って、上から早いくらいに上位の爵位だったはずだ。

悪魔で公爵、強さの次元が違うのが目に見えてよくわかる。

「つれないな。さて、脇にそれたが概ねこちらの対応は静観だ。改善案としてあの男には求人チラシを渡してやったがそれだけだ。それ以上のことは関与しない少なくとも私はな。それを聞いてお前はどうする?」

「無視一択、それしかないですね」

「ほう? 何故だ?」

「心境的には面倒だってのが大半を占めますが、あえて理屈を出すなら関わって損をするのが目に見えている。というのはどうでしょう?」

「続けろ」

腕を組んで椅子の背もたれに寄りかかり先を促してくる。

「俺は天狗の鼻柱を折った張本人、仮にもそんな存在が仲良くしましょうと近寄ってきても向こうは俺を下に見て使い潰そうっていう発想しか湧かない。いや先に排除しようという思考の方が来る。背後から襲われるのはゴメンですから、仕事だけの関係ビジネスパートナーという関係も今の段階では無理でしょう。見る限り目先の利益しか見えないタイプですし。だったら互いに無かったことにする。あるいは無いものとして距離を取る。それが一番利になる」

臭い物に蓋、その場しのぎでしかない行動ではあるが現状打てる手など限られてくる。

その中でベストではないがベターの手を打つ。

「つまらんな」

「バッサリ切り捨てますねぇ」

「ふん、組織をまとめる立場からすれば貴様の言っていることは間違いではない。だが、私の好みではない」

好みって趣味嗜好が出てき始めたことに苦笑を浮かべそうになるが、監督官が背もたれから離れたと思うと襟元を掴まれグッと引き寄せられた。

「潰せ」

「は?」

一瞬ドキリと心臓が高鳴るような距離、キスができるような距離で何やら物騒なことを言われた。

当然、ときめくはずの心臓は別の意味で高鳴り始めた。

「貴様は悔しくはないのか? 周りからの貴様の評価は底辺の底辺だ。ランキングの方などどこも大差ないような成果で一喜一憂して滑稽を通り越して最近では何も思わなくさせてしまった輩に侮られて何も思わんのか?」

「さて、どうでもいいですよ」

心底そう思うように俺は吐き出す。

実際そう思っている。

俺は事なかれ主義、面倒なことは

「悪魔を嘗めるなよ」

嫌いだと続けることはできなかった。

「嘘は通じない。そう言ったはずだ。気に入らない。偽りを是とする今の貴様は気に入らない」

やばい、どうやら特大の地雷を踏み抜いてしまったらしい。

狂気を宿した冷徹な意志が俺の目を貫いた。

一瞬で体が強ばる。

動けない、金縛りなんて生易しいものではない。

まるで命を握り締められたかのように、痛みはないのに寒々とした何かに体が縛り付けられている。

指一本、それこそ瞬きすら許されない。

「ここに居る人間共の経歴はすべて洗い出した。他の奴は大して面白みも何もない経歴の持ち主だったよ。人間で言うエリートも私にとっては道端の小石と大差ない。だがお前は違う、違うだろう?」

狂気を宿した笑みとはこのことだろうか。

実に楽しそうに俺の過去をズカズカと土足で踏み込んでくる。

「お前は潰せる人間だった。ヤったのだろう? 人を一人、潰してみせただろう?」

取り繕うこと、それは人間なら誰しも行う社会での処世術だ。

だがこの悪魔はそれを許さない。

取り繕った俺が醜く見え、中身にある自分好みの俺だとわかっているが故に手加減がない。

俺がどういった人間なのか晒け出させようとしている。

「貴様はなぜそこまで窮屈な思いをして己を押し殺す? さらけ出すのが怖いと思っているのか? いや違うな、怖いなどと微塵も思っていない。貴様は知っているはずだ、それは恐怖の対象ではないことを、理性で制御し感情で振るえる使い勝手が良すぎる刃物だと。他者を傷つけ、己の脅威を取り除き、畏怖を植え付ける刃だ」

