126 トラブルが来るとわかっているのなら、何もしないなんてことはない!!
「知ってるよ」
「へ?」
狐耳の少女、もうめんどくさいから狐娘でいいか。
名乗らないというのならそれ相応の理由があるだろうし、聞いて面倒事に巻き込まれるのなら聞かない方が都合がいい。
そして、狐娘の忠告の意味も内容も予想の範囲内だ。
あれだけあからさまに挑発したのだ。
何も起こさないというのは組織のプライド的にありえない。
日本の警察に向けてこれをやったらまず間違いなく要注意人物としてリストに載るだろう。
それくらいのことをしでかしたと自覚はしている。
となれば、この話題を利用する他あるまい。
「なに間抜けな顔を見せてんだよ。だからこのあと報復が来ることは知ってるって言ってるんだよ。何事もなく平穏に過ごしたいのならあそこまでやる必要は正直なかったな。それこそ、そうするつもりがあったのなら相手が合格させる気がないのに気づいたタイミングで適当に手を抜いて負ければいいだけの話だったからな」
「でもそれをやらなかったわよね? 正気? 相手は軍隊なんだよ?」
「正気だし別に考えなしに行動したわけじゃない。向こうさんは信じてくれなかったが俺もその軍に所属する人間だからな、対策はあるし勝算もある」
頭の心配をされてしまったが、あいにくとこっちは冷静にブチ切れているところなんだ。
心は熱いが、思考はさっきからグングンと唸りを上げるように回り続けている。
人間って理由だけで向こうが規則を破るのならこっちが規則を守る義理はないが、それでルールを破って報復するようじゃまだまだだ。
こっちはしっかりとルールに則って相手が反論する余地もなくきっちり封殺してやる。
「くくく、しっかりと大義名分を考えろよなぁ。それがお前らの死刑執行の理由になるんだからな」
軽く想像するだけで相手の行動はある程度は予測ができる。
犯罪行為による冤罪逮捕、街の不良を使った暴行行為、暗殺者を使った抹殺と言ったところか?
もっと陰険に攻めるなら裏に手を回して社会的地位を貶めるという方法も考えられる。
しかし、どんな名分を掲げ、俺の行動をいくら捏造しようが、こっちはしっかりと逆転してやる。
例え同僚でも俺を敵に回したのならしっかりと後悔させてやる。
「次郎君もすっかり魔王軍に染まっていますね」
「うむ、頼りになるな」
「ええ、そういう反応になっちゃうの? 私の方がおかしいのかなこの状況?」
「なんだ、お前は知らないのか? 泣き寝入りなんてしていたら魔王軍で働けないからな、きっちり舐められないように報復して力を示せと俺は教官から教わったぞ」
「知らないよ」
おそらく教官たち直伝の謎の眼光と最近出せるようになった怪しげな闘気とともに俺の表情には凶悪な笑みが現れていることだろう。
なにせ俺は怯えるどころか楽しみにしているんだからな、笑みが出ても仕方がない。
どうやって対応してやろうか楽しみにしつつ、その高揚感を制御しやるべきことをやろうと思ったが。
「あははは、そんなお兄さんに話しかけちゃった私って」
「ああ、多分仲間だと思われているな。喜べ、お前の望み通り巻き込んでやったぞ?」
「逆!! 私が巻き込む予定だったのに!!」
その前に狐娘は現状を把握して冷や汗をだらだらと流し始めた。
なんだ、これくらいで焦るなんて情けないぞ。
ダンジョン最深層にアタックすることに比べればこれくらいの危険ならまだ安全な部類だ。
なにせ。
「まだ、勝てるって思えるからな」
「なんのこと?」
「いや、独り言だ。さて狐娘、これで晴れて運命共同体になったワケだが? どうする?」
「お兄さん分かって言っているでしょ?」
「いや? そうでもないぞ? ただ」
「ただ?」
独り言を流す。
そして、俺はこのあとどうするかは決まっていたりする。
「面倒事はさっさと片付けるに限るって思っているだけだ」
ありえないだろうが何もないならそれでいい、会社に帰って報告書を一枚書いて提出するだけで相手はほぼ詰む。
そして行動してきたのならそれ相応に対応してやろう。
向こうは何も力のない無力な人間だと思い込んでいるようだが、窮鼠どころか虎の口に手を突っ込んだと理解させてやろうではないか。
せいぜい上から目線で油断しろ。
それはそれで俺からすれば好都合だ。
動けるうちに動く。
「……」
