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140 心境の変化、それは良い変化をもたらす時もある。

 帰ってきてスエラたちと合流したのは、大陸に旅立ってから三日後のこと。

 社員寮の自室に戻ってこられた俺はすぐにスエラとメモリアに連絡を取った。


「はぁ、なんとなくですが何事もなく帰ってはこないとは思っていましたが、これは予想外というかなんと言えばいいのでしょう、メモリア」

「そうですね、私的に言えば予想の斜め上をいかれたといえばいいのでしょうか? どう思います次郎さん」

「面目ない」


 そうして集まった結果の反応がこれなわけだが、それは仕方がない。

 ゴタゴタの後は荒事が収まる傾向があるのか、少々面倒な手続きこそあれど無事会社に戻ってこられた。

 いや、会社というよりスエラたちのもとと言うべきだろう。

 ゴーレムを倒してから俺はすぐに帰宅の準備に取り掛かるも、さすがにこの状況で何もせず帰ることはできないがそこは頼りになるギルドマスターたちに事後処理を押し付けてきた。

 それはさすがに勘弁してくれと半分涙目で引き止められそうになったが、俺に全てを押し付けて戦わせた負い目をつついた後、ゴーレムの残骸を報酬だと言えば渋っていた顔が一点、手のひらを綺麗に返してここは任せて先に行けと言わんばかりに瞳をドルマークにして送り出してくれた。

 よほど経済事情がまずかったのだろう。

 ゴーレムの所有権の問題とかどうなのかと思ったが、そこはそれ実力主義の魔王軍。

 倒した者の戦利品というくくりになるらしい。

 そうして、無事帰路につけた俺は道中ヒミクという爆弾をどういう風に説明しようか考えたが、下手に言い訳するとややこしくなるという結論に至った。

 なので普通に、経緯を何も包み隠さず、それこそヒミクとの契約内容も隠さず話した。

 男なら堂々と断罪を受けようと覚悟を決めての判断だ。

 正座をしての事情説明の結果、盛大なため息を頂いた。

 俺は被害者とまではいかないが、俺が悪くないと言えるような状況でもなかった。

 なので素直に謝る。


「いえ、私も少々配慮するべきでした。お義母様の素質を見る限り、次郎さんは勇者の系譜の人間の可能性がありますから」

「なんだその不穏な称号は、俺の家系は別に特殊な一族だったわけじゃないと思うが……いや母方は割と特殊だったか」


 神社の家系、おまけになにか怪しい逸話付きとなれば日本でも特殊な家系に入るだろう。

 まるでゲームの設定のような単語が飛び出てきて咄嗟に否定し、自分の家系を思い返すが父方はともかく母方が特殊だったのを思い出す。

 だが、それでも勇者なんて存在が先祖にいるとは思えない。


「いえ、おそらくですが次郎さんが想像しているようなものではないですよ。勇者の系譜といっても勇者を先祖に持っているというわけではありません。私たちの言う勇者の系譜というのは勇者になりうる存在、潜在的に勇者になり得る可能性を持った人間の総称です。統計にはなりますが、勇者を先祖に持つ方がそういった適性を持つことが多いです。けれども希に魔力適性の高い方でも勇者になれる可能性が出てきますので、それでお義母様がその可能性例に一致します」