「そこまで、大したものではないですよ」

まるで伝説に出てくる名剣だ。

だが、それに反して俺がやったことといえば恐らくあれのことだろう。

よく言えば下剋上、悪く言えば窮鼠猫を噛む。

前の会社で入社してから三年、仕事に慣れようやく一人で仕事ができるようになった頃に降って湧いた泉のように仕事があふれかえった時期があった。

会社の社員という社員は百二十パーセントを通り越してオーバーヒートを起こしそうな勢いで仕事が回り、ストレスがピークに達しそうな時それは起こった。

まぁ、仰々しく書いているが起こったことなど単純だ。

無能が空気を読めていなかっただけだ。

忙しく些細なミスを指摘せず各部署でフォローし合うという暗黙のルールでぎりぎり回していた歯車を、あの上司はねちっこく小さな傷をえぐってきて歪めただけだ。

その対象がたまたま目に付いた俺なだけであって、堪忍袋などとうの昔に張り詰めていた俺は容易にその袋を破裂させた。

切れた俺は一気に頭が冷え込み、脳のリミッターが外れたかのようにいつも以上に頭を働かせた。

これを故意でやってみせたのならあの上司はすごいのだろうが、得意げな顔で何をやっているのだと会社に貢献している云々をドヤ顔で説教している時点でその可能性はない。

俺の頭の中はいかに効率よく仕事をやり遂げかつこの上司を蹴落とせるかに特化した。

次から次へと過去の不満を今の怒りへ変換し、相手の立場を消し去ることを考え続けた。

人間とは根源にあるものは別としても、暗躍する生き物だ。

最も身近なものを挙げればサプライズパーティが良い例だろう。

悪い例で言えば、こうやって俺がやった上司を蹴落す暗躍だ。

感情で抑え込んでいた百二十パーセントの稼働率を理性で制御し怒りを動力にした俺は二百パーセントの稼働率をたたき出してみせた。

一つ一つ丁寧に仕事を奪い取り、いずれあの上司はただ椅子に座る置物にしてみせると黒い感情に従って行動し続けた。

「随分と懐かしいことを持ち出しますね」

結果は、あの席は今は別の人が座っていると言えばわかるだろう。

「貴様が腑抜けているからだ。私のせいではない」

あの時の感覚を思い起こさせられ、かろうじて動き始めた寒気を催す体で絞り出すように出した声など当然力など篭らない。

弱々しい声を他人の声のように聴きながら、埃のかぶった俺の一部を見つめる。

「謙虚なのはこの国の特質らしいが、私からしてみれば皮肉にしかなっていない」

自己評価ほどあてにならないものはない。

過剰にも過小にも変化する評価の中で、監督官が指す俺の性格の一部は俺の中では間違いなく低く評価している。

「いいか、さっき貴様は大したものではないと言ったが違うぞ、貴様の持っているものは大したモノだ。次郎、貴様の持っているそれはな、野心というのだ」

埃を払われて姿を現したモノ。

「人は野心と聞けば悪いモノであると言うがそれは違う。そういった要素もあるが、反面野心というのは己を高めるために必要な原動力でもある。どうすれば上にいる奴を蹴落とし、己の立場を確立することができるか。それを埋もれさせるのは些か勿体ない」

それを愛おしげに監督官は引っ張り出してきた。

「磨け、それができる人間だよお前は」

「利己的な人間は嫌いなのでは?」

「特例が何を言う、私は悪魔だ。悪魔は人の発展と堕落を見守り続けていた。時に手を貸し時に助言し、関与してきた存在だ。久しぶりに見つけた興味となり得る存在を私が手放すものか」

