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144 意外なアイディアが活路になる・・・・・時もある

 前衛がモテる。

 海堂の言葉を頭の中で繰り返す。

 確かに俺は会社に入ってからスエラとメモリア、そして最近ならヒミクと何かと女性と縁があるのは事実だ。

 それを他者から見ればモテると言われても仕方がない

 だから俺に関しては否定する気にはならないが、かと言ってイコール前衛がモテるかと言われればどうなのだろうと疑問に思う。


「海堂、自分のことを棚に上げて言うのはどうかと思うが」

「お、俺のことはいいっす!! ほら! あの火澄とか言う奴もモテるじゃないっすか!! 確率三分の二、六十六パーセント! かなりの確率っすよ!」

「いや、検証例が少なすぎるぞって、どうしたスエラなにか考え込んで」

「いえ、海堂さんの言っていることを考えていまして、戦闘能力や活躍方面といったケースから異性に好意を持たれる傾向というのは考えたことがありませんでしたので、それを勧誘に使うというのは考えたことがありませんでした」

「そりゃそうだな、使ったら使ったで怪しい勧誘になるわ。それに剣士だから好きだって言ったら例外を除いて男どもは全員剣士になるぞ?」

「そうっすね、俺だったら間違いなく魔法を捨てるっす」

「お前ならなぁ」


 海堂の話はさすがに突拍子すぎてそのあとの自虐含め苦笑が漏れてしまう。

 だが、スエラがその話に対し思いのほか真面目に受け取ってしまったようだ。

 第一期生の職種の偏りを気にしていたスエラがどういった方法で説得に回っていたかは、付き合い始めてから度々耳にしていたが、その方法は金銭あるいは装備等の援助関連の話がメインだったはず。

 確かに恋愛といった関連のアプローチ法は試していなかった。

 それもそうだ。

 前衛になれば異性にモテる! なんて謳い文句の書かれた紙が真面目に勧誘しているリストの中に紛れ込んだら確かに異色ではあるが胡散臭いと思うのが先だろう。


「ですが、しっかりとした統計データがあれば話は変わりませんか?」

「いや、たしかにそうだが、本気なのか?」

「私だけの見解かもしれませんが、日本と私たちの世界の女性の異性への価値観というのはだいぶ違うと思うんですよ」

「そうかもな、なにせ異世界だからな」


 そんな内容をスエラは真剣に考え始めた。

 異性への価値観、それはすなわちどういったところに魅力を感じるかという話になる。

 女性からの視点は男である俺からすれば細かいところまではわからない。

 給料がいい、顔がいい、性格がいい、大まかな共通点といえばこれくらいだろう。

 要は、財力、容姿、人間性誰もが意識する点だ。

 細かいところを言えば、外国人がいいとかそういった方面もあるだろうが人の好みは十人十色。

 それこそ人が変われば異性への好みなど変わる。

 ましてや世界が変われば俺の知らない異性への価値観が出てくるかもしれない。

 それこそウロコの輝きとか言われても俺には理解が及ばない。


「そういえばこの会社に入ったとき強ければモテるって先輩言ってたっすけど本当っすかスエラさん」

「そうですね、次郎さんの言っていることは間違いではありませんよ。貴族の方々でも強さ、戦う力は一種のステータスになっていますし。一般の方々ですと野生の魔物と隣り合わせで生活していますので、やはり守ってくれる男性の強さは女性から見れば魅力的に見えますよ」

