123 雲行きの先にあるものは
最初と最後のくだりは変更時だけでいいのではと指摘を受けたので、今回からそうしてみました。
変かなと、思ったら戻すかもしれませんがしばらくはこれで行ってみようと思います。
眠って起きたさきは朝といかないのが俺の知っている異世界だ。
眠った時が昼間なのに起きた時も昼間がイスアル。
そして、眠ったのが夜だとすれば起きた時も夜なのがここ魔王軍の大陸アナタリスだ。
すっと、馬車が止まった感覚を感じ取りうっすらと浅く眠っていた感覚から浮かび上がるようにまぶたを開く。
防音がしっかりとした馬車内に外の喧騒は聞こえてこないが、それでも目的地は賑やかで流通が盛んであることを伝えてくる。
「ここが?」
目的地かと言う前に、先に起きていた二人がおはようと挨拶してくるのでそれに応える。
夜なのにおはようとはいささか違和感を覚えるが、この世界に来ると明るいか暗いかの関係はあまりない。
時間が朝ならおはようで間違いないのだ。
「眠れましたか?」
「ええ」
無理な姿勢で眠ったが思ったよりは眠れて体の節々も痛みはない。
イスアルでの野宿の経験が生きたかと思いつつ、マイットさんと会話を交わしながら毛布を畳む。
「着いたのですか?」
「はい、目的地には着きましたよ。まだ門の外ですが検問が終わればすぐにでもいけますよ」
「検問?」
「ダンジョン付近の土地は国の直轄地ですからね、入ることも出ることも手続きを取れば簡単ですが、逆に言えば手続きをしなければ入れないことになっています」
お役所仕事のようなものですと苦笑しながら答えてくれたマイットさんになるほどと頷く。
「ダンジョンの管理の仕事ってそういうのも入るんですね」
「むしろそれがメインの業務なんですけどね」
「どういうことです?」
ダンジョンを管理し資材を得るという話だから、てっきり階層の制御もしっかりできていて道中は安全で目的の素材は戦えばあっさり手に入るものだと思っていた。
「軍がやっているのはダンジョン内のモンスターが出てこないかの監視と密輸などの防止で、ダンジョン内は一切携わっていないんですよ」
「は?」
「そもそも管理と言っていますが、ダンジョン機能が不十分な段階で制御はできていません。なにせ制御するためのダンジョンマスターがいないので制御できるものでもなくなってますからね」
「……それ大丈夫なんですか?」
それは自動で送電営業ができる原子力発電所を放置して、電力をもらっているようなものではないか?
危険とかそういう次元でなく、もし仮に暴走してモンスターが外に溢れかえるようなものなら大惨事になりかねない。
「はい、いくつか何百年も前のダンジョンを使っていますが問題なく営業してますよ。なにせダンジョンを作ったのは我々の祖先ですから、制御できなくても安全に使いまわすためのノウハウはありますよ」
「それなら逆に牧場のように経営したほうが安全なのでは?」
わざわざ危険なダンジョンで繁殖させ危険な道のりを進んで狩りに行くよりも、需要のあるモンスターを育てる牧場を経営したほうが効率的で安定供給ができるのではと思う。
「次郎君、君は黒龍を最終的に食べたり武具の素材にする牧場で安全に育てられると思っていますか? 羊は毛を刈るために育てられますが、勇者と戦うために産み出された黒龍を鱗を取るために育てられます?」
「思えません」
「そういうことです」
思わず即答してしまったが、言われてみればマイットさんの言うとおりだ。
一瞬で牧場が焼け野原になっている光景が簡単に想像できてしまう。
むしろ、牧場主と黒龍のわけのわからない死闘すら想像できそうなくらい無理があるだろう。
ここで対勇者用に調整したダンジョンの弊害が出たというわけか。
「と言うと、ダンジョンの中にいるのは基本的に飼い慣らせないモンスターばかりということですか?」
「そうなります。一応研究はしているようですが、芳しくないようですね。原因はわかっていますよ? ダンジョン内にいるモンスターは基本的に死に対して非常に敏感です。なので騎乗用や物資運搬用などとして育てるのならある程度は従順になってくれるのですが、これが食用や素材用となると」
「生命の危機を感じて暴れると」
「ええ、もともと勇者を撃退するように作られた個体ですからね。そういった感情には遺伝子レベルで敏感なようでして」
元々外敵を迎撃するためのモンスターたちだ。
それが温和な性格であったら意味がない。
戦って初めて意味がある。
生存本能や野生があふれていなければ意味がない。
弱肉強食の弱肉の部分をダンジョン内に作る意味がない。
ダンジョンマスターがいる頃ならそれも可能だっただろうが、それができる存在がいない。
代役を立てようにも代役を立てるための機能が破損しているため引継ぎができないそうだ。
それはそうか。
勇者から見ればダンジョンマスターは言わば中ボス、倒すべき敵だ。
残すということ自体がありえない。
「ですが、国としてはその素材を危険だからという理由で放棄するのはできません」
「経済的には大きそうですからね」
そして、モンスターたちの素材の良さは生物としての魔王軍の努力の結晶だ。
環境に適応するために動物が毛皮に覆われたり、皮膚が固くなり頑丈になるように、そのモンスターがダンジョン用に調整されるならそれ相応の変化を見せるだろう。
敵を切り裂くために爪を固く鋭く、遠くからも敵を仕留められるように目を魔法が使えるような素材に、攻撃を受けても命を残すために骨を鉄のように頑丈に。
少しでも勇者にダメージを通せるようにした結果が今のモンスターたちの強さだ。
おかげで副産物的な意味合いで素材がよくなったと言える。
それに投資した金額は年月と相まってとんでもない額に達しただろう。
たとえ制御が離れたとは言え、その素材を生み出し続けてくれるのだ。
リスクに合うリターン。