掴んだ襟元をゆっくりと手放し、見せていた狂気がゆっくりと静かに消え去っていく。

「貴様の結果は私が見届けてやる。堕ちるか昇るか楽しみにさせてもらう」

「直訳すると?」

「つまらん男になったら楽しみにしておけ。私が楽しませる男に仕立て上げてやる」

「直球過ぎますねぇ」

なぜここまで期待されるのか、それほどまでに俺に価値があるのか勘違いしそうになる。

だが、そこまで言われれば前言くらいは翻して撤回する気くらいにはなる。

「ふん、もう少しマシな面になれ」

「手厳しい」

「何を言う、私にとってはまだ甘いほうだ」

評価が辛い。

自分なりに少しはマシにしたつもりであったが、変化に気づいてもらったがまだまだ足りなかったようだ。

「少し時間をかけすぎたな、私は行く。貴様はせいぜい体を休めて今後の対応を考えろ」

そんな俺など歯牙にもかけず、終わりを告げる監督官。

「そうさせてもらいますよ」

用件が終わればすっと立ち上がりさっさと出ていった。

俺の心境に多大な波紋を残しながら、部屋にいた痕跡を残さない女性である。

「どうするかねぇ」

そして静かになった空間で自然と手にするのは最近では禁煙という文字すら消え失せた愛煙だ。

意外かもしれないがここの会社では分煙という世間一般では当たり前になっているものが存在しない。

吐き出された煙はあっという間に魔力に飲まれ消え去ってしまう。

どういった仕組みかは知らないが、さきほど知った事実ここがダンジョンであるなら、空気の浄化くらいの機能はありそうだ。

あとは吸い終わったタバコと灰だけ気にすればいいから気軽にどこでも吸えたりする。

さすがに人前では気をつけたりするが、愛煙家にとってはたまらない会社だ。

「……無視が一番気楽なんだがなぁ」

そして煙を吸いながらゆっくりと考えるのは、ほかのテスターとの関係性だ。

最初は年の差からくる価値観の違いで擦れて、拗れて、湾曲して今では半ば派閥争いまで発展してしまっている。

考えて真っ先に思いつくのは現状維持、いや現状無視か。

飛んでいる羽虫に気づかないように、あいつらをなかったものとすればしばらくは持つだろう。

その間に解決策を考える。

それがベターであったが、監督官に釘を刺されてしまってはベストを尽くすしかない。

「舐められないようにするのが一番かねぇ?」

昨日を振り返れば、あからさまに格下として扱われた。

相手方からすれば序列が決まり、俺は底辺の存在となる。

「価値観を変えるのが一番面倒なんだぞ?」

考えれば解決策などあっという間に思いつく。

弱肉強食、その定理が存在するこの会社であれば業績優秀者、強者こそ正しいということになる。

しかし逆にシンプルだからこそ覆すのが面倒になる。

「まぁ、海堂や新しく来る人員のことを考えたらここらで手を打つのがベストか」

そして、改善点を見つければ次は解決策を考えなければならない。

「そうなると……ぱっと思いつくのはあれしかないなぁ」

モヤモヤとした感覚も残っているから丁度いいといえば丁度いい。

最近伸び悩んでいるからここらで一辺、初心にかえるのも悪手ではないだろう。

「……気が進まないが、やると言った以上やるしかないかぁ」

一服が終わる頃には出る結論に渋々ながら納得し、重い腰を上げる。

休日に呼び出されているがまだ昼前だ。

行動を起こすには十分な時間がある。

「今を生きろってかね?」

明日やると宣言しても何割かの人間はやらない。

やるなら今だと行動してみせた人間の方が評価される。

会議室から出ていった俺の向かう先は自室、そのあとの予定を考えて肩をほぐしながら歩くのであった。



Another side


「で? どういった心境の変化だ次郎」

「っぐ、いや初心にかえろうと思いましてねぇ!!」

軽く小突くように振るった攻撃を受けて俺の腕を吹き飛ばそうとしてくる。

それは子供が大人に挑んでくるような力ではある。

鬼である俺と人間である次郎の肉体能力ステータスの差もあって当然の帰結であるが、確実にコイツは強くなっている。

巨人族が作った俺の魔力にも耐えられる柔らかい剣、次郎の言うチャンバラソードは今日も軽快に俺の腕から放たれあいつの武器鉱樹を弾き飛ばす。

「メェイヤァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「いい武器を手に入れたじゃねぇか」

