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119  共同作業というが、相手は

 田中次郎 二十八歳 配偶者有り

 妻  スエラ・ヘンデルバーグ 

 メモリア・トリス

 職業 ダンジョンテスター(正社員)

 魔力適性九(準魔王級)

 役職 戦士



 吸血鬼、俺の中では夜闇に黒いマントを翻し犬歯を口元に備え人を襲うというのがこの会社に入る前のイメージだった。

 しかしそんな前時代的なイメージなどとうの昔に放り投げている。

 少なくとも俺があった吸血鬼の知り合いに問答無用で人間に襲いかかるようなやつはいない。

 むしろその大半は吸血鬼らしくない吸血鬼といえばいいのだろうか?

 日に弱いという点は共通であったが、致命傷ではなく。

 十字架の前も平然と歩き、にんにくは単純にマナーの関係上人前では食べにくいが食べられると聞いたことがある。

 一緒に泳ぎにも行ったこともある。

 心臓に杭なんて吸血鬼なんて関係なく生物なら大半は致命傷になるだろう。

 それが俺の会ってきた吸血鬼だ。

 例えば。


「さらっととんでもないことを言うな」

「そうですか?」

「そうだよ」

「そうですか」


 俺の隣でのんびりと食後のコーヒーをすするメモリアとかな。

 吸血鬼化ができると、挨拶を軽く交わすようにさらりとメモリアは言うがその神秘的な現象に幾人の人間が挑戦してきたことか。

 僅かに首をかしげながら聞き返し、最後は残念そうに答える少々天然の入ったメモリアとの会話だった。

 物語で吸血鬼が主役のやつとかだと、こんな日常は描かれず常時血なまぐさい描写がデフォルトだったりするわけだが、この場はそんな非日常とは無縁だ。


「まったく、この会社に入ってから俺の常識は崩れっぱなしだよ。吸血鬼ってそんな簡単になれるものなのか?」

「金銭という問題を無視するのであれば三日三晩激痛に耐えればなれますよ?」

「意外とヘビーな内容だなおい。少なくとも俺からすれば簡単だとは口が裂けても言えない内容なのは間違いないな。それにさっきの言い方から考えると結婚式の時にやるんだよな?」

「種族を変えるために体を作り変えるのですからそれくらいのことは起きますよ。新郎はそれに耐えながら式を進めるわけですが、安心してください、よほど相性が悪くなければ失敗はしませんから……たまに発狂すると聞きますが」

「おいメモリア、最後の最後でとんでもないことを言ったろ? 小さく言ったつもりだろうが俺の耳には届いていたぞ。笑ってごまかすな。お前の話が本当なら一歩間違えれば大惨事待ったなしだろそれ」


