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115 万国共通、飲みニケーションにスパイス混入

 田中次郎 二十八歳 配偶者有り

 妻  スエラ・ヘンデルバーグ 

 メモリア・トリス

 職業 ダンジョンテスター(正社員)

 魔力適性九(準魔王級)

 役職 戦士



 スエラの声に招かれて扉を開けて中に入った俺はそのまま脇にそれてお袋たちを中に入れる。


「はじめまして、スエラ・ヘンデルバーグと申します」

「メモリア・トリスといいます。この度はお会いできて嬉しく思います」

「……アハハハハ!! 次郎そういうことかい。あんた、まさか嫁を二人も連れてくるなんてさすがのあたしも予想ができなかったよ!!」


 扉を開けた先でスエラとメモリアが二人で並び立ってお袋に会釈をする。

 その仕草を見て数秒間沈黙したお袋は全て理解し、笑いながら俺の背中をバシバシと叩き始めた。

 オヤジといえばスエラたちヘンデルバーグ一家を見て、右手に握り拳を作りエルフだと喜び感動している。

 正確にはダークエルフなのだが、それを今突っ込むつもりはない。


「まぁ、見るからに普通じゃない会社だからあんたが連れてくる子も普通の子だとは思ってなかったけど、まさかこう来るとはね。うちの息子も大したものだよ。これなら孫の顔を見れるのは早そうだよ」