スエラに呼ばれて来てみれば、訓練をつけてくれと頭を下げる次郎が待機していた。

ちょうど暇を持て余していたところだった。

ならば良しと訓練所でこうやって打ち合ってみれば、コイツの成長具合には驚かさせられる。

「カハ」

そして楽しくなる。

俺の悪い癖だ。

だが、鬼の性でもある。

こういった気概を持つ人間が俺たち鬼は大好物だ。

目の前の男は何度も何度も吹き飛ばされ、這いつくばらせられ、致命傷を避けるように攻撃をしているが痛みは別のはずだ。

抗ってくる。

挑んでくる。

負けるものかと踏ん張ってくる。

鬼というのは真っ正直な奴が大好きだ。

不器用な奴が大好きだ。

こうやってまっすぐ向かってくる奴が大好きだ。

それが強者であれ弱者であれ関係ない。

この俺、鬼王ライドウがこのひねくれていてもまっすぐな男を気に入っている事実には変わりはない。

「ホレホレ!! 攻撃の速度が落ちてきているぞ!!」

「二時間も振り回していれば疲れてくるでしょうがァ!!」

こうやって挑発してやれば気合で動いてくる。

最初よりも更に加速して今日一番の速度で接近してくる刃を魔力で保護してやっているチャンバラソードで受け止めてやる。

「ははははは!! そんなじゃ俺に攻撃を当てるなんていつになるんだ?」

「当ててやるよ!!!!」

「言ったなぁ!!」

コイツの振るってくる攻撃など止まっているように見える。

当たってやる方が難しい。

だが、不思議だ。

こいつなら本当に当ててくるんじゃないかと期待している俺がいる。

「っと、今のは惜しかったぞ?? んぅ?」

「余裕で避けている奴のセリフじゃねぇぞぉ!!」

戦っている最中だからだろう。

形振り構わず、声を荒らげるコイツの気合は浴びてて心地よい。

最初こいつとあった時の俺は、小突いたら砕けてしまうようなもろいやつだと思っていた。

実際、軽く小突いただけで死にかけやがった。

それで終わりだと思った。

立ち上がれないだろうと、それが人間だと笑いながら見下していた。

だから、治療されてムクリと起き上がった時は素直に驚いた。

そしてまた挑んできたと思えば笑うしかない。

殺しかけたのは数えるだけで三桁は超えた。

だがその度にこいつは起き上がってきやがった。

「上! 右! 上! そしてまた右!!」

「余裕ですねぇ!!」

「お前よりは強いからなぁ!!」

そしてコイツは強くなっている。

倒されて起き上がり、倒そうとしたら少し、俺からすれば気のせいだと勘違いしそうになるほど僅かに倒しにくくなっていた。

ノーライフの野郎は魂がだんだんと磨かれていると言って笑っていたが、確かにそうかもしれない。

綺麗じゃない。

宝石のような輝きをこいつは確かに持っていない。

そこら辺に転がっている石ころを同じ石で打ち鳴らし磨いていったように荒削りだが、ギラギラとした眼が段々と鋭くなり惹きつける何かを確実にコイツは持っている。

「今度は無手か!!」

それを証明するかのようにコイツは生粋の戦闘者ファイターだ。

戦闘中のリスクとリターンを計算できるくらいに頭が柔らかい。

実際メインの大剣、鉱樹をあっさりと手放しやがった。

打ち払ったとき僅かな抵抗の違和感、さっきまでなら踏ん張るように体が強張っていたはずなのだが、それがない。

武器を手放すリスクを背負っても俺を打倒しに来た。

横に振り切った腕を掴むように伸びる手、それを敢えて握らせてやる。

手慣れている。

型にはまった動きじゃない。

実戦で培った動きだ。

猿のように飛び、蛇のように絡まり、狼のように襲ってくる。

獣と人間を合わせ持つその動きに鬼の血が疼く。

「ああああああああああああああああ!!」

「だが! 今は一昨日きやがれってな!!」

全力で打倒したいと疼く血を静めるために俺の顔を狙っていた次郎の足を掴み取り、地面に叩きつけてやった。

最初とは違う明らかな成長。

「おお、意識がありやがる」

「だったら、もう少し手加減してくださいよ。肋骨あたりにヒビが入ってますよこれ」

「楽しくてついな?」

最初なら罅程度ではすまなかったのに受身も格段にうまくなりダメージを減らしている。

「ついで死にかけていたら命がいくつあっても足りませんって……ポーションまずい」

「ガハハ!!いいじゃねぇか強くなっている証拠だ!!」

その成長がたまらなく嬉しくて楽しい。

俺の首に着実に刃が迫っているという事実に俺は喜びを感じている。