「本当だった!?」


 その中で既に俺たち現代人には廃れたステータス、戦闘能力というのが一番目立つだろう。

 現代において、腕っ節の強さはそれこそプロボクサーとかの拳で飯を食っているような職種や自衛隊や警察といった特殊な職業でない限り必要にはならない。

 クマが出れば猟友会が、犯罪者が出れば警察が、仮に防衛のためとは言え力を振るえば注意を受ける現代社会。

 現代の日本で力というのは経済力や影響力を指すのだ。

 そこに物理的な強さはあまり入らない。

 当然、日本で俺は喧嘩が強いと豪語してモテるなんていう話はごく一部で、一過性の代物だろう。

 だが、スエラたちの世界では戦闘力というのは一種のステータスになる。

 環境ゆえ必要だから続いてきたのだろう。

 日本とは違い、危険と隣り合わせ、ダンジョンといった産業が成り立っているという段階で、戦闘力イコール経済力という等式が成立する。


「スエラさんはやっぱり先輩の強さに惹かれたんっすか!?」

「それはまぁ、ないとは言えませんし、どちらかといえばありますけど、それだけじゃ」

「変なことを聞くなアホ」

「へぶ!?」


 いきなりの海堂の質問に照れて、何か変なことまで話しそうなスエラを止めるべく、暴走しかけた海堂にチョップを放ち話の修正にかかる。

 照れているスエラをほかに見せたくないという独占欲は黙っておく。

 ほかのやつらならともかく海堂なら気づかないだろう。


「それで? 強さに惹かれるってのは聞いたことはあったが、だからと言って前衛だけモテるっていうのは筋が通らないだろう? 魔法使いや弓使いといった後衛でも強い奴は強い」

「たしかに一部の強者を見ればそういう異性にモテる方は多くいますが、全体をそれも平均的な強さのあたりを見ればそうでもないですよ」

「?」


 話の流れ的に強い奴イコール魅力的というスエラたちの世界の女性の恋愛観がわかったが、だからと言って前衛イコール魅力的というのはまだ等式が成り立たない。

 そんな俺の疑問をやんわりとスエラは否定する。


「先入観、いえこの場合は第一印象といえばいいでしょうか。次郎さんに一つ質問をしましょう。剣士と魔法使いどちらが強いと思いますか?」

「? 場合によるんじゃないか、実力の差もあるだろうし間合いの位置取りにもよる。職種によって強いかまでは決められないな」

「はい、では質問を変えましょう。剣士と魔法使いどっちが守りに長けているでしょう」

「それもっ、ああそういうことか」

「はい、総合的な話になりますが、魔法使いと剣士、攻撃力が上がりやすいのは魔法使いですが個人の防御力は剣士の方が前衛で働く分上がりやすいので、自然と守りに長けるのは剣士ということになります」


 もちろん個人差がありますがとスエラは付け加え、さらに話を進める。

 なんとなくスエラの言いたいことがわかった俺は答え合わせも兼ねて黙って話を促す。


「魔法使いはその性質上熟練者でない限り誰かに守ってもらうことが前提になります。これは後衛職全体にも言えることですね。ですが逆に剣士といった前衛職は守られるよりも守る側です。なので、守るよりも守られたいと思う女性は多いので同じ強さで性格や容姿に差がないのであれば前衛職の方が人気です」