 二股に対してお袋はとくに咎めることはせず、むしろそうかと納得するように頷いた。

 少し安心したような表情を浮かべているが、その安心はもう少しあとにして欲しい。


「それならもういるぞ」


 なにせ、二股に加えてもう子供がいると報告するのだ。

 お袋の横からスエラとメモリアの間に入り、ポンとスエラの肩を叩くとスエラは頬を染めながらそっとお腹に手を添える。


「なんだい、なんだい、今日はあたしを驚かす日かい? さっきから驚いてばっかりだよ。これで冗談だとか抜かしたら、次郎、分かってんだろうね?」


 普段からなんとなく予想がついていると達観しているお袋の顔は、過去類を見ないほど驚いたと素直に表情を表している。

 そして飲み込むように表情を一変させ真剣な表情を見せる。

 その顔を見て、してやったと思いつつも嘘偽りはこの先は言えない。

 俺はようやく、この言葉を言うことができる。


「ああ、わかってるさ。お袋、俺さ二人と結婚する」

「そうかい、それならあたしから言うことはないよ。幸せになりな」


 親子として会話は少ないかもしれないが俺たちの間でならこれで十分だ。

 ホッとしたような、優しそうな表情になったお袋は


「さぁて!! 湿っぽいのはここまで! 義理とは言え娘ができたんだ。飲むよ次郎!! そちらの方々も一緒にどうだい?」


 一瞬でその表情をいつもの顔に戻した。

 そしてクイッと手酌をするような仕草を見せ、それが何を示すかは一目瞭然。


「おお~、いいねぇ~!」

「あらあら、めでたい席ですし、親同士親交を深めるのにいいかもしれませんね」


 最初に乗ってくるのは男性陣だと思ったが意外なことに先に女性陣が反応を示した。

 それを見てホッと安堵するような仕草を見せ、そのあとに嬉しそうな表情を見せる男性陣に、どこの家庭も女が強いというのは変わらないのだなぁとなんだか微妙な感情を抱く。

 そして、一度言い始めたら聞かないお袋だ。

 次に出てくるのは


「次郎! どっかで飲める場所はないのかい?」

「言うと思った……」


 自ずと想像できるものだ。

 だが、どうするかと悩む。

 地下施設へ入ることは許可をもらっていない。

 この会議室も会社の施設で飲み会を催すことは許されていない。

 かと言って、一人暮らしの俺の部屋に招くもお袋たちだけならまだしも、他のメンバーも加えるとなれば手狭以前の話だ。

 パーティールームでも少し狭いと思いつつどうするかと悩んでいると。


「それでしたら、いい場所がありますよ」


 その悩みを解決するようにスエラはニコリと笑ってくれた。






 酒というのは万能のコミュニケーションツールではないだろうか。

 そういった建前を理由にして飲む人物を数多く見てきたが、今なら多少は理解できる。

 滑り出しこそノリと勢いに任せた突拍子のないお袋の発言からだったが、スエラとメモリアの両親もそれに同調して意外とスムーズにその話はまとまった。

 用意された部屋で笑い声が響き、テーブルには様々な料理や酒が広がり、リビングには小さい宴が催されている。

 参加するメンバーの表情は皆楽しんでいるとわかるように笑顔だ。


「こんな場所があるなんて知らなかったな」

「ええ、本来でしたら世帯用の部屋だったんですが、テスターの方々に妻帯者の方はいませんから全て空き部屋なんですよ。ここは寮内なので許可も取りやすいので」

「なるほどな、それとありがとうなメモリア。家具とか用意してもらって」

「お役にたてたならなによりです」

「婿殿ー! 嫁の相手ばかりせず、このじいさんの相手もしてくれてもいいではないか!!」

「父さんもう少し声を抑えて! ああ、グレイさんイチロウさん、父が騒がしくてすみません」

「構わん」

「いやぁ、僕も気にしてませんよ」


 個人用の部屋では考えられない広々とした十畳ほどのリビングにテーブルが置かれ、各々好きなように飲み食いしている。


「はい、こちらが私たちの村でよく食べられているきのこの炒め物ですよ。あなた、そっちにも配ってください」

「待ってたよ、うん、さっきの肉料理もうまかったけどこっちも素材の味がしっかり出ててうまいねぇ」

「ありがと~、ダークエルフの料理は久しぶりに食べるけど、やっぱりおいしいね~」


 飲み食いしているだけの男性陣とは違い、代わる代わる台所に立つ母親勢。

 最初に一気に手分けし料理を済ませ、あとは酒を片手に補充するかのように料理を作る手際はさすが母親というところだろう。

 無駄がなく、少し席を立ったかと思うとすぐに戻り会話に参加している。


「呼ばれたようだ、少し行ってくる」

「ええ、では私たちはお義母様と話していますね」

「おおーこいこい! 女だけの秘密の話をしよう!」