 入社してから鍛え上げられ、難聴とは程遠い肉体となった俺はその不穏な単語を聞き逃さない。

 普段は見せない営業スマイルでごまかすメモリアの頭にチョップを打ち込む。

 体を作り直した経験がある俺からしても、いや経験があるからこそそんな経験一度で十分だ。

 あの自分という存在を溶かして元の体に戻ろうとするときの何とも言えないおぞましい感覚は忘れたくても忘れられない。


「ったく、精霊との契約も生半可ではすまなそうだが吸血鬼化も五十歩百歩だな。まぁ、人間をやめるっていうのはそういうことだろうが」


 試練に挑み人間を捨てるか、激痛に耐えて人間を捨てるか。

 そんな選択肢を突きつけられながら飲む温くなったコーヒーが苦いと感じるのは決してコーヒーのせいだけではないと思う。

 やると決めたからにはやり通すが、前途多難な現実が待ち構えているという風味がこのコーヒーに入っているに違いない。

 これが嫁二人を娶るというリア充への洗礼かと勝手に思いつつ、今後の予定を考える。

 昨日のうちに両親との顔合わせどころか、両親同士の顔合わせも無事終わり、結婚への問題は式場の確保と手続きなどと現実的な段階まで進んだ。

 マイットさんたちの関係でもう少し結婚式の話を進めたい流れで今日と明日は仕事も休みになった。

 このまま義父たちと話し続けるのも悪くはないがそれだけでは何かもったいないと思ってしまう。

 さてどうするかと思うが、パッとは思いつかない。

 普段だったら、暇ならダンジョンに潜って時間を潰していた。

 冷静に考えれば趣味というものはぱっと思いつかず、仕事のことばかり最初に思いつく段階でワーカーホリックに入っていないかと心配になるな。


「そういえば、マイットさんは研究者でしたっけ? なんの研究を?」

「……勇者の研究をしています」

「勇者を?」


 そんな折に俺はふと、マイットさんの職を思い出して何を研究してるか気になり話題を振ったが俺が考えていた内容はかすりもせず、想像していなかった内容が出てきた。

 そしてその内容を話すか一瞬ためらったマイットさんの目が細くなった気がしたのは気のせいではないだろう。

 さっきまで穏やかであったマイットさんの雰囲気が一瞬であるが剣呑になった。

 さっきの質問はそれほどまずいものであったかと思い返す。


「失礼、私の研究は魔王軍の中でも特殊でして、つい聞かれると間者の可能性を考えてしまう癖がありまして」

「なるほど」


 その考えが表情に出たのか、気まずそうに剣呑な雰囲気を出した理由を語るマイットさんの言葉に納得する。

 さっきの一瞬の中でそこまで考えていたのか。


「なにせ敵の切り札である勇者の研究は遥か昔から行われてきました。我々魔王軍と戦う先鋒にて決戦兵器ですからね。その異常な力を何も調べないという方がおかしいという話ですからね」


 しかし、すぐに穏やかな表情に戻ったマイットさんはゆっくりと話を進めてくれる。

 その様子には気づいていたが深く聞くこともないだろうと思いそうですねと同意する。

 誰もが仕事のことを、それも人間関係のことを聞かれたいわけではない。

 流すところはしっかりと流して教えてくれる内容に耳を傾ける。

 確かに、地球人が異世界から召喚される理由は国家の戦争を有利に進めるためとは言え、なぜ地球に住む一般人を召喚する必要がある?

 自国の戦士を神の加護で強化できなかったのか、あるいはなぜ戦いとは無縁の存在がそこまで能力を発揮できるか疑問はあった。

 空想の話だと一言で切り捨てられそうな話ではあるが現実的に存在するのなら知れる部分は知りたい。


「調べていくうちに判明した、大まかに勇者に求められるものは二つでした。一つは上位の魔力適性、これは勇者としての成長の限界、そして成長具合を指し示すものです。そしてもう一つは異世界から召喚される際に神から与えられるギフト、スキルです。私は主に、この神から与えられるスキルに関して研究を行っています」

「スキルは自分が身につけたものの派生だと聞いていますが、神のスキルとは違うのですか?」


 スキルとは過程の果てに結果として形になるものだ。

 俺の猿叫や斬撃はあくまで剣道や剣術の鍛錬から生まれたもの。

 しかしマイットさんの話しぶりからすればそのニュアンスが違うのは理解でき、言いたいこともなんとなく想像できるが確認の意味も含めて聞きなおす。


「勇者のスキル、我々は便宜上ギフトと呼んでいます。ギフトはスキルと違い神から勇者に与えられた能力のようなものです。そこに過程はなく気づけば与えられたものだと考えればいいですよ」

「なるほど」


 やはり想像通り、勇者のスキルはあくまで与えられたもので身に付けたものではなかったか。

 ならば次に疑問に思うのはなぜそんなものを研究しているのかだが、これもなんとなく想像ができる。


「人工的なスキルの付与、いや、ギフトの生成ですか」

「はい、その通りです。我らの主神の手を介さないギフトの生成、それが私の研究内容です」

「確かにそれなら戦力の増強に……って、どうしたメモリア」

「次郎さん仕事の話はそれくらいにしたらどうでしょうか? 話が逸れていますよ」

「おっと」


 人工的にスキルが付与できるようになれば色々と戦術や戦略に幅が出る。

 そうなればダンジョンの攻略も楽になるかと思ったが休日に話す内容ではなかったな。

 メモリアに止められなかったらきっと止まらなかった。

 これはいよいよワーカーホリックを心配しないとまずいか?


「私としたことが、ついいつもの癖で話し込んでしまいましたね」

「いえ、貴重な話をありがとうございます」

「概要程度の話でしたが楽しめてもらえて幸いです。スエラ、コーヒーのおかわりをもらえるかい?」

「はい」


 少し寂しそうに俺の気をひこうとするメモリアを可愛く思う。

 そして話はここまでと区切るようにマイットさんもコーヒーのおかわりを要求する。

 そうなると話は元に戻さないといけないわけだが、メンバーが足りない今は話がうまく進められない。

 俺はよほどのことがない限りは宗教的にも文化的にも問題ないが、ダークエルフや吸血鬼で結婚の際は何かしないといけないことがあるかもしれない。

 その段取りを細かく話すにはグレイさんとミルルさんが起きてからではないといけないのだが。


「おはよ~お婿ちゃん」

「……おはよう」

「おはようございます、グレイさんミルルさん」


 タイミング良くグレイさんとミルルさんも起きてきた。

 さらに人数が増え、これでようやく話が進むというものだろう。

 