「そういうことだ、狐娘。もう手遅れかもしれないが、さっさと身を隠した方が身のためだ。俺たちはこれからやることがあるからここから出ないといけないからな」
何やら考え事をしているようだが、これでこの狐娘とはオサラバだろう。
こっちはこっちの都合もあるし、言ってはなんだが顔見知り程度の相手にこれ以上関わる筋合いはない。
相手の出方次第ではあるが、おそらくは何かしら仕掛けてくるのは間違いない。
やられたらやり返す。
そしてただでは返さない、倍返しでだ。
逆に言えば何も手を出さないのならほどほどで済ますつもりであるが。
ここまで口にしたのも俺からすれば自分がやった出来事に関わらせないように、さっきの言葉は全部本音で脅しも兼ねていた。
これで、この狐娘も怯えて離れていくだろうと思ったのだが……
「ねぇ、お兄さん」
この狐娘、怯えて逃げるどころかさらに関わってきた。
ヒラヒラと追い払うように手を振ったにも関わらず目の前の狐娘の足は動かない。
むしろさっきの脅しで決意を固めてしまったフシもある。
流れでこの狐娘とはサヨナラできる予定であったのだがこれは少し対応を間違えたと思いつつ、視線はそらさない。
「もし、ダンジョンの中に入るのが違法じゃなかったらお兄さんはダンジョンに入ってくれる?」
「あ?」
「正式な手続きで入れれば、お兄さんも納得してくれるんだよね?」
「そりゃぁ、そうだが」
何が言いたいんだこの狐娘は?
念を押すように、いや、この場合は狐娘の都合と照らし合わせるようにと言ったほうが正確か?
俺がこの狐娘の話を断ったのは、この狐娘がどこか抜け道を知っていてそこから入れるルートを知っているからかと思った。
そして奴隷という立場も後押しして借金か何かを返すために裏を教えそれを元に金を取ろうとしているのかと疑ったからだ。
「なら大丈夫、探索者がダメなら冒険者で入ればいいよ」
「……ああ、その手があったか」
言われてみれば確かにそうだ。
一応魔王軍に所属しているから探索者で登録しようとしていたが、別に冒険者で登録しても問題はない。
「お前、冒険者か?」
「正解、まぁ正確にはちょっと違うけどね。わたし、冒険者ギルドの受付嬢ちゃんです」
「奴隷なのに?」
「ふふふ、この姿は仮の姿、ギルドに戻ればきちんとした格好をするよ。こっちのほうが都合がいいときもあるの。例えば、お兄さんみたいな探索者ギルドからはじかれた有力な実力者に近づくときとか」
ちらっと首輪を周囲から見えないように軽く外してみせ、奴隷ではないことをアピールする。
「やはり、フォクスルの一族の者か」
「そうそう、さすがトリス商会のナンバーツーこんな小娘のこともご存知なんて光栄だわ」
「フォクスル?」
「冒険者ギルドの運営をしているなかに狐人の一族がいると聞いていたが、やはりそうであったか」
簡単に着け外しが可能なのかと思いつつ、その正体に気づいていたグレイさんに件の一族について聞くと軽く説明してくれる。
「では改めて、わたしは冒険者ギルドのアミリシア・フォクスル、気軽にアミーちゃんと呼んでね?」
仕草からして可愛らしいと言える動作をしてみせるが、俺からすればあざといという他ない。
「あら? あまりこういう挨拶は好きじゃないかしら? ギルドだとみんな喜ぶんだけど」
「もう少し大人になってから出直せ」
「あら、残念」
まるでキャバ嬢のようなその仕草にうんざりという雰囲気を匂わせるようにため息を吐いてみせれば、意外なものを見るような視線を向けられた。
少なくとも冒険者ギルドの男連中には人気なのだろう。
「さて、そろそろ無駄話も終いにしようか、アミリシアさんとやら、なぜ名乗った?」
ジョークで場を和ませようとしたのだろうが、あいにくと状況に変わりはない。
彼女からすれば俺たち一行はトラブルを抱え込んだ厄介者たち。
名乗るメリットというものがない。
そのまま姿をくらまし、受付嬢に戻ったほうが個人的にも組織的にもいいだろう。
すっと、真剣な表情になったアミリシアは人差し指を立てる。
「単刀直入に言うわ、あなたの戦闘能力とあなたのコネクションが欲しいの」
「ズバッといくなぁ、単刀直入なのは個人的には好きだぞ俺は。回りくどくなくていい」
本当に本音をぶつけてきたな。
俺的には回りくどく説明してくるよりも先にこうです!と答えを言ってくれる方がわかりやすく好感が持てていい。