「お袋、ほどほどにしろよ、スミマセンがお義母さんたち、母をよろしくお願いします」

「わかったよー」

「ええ、うけたまわりました」


 俺たちは主役ということで、会場の用意こそスエラがしたが、他の料理や酒の手配を手伝うことはなかった。

 なのでこうやってのんびりと母親勢や父親勢の間を行ったりきたりを繰り返している。


「よく来たよく来た! ほれ、婿殿、まずは一献」

「どうも」


 爺さんには見えないが本人曰くスエラのじいさんは再び来た俺を笑顔で迎えてワインのボトルを俺に差し出す。

 教官たちと飲んだ酒に比べれば度数の低いワインをコップに注がれ、そっと飲む。

 この人の明るい雰囲気もこの宴の準備に役立ったとも言える。

 何せ宴が始まった途端に、背中を叩き。


『本当にでかしたぞ婿殿!! これで、ヘンデルバーグ家も安泰だ!』


 と、スエラに子供を宿したことを称えられてしまったのだから。

 人間との間の子供であっても気にしないムイルさんの気概は、デキ婚してしまった俺の緊張も和らげてくれた。

 おかげでこうやって会話もスムーズに持ち込めるようになった。


「お義父さんたちも楽しんでいるようでなによりで」

「ああ、次郎君こっちのワインは美味しいとは聞いていたが、なかなかだね」

「うむ、クセになる」

「僕としては是非とも日本酒を勧めたいところだよ~是非とも飲んでくれ」

「それは楽しみだね」

「うむ」


 すでに数本のボトルが空になり、アルコールに対しては人並みの強さしかないうちの親父は既に酔っ払っている。

 ほかの面々はまだまだ平気そうだが、親父の様子を気にした様子はない。


「それにしてもさっきのジャンケンは凄かったね。僕の目だと手が何本も生えているように見えたよ」

「ははは、あれくらいならこちらの世界ならある程度魔力強化を習えば誰でもできますよ」

「うむ」

「いいなぁ、次郎、本当に僕は魔法を使えないのかい?」


 そして酔っぱらいというのは急に話を変えるものだ。

 オヤジが話題にしたのはさっきまで問題だった義父呼びをどっちが先に受けるかのそれだった。

 再びその話題が出たときはどうするかと悩みそうになったが、それを決めるのを鶴の一声ならぬお袋の一声でジャンケンとなった。

 最初から乗り気だったメモリアの父親のグレイさんはともかく、意外とスエラの父親であるマイットさんも乗り気だった。

 全力で魔力強化していたことは突っ込まず、高速で次から次へと手の内容を変えていたことは素直にすごいと思えた。

 そして、勝利を掴んだのはマイット義父さんだった。

 礼儀正しそうに見えて元気な若者じいさんのムイルさんの息子なのだろう、嬉しそうにガッツポーズしていた。

 その隣で表情には出さず雰囲気だけでへこんでいたグレイさんは奥さんであるミルルさんに慰められていた。

 同じ内容で義母呼びも解決しようとしたが、そちらは既に話がついていたようで子供を授かったスエラを祝って譲ると言ってくれた。

 まぁ、それでも後でミルルさんもお義母さんと呼ぶことになったのだが、どうも年下に見えるミルルさんをお義母さんと呼ぶのは違和感があった……

 そんな一連の流れで親父が目をつけたのはやはり魔法だ。

 元々写真家になったのも未知のものを見たいという好奇心が元だった。

 それが子供の頃から大人になっても続き、今では未開のジャングルですら恐れず進む好奇心の塊のような親父が出来上がった。

 そんな親父が魔法に興味を持たないわけがない。


「魔力適性を測ってみないとわからんが……この会社の結界にはじかれたってことはそこまで高くないってことだからなぁ。測ってみるか?」

「測れるの!?」

「ああ、確か部屋に魔力適性を測れるチラシが」

「はい次郎さんどうぞ」

「ああ、ありがとうスエラって、どこから取り出した?」

「必要だというのが聞こえましてテスター課の保管庫から取り寄せました」

「転移魔法か、相変わらず便利だな」


 お袋との話を中断し用意してくれたスエラにもう一回ありがとうと言いチラシを親父に渡す。


「それで次郎、この白紙がどう変わるんだい?」

「適性があれば文字が浮かび出て求人広告に変わる」

「それでそれで?」

「右上に数字が浮かび出て魔力適性が幾つかおおよその測定値が出る」

「うん、その検査はどれくらいかかるのかな?」

「一瞬」

「え?」

「だから一瞬だ」

「次郎、白紙なんだけど」

「すなわち、魔力適性なし。魔法は使えないってことだな」

「うえぇぇぇん、きりかぁ!」

「ああ、もう、いい大人が泣くんじゃないよ。たかが紙切れ一つの反応に」

「うう、だってぇ、だってぇ、まほうだよ?」


 俺の予想は魔力適性二くらいであったが、まさかの魔力適性なしとはな。

 一瞬の空白の後に涙目になった親父はお袋に向けて飛びついた。