「婿殿」

「はい? なんでしょうグレイさん」

「この後時間はあるか?」


 その話も俺が振るよりも先に話しかけてきた。

 初めてグレイさんから話しかけてくれたかもしれないと、心の脇で思いつつ、聞かれた彼の言葉にスケジュールを思いだす。


「大丈夫ですけど」

「なら、少し付き合ってほしい」

「どちらまで?」

「娘の結婚衣装の材料を取りに」

「へ?」


 数日は休みということで俺はてっきり話し合いの時間がかかると思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 問題ないと思い返事を返したものの、予想外の内容が出てきた。

 結婚衣装の材料を取りに行くとはなんなのか?

 そう疑問に思ったのが表情に出たのだろう。


「あ、そうか。お婿ちゃんは知らないか。私たち吸血鬼はね、求婚した相手から了承をもらえたら相手の衣装の材料は自分の手で取りに行く仕来たりがあるの! 贈る品物によって愛の深さを私たち以外の親族に示すためにね! まぁ、私はお婿ちゃんのメモリアちゃんへの愛は疑ってないけど老人の中には人間なんてって見下す吸血鬼がいないわけじゃないから。もう! お婿ちゃんは昨日私たちが認めたし別にいいのにね!!」


 それを察してくれてミルルさんが説明をしてくれる。

 なるほどそういうわけか、他種族との結婚にならそういった意味合いが含まれていても文化的には理解もできるし納得もできる。

 

「結婚衣装を作るのにも時間がかかるから材料は早めに用意しないといけないの。だ・か・らメモリアちゃんのためにダンジョンに行こう!! そこでしっかりとお婿ちゃんがすごいってことを証明しよう!! あ、安心してねスエラちゃんの分もしっかりと取ってくるから!!」


「メモリア、知っていたか?」

「いえ、初耳です」

「私もです」


 こういったことはイスアルなら当たり前なのかメモリアたちに聞くも彼女たちは知らない様子だった。


「当然! これは未婚の吸血鬼には伝えないからね。結婚するって決まって初めて知らされる真実というものだよ!!」

「どこの部族にもある秘密というものですよ。過去にこれを喧伝した部族はそれを理由に尻込みし結婚する男女が減ったということがあって既婚者だけの秘密になっているわけです」


 デンと擬音がつくように胸を張るミルルさんを見てスミラスタさんが補足を入れてくれる。

 それを聞きそういうものかと思う。

 郷に入れば郷に従え。

 普通のウエディングドレスを用意する気であった俺であったが、そういう話ならやることに否はない。


「そういうことなら、わかりました。材料はどんなものを用意すれば?」

「それを調べるのもお婿さんのお仕事、けど大丈夫! 私たちも自分で全てやれってひどいことは言わないから! 材料を揃えるのには義父であるグレイが手伝うし、衣装作りは義母である私が手伝うわ!!」


 サプライズよ!! とはしゃぐミルルさんであるが、当人の前で言っていいのかと疑問に思いつつ、この寡黙なグレイさんとどうやってコミュニケーションをとるか悩みどころだ。


「そういうことなら私たちも手伝いましょうか、ねぇスミラスタ」

「ええあなた、スエラとメモリアさんには立派な花嫁になってほしいですから」


 それを気にしてはいけないというようにスエラの両親であるマイットさんとスミラスタさんも参加する。

 それを喜ぶのはもちろん。


「ありがとう!!」


 事の提案者であるミルルさんだ。

 当人である俺たちは完全においてけぼりだが、役割は理解した。


「とりあえずダンジョンに挑むということでいいですかね?」


 花嫁衣装の材料探し、まるでゲームだと思いつつ。

 イベントミッションらしく、こうして俺は義父二人とダンジョンに挑むことになった。




 田中次郎 二十八歳 配偶者有り

 妻  スエラ・ヘンデルバーグ 

 メモリア・トリス

 職業 ダンジョンテスター(正社員)

 魔力適性九(準魔王級)

 役職 戦士


 今日の一言

 はじめての共同作業だ、慎重に。


今回は以上となります。

面白ければ感想、評価、ブックマークをどうそよろしくお願いします。

これからも本作をよろしくお願いします。

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