「私たち冒険者ギルドと探索者ギルドの仲が悪いっていうのは知っている?」
「ああ、一応な」
国運営と民営、仲がいいわけがないだろうな。
「実はその仲の悪さが問題で」
「問題? ってここで言っていいのか?」
「良くはないけど、だからと言って説明もなしについてきてくれる?」
「無理だな」
「でしょ?」
組織絡みの問題を一応は広場の脇に移動しているが、こんな誰もが聞いていそうな場所で言っていいのかという疑問をぶつけてみるが、彼女なりに筋を通そうとしていることがわかり納得する。
「問題っていうのは、縄張り争いなの」
「縄張り?」
「そう、ダンジョンの構造上都合のいい狩りポイントがいくつか存在するんだけど、その場所を暗黙の了解で冒険者ギルド側と探索者ギルド側で分けあって今まで都合し合ってたの」
ああ、なるほどね。
なんとなく予想ができた。
「でも最近、探索者ギルド長が代わってね。それからかな、向こうの横暴が増え始めたの。前まで入れていたエリアには入れなくなっちゃったり、金に物を言わせてうちの実力者も引き抜かれちゃったり、ひどい話になるとダンジョン内で襲われたって話も出てるの。おかげで怪我人や辞めていく人が多くて冒険者の数は減少、まわりにまわってうちは依頼の達成率が下がってもう大変ってわけよ」
もうお手上げと言わんばかりの仕草を世間話感覚で宣っているが、これはかなりやばい話ではないかと疑問に思いつつ、貴重な情報を頭に叩き込む。
「なるほどな、それを少しでも改善しようとスカウトに歩き回っていたところで俺を見つけたってわけか?」
「そう! まさに天の助け!! 最初はなんとなくって思ってこっそり試験の方見てたけど、まさにその時の私を褒めてあげたいわ!! 見てるこっちがスッキリするぐらいの一方的展開、想像以上にお兄さんって強かったし、さっきの態度からして本当に将軍様にコネとか持っていそうだし、何より大陸でも三本指に入る商会、トリス商会とすでにコネクションがある!! そんな人材を向こうから捨ててきた! ならこっちが拾うしかないでしょ!!」
人間蔑視の態度をとった向こうのおかげで降り注いだ幸運に感謝したというわけか。
向こうに睨まれているのはむしろ冒険者ギルドからすればデメリットであるが、それを補い余りあるメリットだと判断したというわけか。
だが、待て。
「グレイさん、向こうはグレイさんの名前を聞いても態度を変えなかったのですよね?」
「うむ、おそらくだが、国以外に大きな商会がバックについているのだろうな」
いかに人間蔑視の思考を持とうと、実力を持つトリス商会が保証する人材をそう簡単に手放すか?
むしろそこは曖昧な態度を取りつつ引き込む方向で動くのが普通だ。
あんなあからさまに拒否するなんてありえるのか?
「……」
「なにか思うところがあるんですか? 次郎君」
「あるんですけど、それが何かわからないんですよ。ただ、なにか引っかかっている感覚があるだけで」
マイットさんに聞かれるが俺も明確な答えがあるわけではない。
ただその点が妙に気になる。
それだけだ。
折り合いをつけていた冒険者ギルドとの仲が急速に悪くなり、有力商会とのコネクションをドブに捨てるような行為。
その二つはどう見ても組織的な動きからすればデメリットでしかない。
「あの~。できれば詳しい話をしたいんで色よい返事とともに冒険者ギルドに来てほしいんですが? 仮にも今まで探索者ギルドに対抗してきた組織ですし、ギルドに来てくださればそう簡単に手は出せないですよ? そうすれば考える時間もできますよ?」
考え込んでも仕方ない。
現状、会社に戻って報告するかその間に襲撃されて迎撃するかの選択くらいしか思いつかない中で猶予ができるのは悪くないだろう。
ある意味では俺にとっても都合のいい展開。
この手札を出し尽くして、さらに絞り出そうとする狐娘の話に乗るのもいいかもしれない。
「いいですか?」
「ええ、私は構いませんよ」
「うむ」
義父二人も納得してくれた。
「それじゃぁ!」
「ああ、案内してくれるか?」
「はい!!」
とりあえずは、噂に聞く冒険者ギルドに向かってみるか。
今日の一言
それが吉と出るか凶と出るかは今後の展開次第でわかる。
今回は以上となります。
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