 それを慌てることなくグラスを避けながら難なく受け止めるお袋は並みの男より男らしい。

 グレイさんやマイットさんにムイルさんも心配そうに親父を見ているが、いつものことだとヒラヒラと手を振りながらお袋は笑い飛ばす。

 そして親父が握りしめていたチラシをするりと抜き取り、しわくちゃになった紙を覗き込む。


「はいはい、その魔法と触れ合えただけで満足しときな。たく、こんなチラシ一つでって次郎、あんた意外と給料もらってたんだね」

「そこに書かれている額と同じってわけじゃないがなって、お袋は読めるんだな。適性はいくつだ? 右上に書かれているだろ?」

「ん? 十って書かれているよ。これは低いのかい?」

「「「「「十!?」」」」


 無知とは時にとんでもないことをさらりと口にしてしまう。

 俺を含め魔力適性の数値の意味を知る面々は最高値をたたき出してしまったお袋の発言に驚きの声を上げてしまう。


「ちょっと見せてくれお袋!!」

「なんだい、そんなに驚くことかい?」


 事情を理解していないお袋がキョトンとしながら俺に問いかけるが今の俺は冷静ではない。

 なにせ確率的には宝くじを当てるよりも希少だという話の魔力適性十だ。

 お袋の向かい側から手を伸ばしひったくるようになって申し訳ないがその紙を掴み取る。

 そのまま見間違いを確認するように俺が見た紙には間違いなく十と言う数字が書かれていた。


「マジか」


 ポロリと現実と向き合った俺からこぼれた言葉は短かった。

 俺の魔力適性が高かったのはお袋の遺伝だったということか。

 お袋よりも若干低かったのは親父の影響か、あるいは遺伝で劣化したかは判断がつかない。

 しかし、これで型破りなお袋のスペックの謎の一片が解けた。

 魔王と同等、まさに勇者級の能力を持っているのならあの直感も納得だ。


「グスン、そういえば霧香は学生の頃に幽霊に追いかけられて逃げ切ったって言ってたね。幽霊が見えたのもやっぱり霧香が魔法を使えるからかなぁ」


 さっきまで楽しげに話している空気が一変し騒然となる中で割り込んできたのは、やはり同じ事情を知らない親父であった。


「そうなのかい?次郎」

「いや、地球は魔力が基本的にないから魔力適性があっても幽霊が見えるかどうかまでは関係ないはず」


 未だ現実に追いついていない俺はチラシから目が離せず、ただ単に質問に答えただけだった。

 メモリアやスエラも俺の脇から覗き込み数字を見て驚いて何も言えなくなっている。

 それはその背後からさらに覗き込んでいるお義父さんたちも一緒だ。


「そうかい、それなら安心したよ。あたしも一回しか見たことないけどあんな体験は一度で懲り懲りだよ」


 俺たちはお袋の話どころではなく、この数字をどうするか頭を悩ませているため聞き流していたが。

 そんなことなどお構いなしに、そういえばとお袋は昔を懐かしむようにビールの入ったコップを傾けながら思い出を語る。


「それにしてもあれは幽霊にしてはおかしなもんだったよ。嫌な予感がしたと思ったらいきなり地面が光ったんだよ? その時に背筋がこう一気に鳥肌が立ってねぇ。咄嗟に避けたけど、そしたら大きな光の玉になってあたしを追いかけてきたんだよ。それだけでもおかしかったのに、あなたの力が必要なんですって語りかけてくると来た。コイツはヤバイって思って逃げ出したら、次はこの光に入ってって叫びながらしつこく迫ってくるものだからさぁ」

「うんうん、僕も何回も聞くけどおかしな話だよね」

「そうそう、おかげであたしは一日中逃げ回って、日暮れにはどうにか撒いたけど、あたしもさすがに幽霊に取り憑かれたらまずいと思ってそのまま一晩中実家の裏にある滝で身を清めたよ。悪霊退散てね。まぁ、その次の日は風邪ひいて寝込んだけどね!! ってどうしたんだいみんな。鳩が豆鉄砲くらったような目をして」

「いや、お袋、それって」


 なんでもない雑談を元気に笑いながらしているお袋の話を聞いた俺たちはさっきまでお袋の魔力適性に驚いていたが、絶対に聞き逃してはいけないそんな話のおかげで視線はお袋に集まった。

 その聞き覚えのある光景に何がお袋の身に起きたか悟った。

 そして俺は代表し伝える。


「勇者召喚じゃないのか?」



 田中次郎 二十八歳 配偶者有り

 妻  スエラ・ヘンデルバーグ 

 メモリア・トリス

 職業 ダンジョンテスター(正社員)

 魔力適性九(準魔王級)

 役職 戦士


 今日の一言

 自分の母親が思ったよりもすごかったことがわかった。

 ああ、予想以上に。


今回は以上となります。

これからも本作をお願いします。

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