「マジっすか!?」


 これはあくまで総合的な話だろうが、海堂は適当に提案した話がもしかしたら有効なのではという話になっている。

 俺に殴られた部分を抑えながらいけるかもという希望に目を輝かせる海堂に対して、俺はこの要素は使えるかもしれないと参考程度に留めているものの。

 このネタは使えるかもしれないという事実は揺るがない。


「これは少し調査が必要かもしれませんね」

「調査って、何をするんだ?」

「社内の女性職員にアンケートをするだけですよ」


 だが、事は思ったよりも大きくなっている。

 可能性の段階であってもスエラの中では現実的な可能性で有効ではないかと結論が出始めている。

 行動力のあるスエラが実行に起こせば、おそらく一週間以内にはそのアンケートは実行されるだろう。

 その結果が気にならないといえば嘘になる。

 そして、もし仮にスエラの話が主流で、その話を聞いた現テスターたちがこの話を耳にしたらどういった反応をするかという点も気になるところではあるが……


「そこまでする必要があるのか?」

「テスターのやる気を出させるのも私の仕事ですから。言わば業務の一環です」


 男の本能にそこまで期待していいのかと疑問を挟むも、スエラがやる気になっている。

 そこまで言うのなら俺から言うことはないし、役に立ったのなら満足とも言える。


「そうなると早めに動いたほうがよさそうですね。すみません次郎さん、私は仕事に戻りますね」

「無理はするなよ」

「はい、では失礼します」


 新しいアイディアを早く形にしたいのか、迅速に笑顔で仕事に戻っていくスエラを見送り、俺は一服するべくタバコに火を付ける。


「先輩先輩! 聞いたっすか!? 前衛の方がモテる! これイケルっすよ!」

「落ち着け海堂、まだ本格的に決まったわけじゃないだろう」


 わずかに部屋に静寂が満たした数秒後、紫煙を揺らす俺に向けて海堂は詰め寄ってきた。

 我が世の春が来たと言わんばかりに興奮する海堂をたしなめながら、さっきの話を俺は俺で考える。

 PVの中に組み込むのは難しいかもしれないが、体験談として触れる程度なら問題ないのではと打算的な思考が出てきた。

 それで勧誘できるのなら儲けものだ。

 おまけにこの話を聞いてから海堂のやる気も倍増した。

 いつもなら迅速に仕事に戻らない海堂が、今回ばかりは早く仕事をしようと過去類に見ないほどのやる気を見せている。

 そんな海堂に水を差すつもりもなく、スエラが来てくれたおかげで俺のやる気も回復したので素直に仕事を再開する。

 新しいアイディアを考慮して俺と海堂はPVの話を進める。

 さっきよりも指の進みがいいのは、多少なりとも不安が払拭され解決策が提示されたからだろう。

 トントン拍子とまではいかないが、それなりの速度でどういった内容にするか進めること数十分、今までの時間はなんだったのかと思うくらいに順調にPVの概要が決まっていく。

 空欄だらけだった企画書が、ようやく形となった。

 なるようにしかならないとは思っていたが、意外なところに解決策は転がっているものだと思う。

 灰皿の上に三本目のタバコが置かれた段階で感覚的にこれなら早めに上がれるなと思いつつ、時計を見れば結構いい時間になっているのに気づく。

 定時というものが存在しない職業だから、こういう時間管理は自己責任になっている。


「っと、いい頃合だなそろそろ上がるぞ」

「うっす、っとそうだ先輩! 久しぶりに外に飲みに行かないっすか?」

「外? ああ、外な」

「そうっすよ、最近は先輩嫁さんばかり相手にするっすから俺も暇で暇で、たまには後輩の相手をしてくれっす」

「あ~、少し待て確認する」

「うわ~、すっかり尻に敷かれてるっすね」

「言ってろ、独り身の遠吠えにしか聞こえねぇぞ」

「うぐ、ブーメランだったか」


 くだらないコントをしながら仕事上がりの飲みに出かけようと誘う後輩の頼みを聞くためにスエラ、メモリアそして一応ヒミクに連絡を取り許可を得る。

 前者二人は素直に許可を出してくれたが、ヒミクには土産を希望されて帰りにコンビニでなにか甘いものを買うこととなった。


「うっし行くぞ」

「了解っす! いやぁ、久しぶりっすねぇ」

「大抵地下街で済むからな」


 店のバリエーションが多い地下街、なのである程度ローテーションや気分に任せればまず飽きることはない。

 海堂はそれこそファンタジー小説の冒険者のように頻繁に利用しているようだが、飽きは来ないらしい。

 そんな店が揃っていてもやはり、たまには外で飲みたくなる日もある。

 パーティールームは寮にあるのでそのまま別れ、あとで玄関口に合流することになった。

 部屋にいたヒミクに不思議そうな顔をされたが、着替えに来たとだけ告げてシャワーだけ済まし私服に着替える。

 いってらっしゃいと最近ではよく聞く送りの言葉をヒミクから受けながら、いいものだと思いつつ。

 玄関から出る。

 シャワーを浴びていたから海堂が待っていると思い少し早足で待ち合わせ場所である寮の出入り口に向かう。


「あ?」


 そこに海堂はいたが、一人ではない。

 あれは確かほかのテスターたちだが、何かトラブルか?

 だが、雰囲気が剣呑という風には感じない。

 海堂も海堂で困ってはいるが、嫌悪感は出ていない。

 珍しい雰囲気を気にしていてはいつまでたっても話が進まないと思った俺はそのまま海堂に近づいていくのであった。


 今日の一言

 解決する言葉は、正道じゃない時もある。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いします。

これからも本作をよろしくお願いします。

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