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113 臨機応変に対応・・・・・できるか!?(キレ気味)

田中次郎 二十八歳 配偶者有り

妻  スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性九(準魔王級)

役職 戦士



カチカチと店内の壁かけタイプ時計の音が聞こえる。

それくらい店内が静かになったということだ。

そんな静寂の中で俺の頬に汗が一筋垂れる。

先ほどの明るすぎる吸血鬼、メモリアの母と思われる存在の登場のあと、威厳のある厳しそうな紳士を思わせるメモリアの父であろう男性の登場というギャップのせいか空気がガラリと変わり俺は対応できていない。

慌てることはなかったが、それでもできることといえば、背筋をピンと伸ばし相手が話を切り出すのを待ちながら相対するくらいだ。

だが、この時の俺は突然のメモリアの両親の登場で緊張し気づかなかった。

向こうも向こうで、何を話せばいいかわからずこちらから話を切り出すのを待っているとは。

それも仕方ないことかもしれない。

なにせ今の気分は目の前の吸血鬼の男性を前にして、裸一貫で野生のライオンと相対しているような感覚を味わっているのだから。

まさに殺るか殺られるかの瀬戸際、それくらいの威圧を目の前の存在から感じて冷静ににこやかに挨拶しろと言う方に無理がある。


「もう! グレイもお婿さんも緊張しすぎだよ!! ほらスマイルスマイル!!」


そんな空気を壊してくれたのは、メモリアの母親だった。

その身に違わない身軽な足音を静かになった店内に響かせながら目の前の紳士の背後に周りポンポンと背中を叩く。

そのあと俺に向けてメモリアと似た顔でニパァと朗らかに笑ってくれる。

年上であるが年下に見える彼女の行動で俺の肩の力が抜ける。

それは向こうも同じなようでさっきよりも幾分か雰囲気が軽くなった気がする。


「ごめんねぇ、脅かすつもりはなかったんだけど脅かすような態度とっちゃって。グレイって仕事はできるんだけど口下手なんだ。慣れればそうでもないんだけど初対面だとどうも固まっちゃって。さっきなんてメモリアちゃんとお婿さんが会話していて入るタイミングを逃しちゃって扉の前で十分くらい立ち尽くしちゃったんだよ。まぁ、そこが可愛いところなんだけどね!!」


この娘はやらんと叫んできそうな紳士、グレイさんをコミュ障と表現するメモリアの母親はコノコノと肘で紳士の脇を突く。

そんな対応をされても目の前の御仁は表情一つ動かさずにいると思われたが、よくよく観察してみればちらりと数度にわたりにこやかに場を和ませようとしている彼女に向けて視線を送っていた。