「その息子である俺は将来的に勇者になるかもしれないってことか……現段階では可能性の話か。焦った、マジで世界を救え勇者よとか言われるかと思った」

「そうなると魔王様に挑むことになりますが、挑戦しますか?」

「数秒で消し炭になる可能性があるから結構だ」

「数秒でも魔王様と戦えるのはすごいことですけどね」


 五百ゴールドが日本円でどれくらいになるかはわからないが、支給される給料がそれだけでそのあと自給自足になる旅が目に見えている未来はごめんだ。

 おまけに教官たちにさえもまだ手も足も出ない状況で社長に挑むなんて、無謀という言葉では済ませられないほどの無茶だ。


「さて、次郎さんの件は不幸な事故ということでいいかもしれませんので結論は後回しで、それより本題の件を進めましょう。彼女の処遇はいかがしましょう」

「そうだな、後回しにしてもいいことはなさそうだからな」

「ん?」

「……気に入ったのか?どら焼き」

「ああ、この甘味はなかなか美味だ!」

「そうか」


 冗談を交わしつつ俺の処遇は無罪放免となるわけではなく後でもう一回話合うことで落ち着き、先に一番の問題を片付ける。

 正座を崩し、胡座に移行した俺は説教を受けている主を放っておいて待ちに待った甘味、どら焼きを堪能している堕天使ヒミクに目を向ける。

 備え付けのテーブルの上に鎮座する小皿に乗せられたどら焼きを一口一口丁寧に味わうように食べている。

 その仕草はさすが元天使というべきか、上品に食べている。

 最初はそれに対して何か言おうと思ったが、一口頬張る度に目を輝かせ幸せオーラを全開にするヒミクに俺だけじゃなくて初対面のスエラやメモリアも何も言えなくなってしまった。

 こう、なんだろう。

 幸せって可視化できるんだな。

 いや、元天使だからできる技かもしれないが、パアって笑顔が光るんだよ。

 その光景を見ていると俺の視線に気づいてこちらに顔を向けるが、片手のどら焼きと堕天使なのに無邪気な笑顔を見せてくるので真面目にやれと強く言えない。

 メモリアに至っては


「どうぞ、お茶です」

「すまない」

「いえ、こちらのカステラも食べますか?」

「いただこう!」


 そんな笑顔のヒミクを餌付けしている。

 湯呑に入った緑茶をすする堕天使、絵面としてすごいことになっているが違和感はあまり仕事をしてくれていないようだ。

 湯呑が似合う堕天使とはいかがなものか。

 今後ヒミクと菓子の組み合わせには注意がいるかもしれない。


「監督官からは俺に任せるって言われたが……どう思うスエラ?」

「私としてもいきなり堕天使を管理しろと言われても対応に困ります」

「だよなぁ」


 こうやってのんびりと菓子を食べているが、魔王軍からすれば天使は恐怖の象徴のような存在である。

 堕天し思考がこちら側に寄ったとは言え、その性能に変化はない。

 いつその力が降りかかってくるかと思えば警戒心も生まれてしまう。

 そんな存在であるヒミクを下手に組織に組み込むのは無謀だ。

 組み込んだら、それだけでその部分に軋轢が生まれかねない。

 だからと言って、良く言えば籠の鳥、悪く言えばニートのような生活を送らせるのも何か違う気がする。


「当人いわく、戦うことが得意で書類仕事はできるが嫌い。戦いは手加減ができるか怪しい。できるのはできるが、一か百と振り幅がでかい。いっそのことダンジョンに突撃させたほうが仕事になる気がするが」