自然資源と割り切れば利益になると判断できるのもうなずける。
だからこそ魔王軍なのに冒険者なる回収業者が一般的になったとも言えるのだろう。
「でも、モンスターって研究所で作られるんですよね? そっちの方で畜産、素材用のモンスターを作れるのでは?」
「そちらも芳しくないようで」
「と言うと?」
「畜産に向くモンスターは作ろうと思えば作れます。それだけの技術がありますから。美味しい肉、きらめやかな革。それを作り出すのは可能といえば可能なんですが。これが武具や魔法媒体になると話が変わります。柔らかい竜の鱗になんの意味がありますか? 劣化した牙が鎧を貫けますか?」
「すなわち、弱い個体から取れる素材は」
「はい、基本的に弱い素材しか取れません。例外的に法外な値段をかければできなくはありませんがやはり強い個体の素材より劣ります。そしてなにより利益と見合うのかと聞かれれば」
「合わないと」
「はい、そうなります。なにより弱い個体は魔力適性も自然と低くなる傾向がありますからね、そういった個体はやはり装飾品としても価値が低くなりますので一定の価値以上は値段が付きません」
量産品には向いても一品ものには向かないということか。
そっちの方も需要はあるだろうし、いずれはダンジョンのモンスターを上回る代物が生まれるかもしれない。
技術の進化は日進月歩と言うしな。
だがしかし、その技術は今はないわけで、結論、俺は楽をして結婚用の素材を手に入れることはできないということが判明したわけだ。
改めて気を引き締めて今回のことにかからねばならないということか。
「二人共、手続きが終わったぞ。婿殿、外を見てみるといい」
「外?」
話し込んでいるうちにグレイさんが入る手続きを終えてくれたようで、御者の人とやり取りしたあと俺に外を見るように言ってきた。
それに従ってそっとカーテンをめくると、片側二車線ほどのメインストリートを馬車は進んでいた。
通りには様々な商店が立ち並び、ところどころ露店も見える。
扱っているのはモンスターの素材のようなものばかりだ。
だが、それ自体は特段珍しい光景というわけではない。
もしかしたら素材が手に入らず後で見回ることになるかもしれないが……
「見るのは進行先にあるものだ」
「進行先……あれは、ドーム?」
グレイさんの見ろというのは通りの脇ではなくその先だ。
薄暗くともはっきりと明かりが投射されその先のものをきっちりと映し出している。
白い壁に覆われた半球状の存在。
大きさは目視で東京ドームと同じかそれよりも大きいくらいか。
「もしかしてあれが」
「そうだ。あれがダンジョンだ」
「懐かしいですね。補修はされているようですが昔と変わらないです」
遠目でもわかるくらい巨大な建築物の正体はやはりダンジョンであった。
そしてこの交通の流れもその建物に向かっている。
歩道を見れば装備を身に付けた存在が目に付く。
「ほぉ、あれが……って!? いきなりダンジョンに行くんですか!? 登録とか、宿の手配は!?」
そこで冷静に考えてみればもろもろの手順を完璧にすっ飛ばしていることに気づく。
いくら装備を整えているからといって、それですぐにダンジョンに入れるものなのか?
「宿は心配ない。こちらに私の別邸がある。そこにしばらく泊まる予定だ」
おお、さすが大商人。
別荘があるとはさすがだ。
そして不法侵入なんてことはさすがにしないか。
「ダンジョンに入るのも問題ない。入口のすぐそばに軍の施設がある。そこで受付をすれば問題はない」
「となると、冒険者ギルドのようなものですか?」
「違う。軍の施設だ。冒険者ギルドはあの建物だ」
こっちの事情は分からないが、問題ないならそれでいい。
馬車の外にタイミング良く映ったその建物に掲げる盾と剣そして弓を重ね合わせた紋章。
そこを出入りしているのは冒険者らしい格好をした面々だ。
「しかし、なぜ冒険者ギルドと軍の施設二つの組織で分けているんです? 二つに分けたら分けたで効率も悪くなるでしょうし、トラブルも出るのでは?」
「あえて、分けている。元々国がダンジョンを経営していたが、国民、特に商人から見ればダンジョンというのは金のなる木であり、国が収入源を独占していることを不満に思うのは自然の理だ。かと言って簡単に国営産業に関われるわけではない。関われるのは一部の裕福な豪商のみだ。国から下ろされる品も、その豪商から仕入れるダンジョンの品物も、どれも高額の代物。そこから生まれる武具や装飾品の値段は手の出しにくいものになる。一般の商人からすれば不満も溜まる」
淡々と語るグレイさん。
その視線は俺の方に向いているが別の何かを見ているようにも取れる。
「冒険者ギルドはそういった商人たちからの出資で成り立っている。数がまとまり力になれば国は動かざるを得ない。そうやって国とのパイプを形成した。国としては産業に入られることに難色を示したが、交渉事は政治家たちの専売特許ではない。テーブルまで国の役人を引きずり込めたなら後は口を開くのが商人の本業。認めなければならない状況に商人は持っていったというわけだ」
口を開かない商人筆頭にいそうなグレイさんから語られた冒険者ギルドの成り立ちに俺は納得する。
要は冒険者ギルドは中小商人たちの寄合所というわけか。
大手に対抗するためにとった策。
なるほど考えたな。
「おかげで、軍関係者を探索者、ギルド所属を冒険者と区別するようになったがな」
ん? なんだろうその自嘲気味なグレイさんの言い方は、そしてどこか遠くを見るようなマイットさんの視線は。
あからさまなトラブルの予感を感じつつ馬車はついにダンジョンにたどり着いた。
今日の一言
OK、トラブルなんだな!! トラブルが来るんだな!!
今回は以上となります。
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