その姿は助けを求めているようにも見えた。

それを見て僅かに威圧感を覚えつつも、何故か必死に何を話せばいいか考えているのではとどことなく親しみを感じられるようになってきた。

空気も幾分か軽くなり、そんな二人に俺がかけられる言葉といえば。


「はじめまして田中次郎と申します、娘さんのメモリアさんと交際させてもらっています」


自己紹介以外何者でもない。

いきなりの登場でメモリアの両親だというのは知っているが肝心の自己紹介はしていない。

切り出し方としては間違ってないと思う。

軽く会釈しながらの挨拶にメモリアの母親は一瞬キョトンとした表情を見せたあと、はっと何かを思い出すような仕草を見せたあとアハハと笑ってみせた。


「ああ! ごめんね。おばさん、すっかり自己紹介忘れていたよ。私はミルル・トリス。こっちは旦那様」

「グレイ・トリスだ」

「わかってると思うけど、私たちがメモリアちゃんのお母さんとお父さんだよ!」


元気いっぱいの中学生かと思わせる数々の仕草、そんな彼女のおばさん発言はいささか無理があるのではと思う。

そう思いつつ苦笑一つこぼしそうになるがそこはグッとこらえる。

そして、その隣にいる紳士の声は想像していた通りの渋い声だ。

これで少しは会話がはずめばと思うが……


「……」

「……」


生憎とそうは問屋が卸さないらしい。

自己紹介のあとはまた沈黙が続いてしまう。

助けを求めようと視線をずらすも、ミルルさんはニコニコと笑顔を浮かべこちらを見守っている。

その仕草は俺を見定めているようにも見える。

ちらりと背後に視線を向けてもメモリアは静かに俺に寄り添い静観の構え。

こっちは、頑張ってくれとそっと俺の袖を握っている。

形は違えど親子だと思わせる態度にここは男を見せるぞとグッと気合を入れる。


「えっと、仕事はダンジョンテスターをやっています」

「商人をやっている」

「……歳は28です」

「数えるのをやめた」

「お若く見えますね」

「吸血鬼は老けにくい」

「そ、そうですか。こちらでも吸血鬼はかなりの強さを誇りますし、そういった面もあるのでしょうね。一応私もそこそこの強さを持っています」

「……人間の師団を滅ぼしたことがある」


その気合もすぐに折れそうだ。

会話が展開できない。

そんな相手に、お願いだから短文で返すのはやめてくれ!! と叫びたい衝動に駆られる。

加えてコミュ障か!? って叫びたくなる。

あと、後ろのメモリアもそうだが、目の前のミルルさんも必死になって笑いを堪えないでくれ!!


「えーと」

「……」


そのあともなんとか折れずに幾つか自己紹介みたいな質疑応答を重ねるが、雑談の一つもできていない。

分かったのはこの人が商人で歳は数えるのをやめるほど重ねているということで、戦闘能力はおそらく今の俺よりは高いのだろうと推測できる。

商人がなんで戦うのか? と疑問に思うがスルーしよう。

決して地雷を踏み抜きたいとかそういうわけではない。

最後のはメモリアを守れるという意味で言ったが、言わなければ良かったと少し後悔している。

そんなやりとりをしていて、ついに何を言えばいいかわからなくなった。

幸いなのは話せば答えが返ってくるといったことなのだが、それだけで場を持たせるのはなかなか骨が折れる。

またもや、カチカチと時計の音だけが響く。

俺的にはもっとこう、なんというか。

両親の挨拶というのはもっと会話があるものだと思っていたが、良くも悪くも会話がなさすぎる。

俺の中ではメモリアの両親にしろスエラの両親にしろ、娘はやらん!!的な会話を覚悟していたのだが、そんなことが一切ないのはさすがに予想外だ。

最悪土下座してでも認めてもらおうと思っていた覚悟が別の方向で活用されているため、どう対応すればいいかわからなくなり始めている。


「もう! グレイ! 出てくるときに考えていた質問内容はどうしたの!!」

「……忘れてしまった」

「あちゃー、三日三晩考えたのに……はぁ、それじゃぁ、仕方ないね。それに見た感じ悪そうな人間じゃなさそうだし」

「ああ」


そんな俺に助け舟が渡される。

あまりにも会話が弾まなかったためだろうか、彼女は仕方ないと言わんばかりに苦笑を一つ見せてくれた。

ようやく会話に入ってきてくれたミルルさんに俺はホッと胸を撫で下ろす。


「どうやら大丈夫そうですね」

「ああ、今の会話で何が起きたか理解できないが、とにかく悪い印象は持たれなかったのはよかった」

「いえ、そういうことではなく、父が次郎さんに襲いかからないか心配でしたので」

「俺ってそこまで危険な立場だったのか!?」

「冗談です」

「冗談かよ……勘弁してくれ、お前の冗談はたまに冗談に聞こえないんだよ」

「そうですか?」

「ああ」

「クス、そうかもしれませんね」

「おーメモリアちゃんが笑った」

「む」

「そんなに驚くことですか?」


さっきの質疑応答にまさか身の危険があったとは思わなかった俺は思わず驚く。

だがメモリアに冗談だと言われホッとしながら、からかわれたと理解しコツンと軽く握りこぶしでメモリアの頭を突く。

それを受けたメモリアは僅かに首を傾けながらうっすらと笑う。

その姿を見たメモリアの両親は驚いたと言わんばかりの表情を見せる。

まぁ、グレイさんは僅かに目を見開く程度だが。


「うん! けど嫌だってわけじゃないよ? メモリアちゃんはグレイに似ちゃってあんまり感情を見せてくれないから! うん! こうやって笑顔を見せてくれるお婿さんと出会えてお母さん嬉しいなぁ!!」