「こちらもデータとして貴重なものが取れそうですが報告書、作ってくれますかね?」

「細かい内容は期待できないだろうなぁ」


 自己申告ではあるが、ヒミクから得た情報をスエラに伝えるも、運用方法にやはり頭を悩ませてしまう。

 確かにヒミクに頼めばダンジョンの一つや二つ簡単に挑戦してくれるだろうし、対勇者ダンジョンを想定している魔王軍としてはかなり貴重なデータを取れることは間違いない。

 だが。


「絶対とは言えんが、ダンジョンに放り込んでも殲滅して終わりそうだ。コイツの実力が未知数すぎる」

「そうですね。始まりの十二天使の実力、御伽噺程度の知識しかない私では想像できません」

「だよなぁ」


 最初に想像したのは、破壊の限りを尽くした様。ダンジョンを最初から作り直すなんてことになりそうな気がしてならない。

 前科はないが、数々の発言がこの想像があながち外れていないことを裏付けてしまっている。

 ある意味ではトライアル・アンド・エラーという形で落ち着くかもしれないが、それはそれで莫大な費用がかかりそうだ。

 まさにハイリスクハイリターンというやつだ。


「はぁ、しばらくは俺の訓練相手になってもらうか……」

「今はそれが妥当ですね。ほかに何かできないか私の方でも考えてみます」

「無理はするなよ、もうお前一人の体じゃないんだから」

「はい」


 そんな存在の運用方法を簡単に決められるわけもなく、暫定的な処置を決めることしかできなかった。

 同意してくれるスエラをいたわりながら、先のことを考える。

 昔だったら何も解決せず問題を先延ばしにした現状に対して不安に思うところだが、今だと今後の展開が少し楽しみになっている俺がいる。


「メモリア! このカステラという甘味も美味だな!」

「そうでしょうね」


 姿からしたら、メモリアの方が幼く見えるのにヒミクの方が幼く見えるような他愛もない会話。

 それを眺めているだけで、疲れが癒えてくるような感覚がある。

 これが幸せなのかと、ふと思うがそれを否定せず心の隅に留めておく。


「それと次郎さん、もう一つ聞きたいことがあるのですが」

「なんだ?」


 のんびりとした雰囲気が漂う中。


「彼女は第三夫人ということでいいのでしょうか?」

「ごっふぉ!?」


 俺の分の湯呑に手を伸ばしすするタイミングでスエラは爆弾を投下してきた。

 気管にお茶が入り込み、一瞬呼吸ができなくなるが冷静に何を言われたか理解した俺は、どういう意味かという意思を込めスエラの方を見る。


「いえ、彼女の存在的に一人にするわけにはいきませんので……それにエヴィア様から管理しろと言われたのですよね?」

「ゴホゴホ、そうだが、それとコイツとの結婚がどう関係するんだ?」

「次郎さんには馴染みはないかもしれませんが、恋愛感情を抜きにして人材を囲む方法で婚姻を結ぶことは珍しくはありません。おそらくですが、エヴィア様が言ったしっかりと管理しろという意味は、ヒミクを手放さないように囲めという意味があったのでは?」

「ん?」


 それは貴族的な話ではないのかと一瞬思うが、一夫多妻を承認している魔王軍ではそういうのもあるかと思い返すと同時に監督官の言葉を思い出す。


『ああ、そうだ次郎』

『なんですか?』

『スエラたちへの言い訳は考えておいたほうがいいぞ?』

「!?」

『こちらの女は寛容ではあるが嫉妬深くもある。せいぜい早めに帰り搾り取られすぎないように注意しておくのだな』


 女は寛容、その意味は浮気行為に対して寛容という風にも取れるが、その前に監督官はこうも言っている。


『堕天使の存在は我が軍の利益にもつながる。それが安定した精神を持つ存在なら尚のことだ。それに何もせず許可を出したわけでもない。その堕天使と契約を交わした貴様の功績に免じているだけだ。だがそれがなにか問題を起こすのなら貴様の責任になる。それだけはその頭に叩き込んでおけ』


 堕天使と契約を交わした。

 すなわち、俺とヒミクのつながりがあると見抜いていた。

 ということは。


「ああ~そういう意味かぁ」


 そうなるとあの監督官は俺がヒミクを娶るという状況を見越してあの発言をしていたことになる。

 そして、その行動に対して俺は拒否権をほぼ封じられてしまった。

 ここでヒミクを放逐するとなれば俺に問題が降りかかることになる。

 そうなれば、被害は俺だけではなくスエラたちにも降りかかることになる。

 外堀を完全に埋められた。

 あくどい笑みを浮かべた監督官の表情が頭によぎる。


「どうした、主よ。辛そうな顔をしているが、大丈夫か?」

「いや、なんでもねぇよ」

「そうか!」


 一瞬頭痛が走ったが、すっと覗き込むようにヒミクがこちらを見てきた。

 その表情は心配そうであったが、俺が大丈夫だというと彼女もニッコリと笑顔を見せた。

 それを見ただけで不思議とどうにかなるかと思っているあたり、俺もだいぶこっちの業界の風習に染まったのかもしれない。

 すべてが片付いたわけではないが、これはこれで良かったのかもしれない。


「仕方ありませんね」

「すまんな、二人には苦労をかける」

「構いませんよ。ねぇメモリア」

「はい、もっと頼ってください」

「まったく、頼りになるよ」


 俺の心を見越したような二人の好意に包まれて、俺はその時確かに幸せだと思った。


 今日の一言

 環境の変化に対応するときはしっかりと事実を受け止めよう。


今回は以上となります。

次で今章は終わりになるのかと思います。

面白いと思っていただければ感想、評価、ブックマークをよろしくお願います。

これからも本作をどうかよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 意味が分からん。強制されることでもないし、パーティメンバーということにするのも、別に構わんだろう,自身の功績なんだろう。他人がどうこう言うなよ、次郎の勘違いだろうその狭窄感は言外のこと…
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