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118 選択の余地があるなら、検討すべきだろう

 田中次郎 二十八歳 配偶者有り

 妻  スエラ・ヘンデルバーグ 

    メモリア・トリス

 職業 ダンジョンテスター(正社員)

 魔力適性九(準魔王級)

 役職 戦士



「時空の精霊ね。これまた、子供心くすぐるワードだな」

「そうなのですか?」


 精霊の儀式の説明を受けてから時間が過ぎ、マイットさんから言われた精霊の名を思い出すかのように口ずさむ。


「子供ってのは最強とかすごいってワードに反応するだろ? 男の子なら尚のことだ」

「そうかもしれませんね、小さい子供なら一回は特別な精霊との契約を夢見ますね。私も覚えがあります」

「だろ?」

「ええ」


 語るスエラはそういえばと昔そんな人がいたなという口ぶりだ。

 俺自身も将来の夢はヒーローだという子供の頃の友人の一人や二人は知っている。

 それくらい契約予定の精霊のスペックは高いと予想される。

 俺的にはそんなご都合主義の塊と言えるようなモノと戦うことになるかもしれないと思うと、昔ならため息を吐きたくなり頭痛に悩まされてたのだが……


「次郎さん楽しそうですね」

「あの教官たちの影響か、戦うこと自体に忌避感というのを感じなくなるどころか強者に挑む楽しみってのを感じ始めているよ」


 今はそれはない。

 それどころか、戦いのことを思うだけで僅かであるが高揚感すら感じている。

 自分がここまでバトルジャンキーだとは思わなかったが、その素養はあったようだ。

 たとえ負けるとわかっていても戦ってみたいと思う。

 強くなることや精霊との契約なんて関係なくだ。

 気負うことなく挑めるという段階まで精神が鍛えられた証拠だと、この姿を教官たちが見たら口を揃えて言うだろう。

 そして、制御していた力のタガを嬉しそうにしながら一つ外すだろう。


「普通のダークエルフなら、ヴァルスの名前を聞いただけで冷や汗をかくものだけど、次郎君は違うようだね」

「そうね、中には特級と聞くだけで背筋を伸ばす子もいるのだけれど」


 向かいに座るマイットさんとスミラスタさんは感心したように頷いている。


「教育の賜物ってことにしておいてください」


 地獄の三丁目あたりに足を踏み入れそうな経験を積んできたせいだとは言いづらく、そこは言葉を濁しておく。


「それよりも、ヴァルスのことを教えてほしいのですが」

「そうだね、と言いたいところだけど僕自身ヴァルスのことを詳しくは知らないんですよ。いや正確には僕たちの一族でもその強さを知る者はほぼいないと言っていいかな」


 せっかくなので話題転換も試みるが、あいにくとそれも空振りに終わる。

 少しでも情報を得たい俺からすればマイットさんの解答は肩透かしといってもいいだろう。

 さっきから残念という言葉を聞かされ続けているような気がするが、申し訳なさそうにするマイットさんを攻めるわけにもいかない。


「年に何人かが挑むけど、その全員が全容を把握できずに追い返されていますからね。わかっているのは攻撃がきかず、防御ができず、見えない。それゆえ最強の一角と捉えられている精霊ですから。父も次郎君の魔力適性と成長具合を見てもしやと思って勧めるのかもしれませんが」