「本当ですかねぇ、さっきのは当たると思ったんだけどなぁ」

「あれを当てる気なら、あの百倍の速さが必要だな」

「……バグってる。この教官バグってる」

「早く殺し合えるようになってくれよ?」

「たった十七文字なのになんでここまで無茶振りができるのだろうかこの教官は」

楽しませるお前が悪いと言いたいが、そこはあえて言わない。

鬼というのは試練を与えるのが大好きな生き物なのだから。

強くなるとわかっている奴が目の前にいるのならなおさらだ。

その中でも俺は一風変わっている。

強い奴と戦うためなら、強くなる可能性があるやつに手を貸してもいいと思っている。

そんな奴が、目の前で悩んでいるなら話くらい聞いてやる。

「で? 何を悩んでやがる」

「あ~、結論から言えば強くなる方法、ですかね?」

「それで俺を呼んだわけか」

「実は――」

次の打ち合いまでの休憩がてら話を聞けば、おうおう、どうやらエヴィアの奴は相当コイツのことを気に入ってやがるな。

エヴィアに活を入れられて行動を起こすこいつだからこそ、俺やノーライフそしてエヴィアはついぞ手を貸してやりたくなる。

「ああ、それはお前が悪いな」

「ですかね?」

「ああ、俺だったら舐めてきたやつは八つ裂きにしてる。やられたらやり返せ、腑抜けている奴から食われるぞ?」

「向こうの世界ってそこまで殺伐としているのですかね?」

「こっちと違って年がら年中争いが絶えないからな。舐められたらすぐにこれよ」

首を切るような仕草を見せてやれば、次郎は僅かに顔をしかめてみせる。

「となると、俺たちは相当の甘ちゃんということになりますかねぇ?」

「否定はしないぜ。さっきの攻撃も俺からすれば殺気がこもっていないのと同じだ。もう少し気を張れよ。そうすれば届くかもしれないぜ?」

「精進します」

「まぁ、あいつエヴィアが殺気立ったのには違う理由もあるだろうがな」

「え?」

言うか言わないか悩む必要もない。

俺の判断基準は、強い奴と戦えるか戦えないかだ。

すなわち、コイツの糧となるかならないかだ。

だから、エヴィアが言わなかったことを今から口にする。

「あいつは落ちこぼれだったんだよ」

「は? え? うーん、少し時間をください」

「気持ちはわかるぜ」

誰から見てもエリートにしか見えないエヴィア、それを聞いて驚かなかっただけでもコイツは器量がでかい。

「俺はこれでも古株でな、あいつが今の立場になる前は下級の悪魔だったことも知っている」

「……想像できない」

「だろうな。それほど努力してきたってことだよ」

悪魔って種族は上下関係が厳しい。

鬼もそれなりに厳しいがこっちは強い奴が上だと明確に決まっている。

だがあいつらは違う。

爵位やら貴族やら面倒くさい階級がある。

安易に下のやつらが上に行けないような仕組みがこさえてある。

「当然、上から舐められて見下された経験なんて次郎なんて目じゃないくらい経験してるだろうよ。妬み、恨み。悪魔なら当たり前の世界でさらに劣悪な環境で育って伸し上がったあいつのことだ。自分と境遇が似ていると思ったんだろうよ?」

「いや、どう頑張っても俺の方が甘甘でしょう。なんですか、その昼ドラも真っ青なドロドロした社会構成での成り上がりは」

俺と向き合って戦って何度も死にかかっている時点で何を言っているか。

次郎は確かに恵まれている。

だが、その分の努力と苦しみを背負っている。

スエラという補佐も付き俺とノーライフという将軍を味方につけている。

だが、俺たちの理想に無意識だろうが応えようと体を行使している。

それはコイツ自身が掴み取った結果だ。

何度も転げまわって傷だらけになって掴み取った結果だ。

研修を途中で投げ出していたら俺はコイツに見切りをつけていた。

中間研修でも、コイツ一人が残りエヴィアの目に留まった。

そしておそらく大将にもだ。

努力の上でコイツは今の立場をもぎ取ってきたのだ。

「そう思うなら、もう休憩はいらねぇよなぁ?」

「やば、ヤブヘビだった」

「ちったぁ、強くなったようだし?俺もいい加減こんな玩具じゃなくてまともな武器を使うか」

「死にますからそこは勘弁してください」

「ガハハハハハ!! 冗談だよ!! 冗談!!」

俺の持っているコイツチャンバラブレードは俺の魔力で守られていて、鉄に切られても傷すらつかない。それなのに、コイツの表面はたった二時間打ち合っただけなのにうっすらとした傷がそこら中についている。