ねぇととなりに立つグレイさんに同意を求めればうむと短く同意するように頷いた。


「ねぇねぇ! 私のことお義母さんって呼んでみて!! 私、息子も欲しかったんだ」

「む」

「いや、えっと」

「お父さん、お母さん、次郎さんが困っているから落ち着いてください」


最後の決め手はやはりメモリアか。

娘の信頼を勝ち取っているなら問題ないと、見定めはこれで終了と言わんばかりに目の前の二人の雰囲気が軟化した。

有り体に言えば距離感が近くなった。

そう思わせるほどメルルさんのお願いというのはありふれたものだった。

しかしあからさまに年下に見える、ヘタをすれば娘と間違われてもおかしくない容姿年齢の女性から義母と呼んでくれと呼ばれることも然ることながら、無言で義父と呼んでくれと圧力をかけてくるグレイさんにもどうしたものか。

まだ結婚を許してくださいと言う前にこうも好感触を得られて正直俺も困惑している。

だが、このお願いを断るのも難しい。

ここまで好意を見せてくれるならそれを無下にはできない。

気が早いと思いつつ。

そう呼ぶのもやぶさかではない気持ちに従い。


「お「その呼び名待ったぁぁぁぁあ婿殿ぉ!!」?」


彼らの希望に沿い、そして言えなかった結婚の許可をもらうためにそう呼ぼうかと思って口を開こうと思ったタイミングで店内に聞き覚えのない声が響いた。

そして


「とう!!! 私、推参!!」


深緑色のローブをまとった、これまた好青年と呼べそうなダークエルフの男性が店内に乱入してきた。

玄関口が開けっ放しだったのが幸いしたのか飛び込むように入ってきたのにもかかわらず、建物自体に被害はない。


「警戒することはない婿殿!! 私の名はムイル・ヘンデルバーグだ!」


だが、突然の乱入者ということで俺もメモリアの両親もつい戦闘態勢をとってしまった。

俺は鉱樹の柄に手を伸ばし、グレイさんは重心を低くし目を紅く光らせていた。

しかし、男の名乗った苗字を聞きもしやと思った。


「ヘンデルバーグ? もしかして」

「そう! スエラの祖父だ!!」

「父親じゃないのかよ!! 若いな!!」

「ハハハハ! よく言われる!! 何せルナエルフだからな!!」


だが、登場した人物はまさかの予想を反した人物であった。

思わず誰だ!? と叫ばなかった俺を褒めてほしい。


「ほら息子よ!!! 早く来んか!! 危うく義理の父と呼ばれる瞬間を先取りされるところだったんだぞ!! そんなことがあれば我がヘンデルバーグ一族、末代までの恥となるぞ!!」

