125 他人から見た評価と自身の評価が一致することは少ない
Another side
『カカカカ、主から酒宴に誘うのはいつものことではあるが、今日は急じゃのう? 鬼王よ』
「飲みてぇ気分だったなら鬼は飲む、その相手がお前さんだっただけだ不死王よ?」
日本の豪邸をイメージされて建てられた鬼王の居住。
庭先に枯山水を備えた邸宅の一室で月夜に照らされた酒宴が開かれていた。
参加者は魔王軍屈指の実力者であり、次郎からキオ教官とフシオ教官と呼ばれる鬼王ライドウと不死王ノーライフであった。
互いに酌をしあい酒を消化する。
酔いには慣れて日常になっている鬼と魂を酔わす酒を呷る不死者。
この二人の酒宴に入ってこられるのはそれこそ同じような存在だけなのだろう。
扉を開けているのにもかかわらず部屋に充満した酒気だけで一般人ならひっくり返ってしまうほど濃厚な酒の香りだ。
そんな空間で二人は楽しそうに飲み交わす。
『して? そろそろ本題に入らねば夜が明けてしまうぞ? ワシはこのまま楽しい酒宴に浸っても構わんのだがな』
「おっと、忘れるところだったぜ。オメェから見てどうよ?」
『主語が抜けておるぞ鬼王よ。しかし、貴殿が言いたいのは予想がつくがのう。次郎のことかの?』
「おうよ、俺たちが揃ったのなら当然の話だ」
『然り、最初は気まぐれで育ててみたが思いのほか楽しいと思えた人間であったのう。久方ぶりの活きのいい魂を持った人間じゃ。酔いの席で語るには十分な話題か。しかし、改めて話すような話題でもあるまい? やつは着実に力をつけている』
その二人が揃うと自然と出てくる己の弟子の成長具合の話。
定番となったその話題は幾度となく話した。
人間性しかり、強さしかりと内容的には互いに確認するまでもない他愛のないものだ。
二人からすれば答え合わせのような話だ。
「俺の見たところ、あいつの全力は俺たちを十分に傷つけられる領域まで来ていると見ているがどうだ?」
『然り、あの太刀なら我が命に届く領域まで磨かれている。あとは未熟な技を磨けば』
「喰い頃ってことか?」
『否』
「あ?」
一撃は持っているがそれを当てる術を持たないと暗に言う鬼王に同意して頷く不死王、けれどそのあとにつづく言葉は、いつもであれば同意を示すはずの不死王が今回は否と答える。
感性が違う二人が揃えば答えが噛み合わないことも度々ある。
しかし、鬼王にとっては今回のタイミングは意外だったようだ。
先を促すように盃を目線まで持ち上げる。
喰い頃、戦闘種族である鬼にとって強敵とは生きていくうえで食に次ぐ重要な要素であった。
寝る間も惜しんで戦いに明け暮れる鬼がいるほどといえば、それがどれほどのものかわかるだろう。
次郎は間違いなく宝玉の原石、それが磨き上がればそれこそ己を超えるかもしれない存在へたどり着くのではと期待している鬼王は不死王の答えがどのように返ってくるか楽しみであった。
『鬼王よ、喰い頃だと思うておると喰われるぞ?』
鬼が喰われるとはなんの冗談かとこの場にほかの鬼がいれば思ったかもしれないが、何もない空洞の瞳の先にある何かを光らす不死王の視線に気づいている鬼王は何も言わず先を促す。
『やつは、わずかな期間でここまで育った。まるで水を得た魚のように、ここが己の居場所だと思うがようにな。それを後押しするかのようにやつの周りには乱れが集まりよる。乱れは人を削り傷つけるが、人を磨く捨石にもなる。ワシはな見てみたいのよ。やつがどこまで行き着くのか、削り砕かれるのか、磨かれ輝くのか』
強敵を求めるのが鬼の性だとするのなら、人の生に執着するのが不死者の性だ。
死というものを超越したせいで生というものに執着し、憧れ、妬み、固執する。
次郎という生の輝きを見せる人間は、その先を見たいと思わせる宝石のようなものだ。