 かもしれないと言っているが、マイットさんの中では既に確信めいたものがあるのだろう。

 自分の父親なら間違いなく俺にその精霊との契約を勧めると。

 本来であれば希望してその精霊に挑むのが通例であるはずなのだが、希にこういった仲介人を挟むケースもある。

 その場合はその仲介人が勧める精霊と契約するケースがほとんどだ。


「もしくは、スエラと結婚するならそれくらいやってみせろって意味合いかもしれませんけどね」

「お義父さんなら、ありえるわね」

「そっちの方が本命のような気がしてきました」


 箔を付ける意味合いもあるかもしれないと暗に伝えるマイットさんに俺はあり得るとしか言えなかった。

 それくらいのことはしそうだと思えるくらいの御仁だとこの短い期間に植えつけられたとも言える。

 最初が好意的な出会いだったから忘れていたが、それくらいの試練を課してきてもおかしくはないだろう。


「なら、俺はそれに全力で応えるとしますよ」

「私たちも期待しているよ」

「ええ」


 プレッシャーではなく期待、その違いは負担に思うかそうではないかの違いでしかないと俺は思う。

 今回は後者だ。

 スエラの両親からの期待に俺は応えたいと素直に思えた。

 ならば契約の儀式までは素直に鍛錬するなり、ダンジョンに挑むなりして時間を過ごそうと思う。

 そう思って、ふと喉の渇きを覚えコーヒーカップに手を伸ばすもあいにくと中身は空だ。

 おかわりしようにも、作り置きはなく。

 また一から入れ直さないといけない。


「私が行きますね」

「そうか、頼む」

「スエラ、私も手伝いますよ」

「ありがとう、お母さん」


 キッチンに行こうとしたがそれよりも先にスエラが立ち上がりカップをもちキッチンに向かっていった。

 だが、四人分となると一人では手間だと思ったのか、スミラスタさんも立ち上がりキッチンに向かった。

 似た顔が並んでキッチンで作業する姿はまさに親子だ。

 その姿を見て、今まで聞かなかった疑問をふと思いだした。


「あのマイットさん」

「なんですか?」

「俺とスエラの子なんですが、やっぱりハーフになるんですかね?」


 日本人が外国人と子をなせばその子は日本とその結婚した国の人種の血を引くことになる。

 比率の差こそあれど、ハーフにはそれぞれの国の特徴が出る。

 ならば、人間である俺とダークエルフのスエラとの子供もそうなるのではと思った。

 しかし、今までゴタゴタしていてそのことを聞くタイミングがなく、今まで保留にしていたのだ。

 ならばこのタイミングで聞くのも有りだろう。


「そうか、次郎君は異種族どうしの子供がどうなるか知らなかったんだね」

「恥ずかしながら、こっちの世界の常識だけで判断していました」


 こっちの知識といえど、単純な創作世界の設定に鑑みた予測だ。

 決して現実的な話ではない。

 その知識からくる俺の考えなど予測の領域どころか、そうではないかと勝手に思い込む程度の発想でしかない。

 そんな俺の無知具合を仕方ないよとマイットさんは笑って流してくれた。


「イスアルでは基本的に生まれてくる子供の種族は母体の種族になりますよ」

「母体の? ハーフエルフとかは存在しないんですか?」

「君の言うハーフエルフというのは人間の特徴とダークエルフの特徴を兼ね備えた存在のことを指すのでしょうけど、結論から言えばそういった存在はいませんね。生まれてくる子孫は例外こそあれど母体の種族と一緒になります。これは神が決めたことと言われる説もありますが、その全容は判明していません。希に父親側の種族になる時もあるけど、その確率も千人に一人くらいの確率ですね」


 理屈は分からないし、遺伝子的な話になれば畑違いの俺からすればお手上げで万歳三唱ができる。

 生命の神秘とでも思っておけばいいだろう。

 となると俺たちの子供も基本的にスエラやメモリアの種族になるということか。


「変な障害とかそういうのはないんですよね?」

「うん、君の体とスエラの体が健康であれば問題ないですよ。こっちの世界だったら異種族どうしの結婚なんて珍しくもありませんからね。そういった対策も経験も十分に蓄えていますよ」

「そうですか」


 疑問に思っていたことが解決し、尚のこと精霊との契約を成し遂げないといけない理由が増えた。

 妻と子供だけ残して老衰とか、寂しすぎる。

 そう思って決意を固めていると、寝室の扉が開く。



「おはようございます」

「おはようメモリア、昼だけどな」

「フフ、おはようございますメモリア」


 昼近くになり、起きてきたメモリアに苦笑しながら昼に近い時計を指差す。

 キッチンの方からもスエラが挨拶する。


「ミルルさんたちは?」

「まだ寝ています。父も母も本来でしたら夜行性ですから、昨日は少し無理をして起きていたようで、もう少ししたら起きてくるかと」

「そうか」


 そのままスエラがさっきまで座っていた方とは反対の俺の隣にすっと座る。


「それで、どんな話をしていたのでしょうか?」

「ああ、俺が契約する精霊の話をちょっとな。可能なら情報を集めようと思ったんだが、あいにくと用意してくれる相手はよほど特殊なようでな」


 子供の話もしていたが、まだ身ごもっていないメモリアにその話を振るのもなんとなく違うと思った俺はその一個前の話題を振る。

 その話題になるほどと頷いた彼女に時空の精霊ヴァルスの話をするが。


「名前は聞いたことはありますが、詳しくとなると」

「そうなるよな」

「はは、うちの一族でも滅多に話題にならない精霊だからね。強いけどマイナーになりがちな存在だよ」


 他種族であるメモリアにはあまり耳にしない話のようだった。

 仕方ないと思いつつ、メモリアが起きたことでスエラは昼食の準備に取り掛かっているので戻ってくるまでは時間がかかる。


「そういえば、昔聞いたことがあるんですが吸血鬼の方で別の種族と結婚した時に交わす儀式があるって、それは本当ですか? ああ、秘術とかだったら無理に話さなくていいですよ」


 話題提供というよりは研究者であるマイットさんの興味の方が勝ったというべきだろう。

 昔聞いた話の真実を確認するように話題をメモリアに振ってきた。


「血の交わりのことですか?」

「それなのかはわからないけど、寿命を分かち共に過ごす神聖な儀式だと聞いていますね」

「血の交わり?」


 聞いたことのない話題に今度は俺が聞き手に回る。


「私たち吸血鬼の結婚式での古い習慣ですよ。古では互いの血を飲みあい、命を分かち死が二人を割くその日までの時間を与えるという儀式でした」

「でしたということは、今はやっていないのですか?」

「形式ということで残っていますが、やる方は最近では見かけませんね。異種族との婚姻も少なくなっていますし、儀式の難しさもあります。なにより本格的なことをするための道具を用意するためにはお金がかかりますから」

「なるほど、おいそれとできるものではないということですか」


 そこは精霊の儀式と違い経費がかさむということだろう。

 それならあまり執り行われないのも納得だが、その効能はなんだろうと興味がわくのも事実。


「ちなみにメモリア、その儀式をするとどうなるんだ?」

「いたって単純です」


 素直にそれを聞く。


「吸血鬼になれます」



 田中次郎 二十八歳 配偶者有り

 妻  スエラ・ヘンデルバーグ 

 メモリア・トリス

 職業 ダンジョンテスター(正社員)

 魔力適性九(準魔王級)

 役職 戦士


 今日の一言

 着々と準備は進む。


今回は以上となります。

これからも本作をよろしくお願いします。

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