「はぁはぁ、無理を言わないでください!! 父さんと違って私は研究職なんですよ! それにいきなり走り出して人様の店の中になに突入しているんですか!!」

「あらあら、お義父様ったら」


その後ろから全力で走ってきたのであろうダークエルフの男性が息を切らせながら入ってきて全力で男に向かって叫ぶ。

その姿はどことなく仕事中のスエラを連想させる。

その後ろには余裕を見せるように優しそうな笑みを浮かべるスエラがさらに年を重ねればそんな感じになるのではと思わせるダークエルフの女性が立つ。

その光景を見て最初の警戒はなんだったんだと思うくらいにすっかりと毒気を抜かれた俺たちは黙ってそのやりとりを眺めるしかなかった。

最初に俺が突っ込んだのもあってか、手はすっかりと鉱樹から離れて、グレイさんも構えを解いている。


「あー、メモリアちゃんが言ってたもう一人のお嫁さんのご両親か~私はメモリアちゃんの母のミルル・トリスです。隣の吸血鬼は旦那様。よろしく!!」

「あらあらあなたがそうなんですか、ご丁寧にどうも、スエラの母のスミラスタ・ヘンデルバーグです。今叫んで喧嘩しているのは義父と夫です。こちらもどうかよろしくお願いしますね」

「聞きましたよ。娘さんのご懐妊おめでとうございます。羨ましいですねぇ」

「あら、ありがとうございます。我々ダークエルフにとって子は宝。本当に嬉しい報せで、つい我慢できずにやってきちゃいました」

「わかりますよ~その気持ち。私もメモリアちゃんに子供ができたらきっとすぐに来ちゃいますよ」

「そうですね。同じ子ができにくい種族同士仲良くしていきましょう」

「ええ!」


おまけに当人を放置して何やら話が進んでいく。

俺が警戒していたファンタジー物のお約束である両親同士の修羅場が発生するかと危惧したが、義母同士はすっかりと仲良くなってしまっている。

グレイさんは放置気味でどうするか視線を彷徨わせている。

現れたダークエルフの男性二人は本来の目的を忘れて親子ゲンカをしている様子だ。

普段見ないほど店内が賑やかになっている様子に、俺はどうするべきかと思案するが、とりあえず手をつけやすいところから片付けていこう。


「はじめまして、私は田中次郎と申します。えっとスエラさんとは結婚を前提にお付き合いさせてもらってます」

「まぁまぁあらあらあなたがそうなんですね、すみませんご挨拶もせずに話し込んじゃって、スエラの母、スミラスタです。話は娘からかねがね。ええ、手紙に書いてあった通り、スエラはいい人を見つけたようですね」

「え、えっと」


話が通りそうなスエラの母らしきダークエルフに話しかけるも、じっくりと観察するようにこちらに近づくスミラスタさんに俺は一歩後退してしまう。

なぜかって?

この人妙に色気があるからだよ!!

メモリアの母親は見ての通りの背格好だからなんとも思わなかったが、目の前の人はスエラと顔が似ていることもあって余計に意識してしまう。

なので、変なことを思われないように物理的に一線引く。

こうでもしないといけない何かが男には存在するんだ!!


「そういえば、スエラはスミラスタさんが来ることは知っているのですか?」

「ええ、知らせましたよ」


話をそらすために、本来であったら一緒に来るであろうここに不在のスエラの行方を確認する。


「ですが、思ったよりもお義父様が乗り気で会社?の許可はとりましたがここまでまっすぐ来たもので、たぶん今頃スエラに連絡が届く頃だと思いますよ」

「いますぐ、スエラに連絡いれますのでお待ちを」


それでどうやって俺を探し当てたか疑問に思ったが、キャパシティーオーバーを起こし始めている俺はその疑問を棚上げするしかない。

あとで雑談のネタにしようと心に留めつつ、この場を収集させるために俺はもう一人の恋人に念話をつなげる。


「ああ、いっそのことお袋たちも呼ぶか?」


その時ふと今日、妙にタイミングよく帰ってきた両親の顔が浮かぶ。

正確にはドアップでお袋の快活な笑顔であるが、偶然というにはできすぎている俺の両親の登場に、まさかこうなると予測していたのではと自分の母親の直感に冷や汗をかきながらスエラに念話がつながるのを俺は待つのであった。



田中次郎 二十八歳 配偶者有り

妻  スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性九(準魔王級)

役職 戦士


今日の一言

頼むから処理能力を超えないでくれ!!


今回は以上となります。

おもしければ、評価、ブックマーク等よろしくお願いします。

これからも本作をお願いします!!

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