似て非なる二人ではあるが、根本的に求めているものが似ている。
だからこそほかの将軍たちと違い、この二人は一緒に行動する機会が多いのだ。
『次郎は気づいておらんようだがの。やつの才能は遅くも咲いた。あとは散るまでどれほど登れるかじゃ』
「クククク、なるほどな。お前がそう言うなら、もう少し熟成させるとするかね」
『カカカカ然り、旨い酒を飲みたければ焦りは禁物よ。なに、我らが動くのはその酒を掠め取ろうとした輩が現れた時だけで良い。あとは周りが勝手に育ててくれる』
今宵も酒がうまいと何も言わず乾杯する二人の夜はそのまま過ぎ去っていった。
Another side END
Side 次郎
自分が問題を惹きつけていると思われているとは露知らず。
件の試験を受けた俺はといえば。
「これで合格か?」
「ぐ」
簡易的な闘技場のような施設で人工的な山を絶賛建築中であった。
パンパンと手のひらの砂を叩き落とすように幾度か鳴らしたあと試験官に何度目かになるかわからない確認を取る。
最初はCランクの中堅どころのリザードマンの相手をさせられた。
勝ち負けに関係なしに合否を判断すると目の前にいる悪魔の試験官に説明を受けてはいたが、与えられた武器は刃が潰された錆だらけの短剣で、対戦相手はしっかりと手入れが行き届いた自分の武装。
そして負けたら絶対に不合格にする気満々な試験官の雰囲気にイラっとした俺は武器も使わず素手で対戦相手をボコボコにした。
それはもう、相手に何もさせずに完封してやった。
たとえベテランだろうがなんであろうが、教官たちと比べれば弱く、先日やったダンジョンツアーに比べれば危機感も感じない。
余裕綽々で、これで合格かと聞いたのは自然の流れであったが。
『ダ、ダンジョン内で一対一で戦うほうが珍しい!! 次の試験に移る!!』
人間だと舐めてかかって、勝てると思っていた探索者が負けて予定が崩れた試験官の苦しい言い訳だとその段階で気づいていたわけだが、義父二人からは容赦なく完膚無きまでに叩きのめせと言われているので諾々とただ指示に従った。
次に出てきたのはCランクの五人パーティーだ。
前衛が盾役と攻撃手の二人、後衛が回復と魔法使いの二人、それで指揮官が遊撃手になっている万能型といったバランスのいい基本的なパーティーだ。
これでいいと思った試験官はそのパーティーに勝ったら合格だといい、なんの準備もさせずに戦いを始めた。
周囲の反応はこのまま起きる集団暴行に期待していたようだが、そんな予想に付き合うほど俺はドMでもなければお人好しでもない。
淡々と前衛を再び素手でボコって、奇襲をかけてきた遊撃手を返り討ちにして、後衛の魔法を掻い潜りながらあっさりと降す。
そこからは、この山を作る作業となった。
ランクが上がったり人数が増えたり。
弱くなることはなく段々と強くなる対戦相手ではあったが、俺の中での対応能力を超えることなく、むしろ鉱樹を抜く必要がでないほど未だ余裕を保てていた。
ついさっき倒したのはAランクだと聞いていたが、それでも問題なく勝てた。
「それで? 合格? 不合格?」
「ふ、不合格だ!!」
「なんで? あんたの指示通りあんたの用意した相手を倒したぞ?」
だが下された合否は不合格。
なにか隠された要素でもない限り、先方の指示した戦闘能力をしっかりと示せた。
戦っていた相手のランクを詐称していたと言うなら話は別だが、周囲の雰囲気から察すれば最初はともかく最後のミノタウロスの探索者は間違いなく実力者だったのだろう。
「う、うるさい!! 私が不合格といえば不合格だ!! わかったらさっさと出ていけ!!」
これはいよいよきな臭くなってきた。
目の前の試験官はどう見ても理知的ではない。
俺の言葉を感情的に否定しているようにしか見えない。