少なくとも、研修を始めた時にはできなかった芸当だ。

本当にコイツの将来が楽しみだ。

楽しみだったのだが

「やべぇ、やりすぎた」

有り体に言えばボロ雑巾だ。

あれから三時間、思った以上にやる気を出した次郎に俺もついつい応えたくなってはしゃいだ結果がこれだ。

直撃はさせなかったが、精神をすり減らす攻撃は結構したと思う。

「見つかる前に治しちまえば」

「手遅れだ」

気配は感じなかったが、魔力は感じた。わざわざ転移魔法で来るとはご苦労なことだ。

「っと、エヴィア来たのかよ」

「ここは私の体内ダンジョンだ。貴様がコイツに余計なことを言っているものでな。監督者として見に来てやったぞ」

「なんだよ、邪魔しなかったってことは言っても問題ないってことだろう?」

「戯け、私は貴様と違って忙しい。一々訂正している暇などない」

「の割には、こうやって来てるじゃねぇかっと、おお、おっかねぇ」

無言で飛ばしてきた魔法を避けてやれば不機嫌そうな顔は更に険しくなる。

「何故言ったライドウ」

何がと聞く必要はない。

ここはエヴィアの体内ダンジョン。ここでの行動はすべてエヴィアに知られる。

「なんだ、気に入ったからあそこまで世話を焼いたんじゃなかったのか?」

わかりきったことを聞き返す回りくどい無駄な手間をかける趣味は無い。

なので素直に答えてやる。

「ふん、どけ。治療の邪魔だ」

「なんだ、否定しないのか?」

「昔からの顔なじみに何を言っても無駄だ」

「俺個人としては、昔馴染みがなんで気にかけているか詳しく知りたいのだがな」

「貴様に言う必要があるのか?」

膝を突き魔力を操作する姿を眺めながら話を続ける。

「ない。だが気になる」

「貴様ら鬼は身勝手だ」

「ガハハハハ!! よく言われる」

「……っち、勝手に想像していろ」

「拗ねるな拗ねるな!! 幼い頃世話してやった仲ではないか!!」

「いつの時代の話をしている」

「さてな、お前が新参のころの話をしているつもりだ。ちょうどそこの次郎のようにズタボロになったお前のな、っと、昔話くらい流せ」

食らっても大差ない魔弾を指で弾いてやる。

こちらに見向きもしないで治療の傍らで魔法を放つなど図星を突かれた時の癖だ。

本当に昔と変わらない。

「ふん、骨のある奴が貴様に潰されることが気に食わないから来ただけだ」

「カカカ、そういうことにしておこう」

その割にタイミングが良すぎたことについては触れないでおこう。

「あとは医務室に放り込んでおけ」

「なんだ、もう行くのか?」

「言っただろう。私も仕事が忙しい。どこぞのバカが余計な仕事ばかり増やしてくれたおかげでな」

おうおう、そのバカには心の底から同情してやろう。

ああやって口元だけ笑って目が笑っていない時の相手側の末路など大抵ロクなものじゃない。

コイツは根に持ち、磨り潰して無惨に散っても尚こき使うような女だ。

クワバラクワバラ、だから婚期をのが

「何も言ってないだろう?」

「そのニヤケ面が気に食わなかっただけだ」

今度は実体を持った魔法を使ってきた。

手の先でひんやりと冷たい氷の槍をへし折ってやる。

「無駄に頑丈な体だな」

「悪魔も似たようなものだろう?」

「ふん」

そこらの鬼なら突き刺さった瞬間に一瞬で凍りつき、砕け散るような魔法を放っておきながら次郎を一瞥してきた時と同じように転移魔法で立ち去っていった。

「カハ、楽しくなってきた。これだから生は良いものだ」

昔馴染みだからこそわかることは多い。

そして、あの態度は……いや敢えて言うまい。

「待ち受けている多難に免じて運んでやるとするか」

今日のお遊びはここまでとして、次郎を運んだらノーライフのところに飲みに行くとするか。

「ツマミは持参するんだ、いい酒を飲ませてくれよ?」



Another side END



キオ教官(本名 ライドウ)年齢不明 既婚 妻二人子供四人

職業 七将軍兼教官

魔力適性八(将軍クラス)

役職 侍


ステータス

Secretシークレット


今日の一言

カハ、他人の修羅場ほど酒のつまみにちょうどいいものはない。

辛く、酒によく合うんだ。

俺の経験談だ。間違いねぇ。


はい、パーティは増やしませんでしたが、ヒロインを増やしてみました。

いかがでしょう?こういった不器用な世話好きのクールなキャラは割と作者テキに好きなジャンルなのですが。

次回あたりはパーティ(仮)を結成したいと思います。

これからも、勇者が攻略できないダンジョンを作ろう!!をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
主人公のランキングが低い理由がよく分からないからもやもやする。 相手はパーティーを組んでいるとは言っても、現在の描写では全く強さを感じられない。せめて、他のパーティーは主人公よりも攻略できているとか、…
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