それを見たグレイさんとマイットさんの雰囲気も怪しくなってきたが、ここまであからさまな不合格通達は人間嫌いとかそんな次元ではないような気がする。
何か別の裏があるのではと思ってしまう。
「ふぅうん、そうか。これは公平な審査の結果の通達って捉えていいんだな?」
「あ、当たり前だ。納得したのなら早々に」
ここまで頑固に対応を変えず、不平等を行うのならこっちにも考えがある。
「なら、このことを鬼王様と不死王様に報告しても問題ないのだな?」
立ち去れと言い切られる前に被せるように俺は俺が取ろうとする行動を口にした。
「!?何をでたらめな! 貴様のような人間が七将軍のお二人の名前を語るなど言語道断!! 今この場で罰してもいいんだぞ!!」
教官たち二人の名前を出した途端に一瞬顔色が変わったが、ハッタリだと思われたのかすぐに威勢を取り戻した。
それを見てできるものならやってみろと言ってやりたかったが、今ここでいうよりも後で行ったほうが面白いと判断し思いとどまる。
「何を根拠に嘘だと断定するのかは聞かねぇよ。俺はこの場で起きたことを素直に二人に伝えるだけだ。俺は魔王軍の基本である強さをお前らが呈した条件で示し、お前らはお前らの準備した舞台でそれを否定した。強さを正義とする二人がこの話を耳にしたらどういった対応を取るか、楽しみだな?」
罰と聞いても俺は怯みもしない。
むしろ挑発し隠している何かを燻りだそうとする。
虎の威をかる狐のようで悪いが、知り合いなのは事実で、こっちはこっちで結婚式の準備を邪魔されているのだ。
二日酔い覚悟で俺からあの二人を酒に誘いつまみ話で話題を提供するくらいいいだろう。
ニヤリと罰せれるものなら罰してみろと言わんばかりに笑ってみせれば、さっきの威勢はどこへやら試験官は黙ってしまった。
「マイットさん、グレイさん行きましょう。もう、この場には用はありません」
「ええ、そのようですね」
「うむ」
そんな行動を無視して、施設をあとにする。
強さを示したためか、視線を感じることはあっても絡んでくるようなことはなかった。
「さて困りましたね。直近のダンジョンで一番都合のいい場所がここでしたが、このような対応を取られるのは想定外でした」
「うむ、同じような素材が取れる場所となればあるといえばあるがここから離れてしまう。移動に時間がかかってしまうな」
「仕方ありませんよ。ここは一旦会社に戻って計画を練り直しましょう」
もともと勢い任せの無計画な素材集めの旅だった。
うまくいかない方が当たり前なのかもしれない。
それなら、ここで引くのはある意味ではタイミングが良かったのかもしれない。
「おにいさん、さっきの戦いすごかったね!」
「お前は」
「やっほー!!」
残念そうにする義父二人をたしなめて、何か裏がありそうな施設から離れようとしたタイミングで立ちふさがるのは狐耳の少女だった。
さっきの戦いを観戦していたのか、最初にあった時の品定めの視線は今は感じ取れない。
「お困りのようだね? ダンジョンに入りたいのなら私が手を貸してもいいよ?」
「断る。違法手段で入るという話なら他所を当たれ、顔なじみの情けだ。さっきのは聞かなかったことにはしてやる」
そんな少女から出てきた言葉に魅力を感じつつも後々厄介なことになりそうな提案は避けるのが定石だ。
もし仮に目的の素材が手に入ったとしても、それは密猟で手に入れたのとなんら変わりがない。
そんなもので結婚を祝いたくない俺は少女の脇を通り過ぎようとするが。
「お兄さん、このまま帰っても厄介ごとに巻き込まれるだけだよ?」
「……」
狐耳の少女に阻まれるのであった。
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