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107 さぁ、思いっきり叫ぼうか

Another side


次郎と他のテスターたちがドラゴンと戦闘を開始した。

それを眺めて観客たちは大いに盛り上がる。

当人たちからすればそれは完全なイレギュラーではあるが、それを眺める彼らからしたらこれは催しで、楽しむべき出来事だから。

しかし、それ以外にそれを遠巻きに見る存在がいる。


「あいも変わらず君は彼らに厳しいね。ドラゴンはまだ彼らには早いんじゃないかい?」

「私はそうは思いません。それに甘やかす時には甘やかしています。そして次郎がいるのならあれぐらいは倒せると判断しています」

「なるほど、不器用な愛情といったところかな? それがわかりにくいというのが君の悪魔としての欠点かもしれないね、エヴィア」

「よく言われます」


社長室、それは社内で言う魔王の玉座。


「飲むかい?」

「いえ」


その一室で魔王と側近の悪魔は観客ではなく評定者としてその光景を見ていた。

豪華な椅子に座る魔王は相変わらず職務に忠実な側近に向けてワインを差し向けるが、軽く首を横に振ることで彼女は断る。


「相変わらずつれないね。昔から君はそうだったよ」


時と場所によっては失礼ともとれる態度を魔王は気にした様子もなく、セリフとは裏腹にその表情は笑顔でむしろその職務に忠実な態度に好感を抱いていた。

そしてその視線はエヴィアからその一室の壁に映し出される会場の様子とダンジョン内の様子に移る。

歓声が聞こえてきそうな人混みのイベント会場は最近の忙しい社員の息抜きとなっているのが見て取れる。

それに反してテスターたちがドラゴンと戦う様子はまさに戦場と言うべき空間であった。

しかし、魔王から見ればその光景は子供の遊戯程度の空間にしか見えない。

だからこそ演劇を見ているかのようにのんびりと構えていられる。

その背後に控えるように立つエヴィアの顔は朗らかに笑う魔王と正反対になるかのように厳しい表情だ。


「次郎君の持ってきた企画書は読ませてもらったけど、それからだいぶ内容を変えたみたいだね。レースなんて生易しいお遊びイベントではなく、むしろ生存競争というべき過酷なものに。君らしい手の加え方だけど、次郎君からすれば予想外もいいところだ。彼の中ではテスターたちと社員の息抜きと交流を目的とし、そこに刺激を隠し味で入れる程度の考えでしかなかった。だが、それは君の一計でご破算だ」


背後にいるはずなのに魔王にはエヴィアがどんな感情を持ってこの映像を見ているか手に取るように分かっていた。

遊びは許容するが怠惰は許さない。

彼女からすればこのドラゴンとの戦闘もただの遊びでしかない。

ドラゴンを用意するのにも少なくない経費がかかる。

だが、彼女の中ではこれは必要経費だと割り切っていた。


「さて、これになんの意味があるのかな?」


それを含めて魔王はエヴィアに問う。

本当は分かっているのかもしれないが、理解していないように振舞う魔王は楽しむようにエヴィアに質問をする。


「次郎は知るべきです。自分は特別だということを。そして、仲良しごっこはここまでだということを」


ただ事実を述べるエヴィアの瞳に映る次郎は、なんとかテスターをまとめようと奮闘しているが、それではダメなのだ。

ダンジョンの攻略、そして改善を施すには現状のテスターたちではまとまりがなさすぎる。

もとより個を尊重した社の方針の弊害がここに露呈した。

日に日に落ちるダンジョン攻略の効率低下、そこに加わるようなテスターたちの士気低下。

方針を変えるのは可能であるが、それでは意味はない。

魔王が望むのは勇者の攻略に耐えうるダンジョンを作ること。

それを作るためには身内の意見と凝り固まった発想ではダメだ。

新しい風を入れるためにわざわざ危険を冒し、次元空間を固定し勇者となりうる素質を持つテスターを招き入れた。

目論見とは違うことも多々あったが、それなりに順調であった。

それは今も続いている。

しかしだからと言ってこのまま堕落していくテスターを使い続けるかといえば否だ。

このままではこれから新たにテスターが入ったとしても、現状の地盤がこれでは同じことの繰り返しになる。


「幸い素質はあります。あとは」

「自覚させるだけ、か」

「はい」


今のテスターたちに必要なのは手の届かない怪物ではなく、指標となる人間だ。

ただまとめるだけではだめなのだ。

必要なのは、人を惹きつける英雄だ。


Another side END


Side 田中次郎


「先輩どうするんっすか!! なんかみんなてんやわんやになってっるっすよ!! ドラゴンと戦ってるっすから仕方ないっすけど!!」


海堂の叫びたい気持ちは非常にわかる。

だが


「てめぇ、俺の状況を理解してもの言ってるのか!!」


少なくともドラゴンと力比べをしている最中に言われる内容ではないと思う。

さっきからドラゴンの右前脚と、鉱樹を横にして俺は全力で力比べをしている。

力を抜いたらぺしゃんこになる予感しかしない状態でも、どうにか腹に力を入れて海堂の叫びに答える。

そして、なぜ俺と海堂しか戦っていないかというと。

現状なんとか戦えているのは俺のパーティーと火澄のコンビ、そして幾人かのテスターだけだからだ。

半数以上はこの脅威に対して混乱している。

その混乱の理由の一片には、俺がこのドラゴンを引き連れてきたという理由もある。


「先輩!!」

「わかってらぁ!!」


余計な思考も許してくれないほど余裕がない。

海堂の叫びに反応して魔力を爆発させ、一瞬だけドラゴンを押し上げそこから飛び退く。

そこに間髪いれず降ってきたもう一本の右前足。

そしてこれがもう一片の理由だ。


「監督官も無茶振りがすぎるだろう。ドラゴンを二体用意するとか鬼か」

「先輩、監督官は悪魔っす」

「種族の話をしてるんじゃねぇよ」


闘技場と同じ広さの空間に堂々と並ぶ二体の竜。

そんな強大な敵に対して、俺が引き連れてきたのとは別のもう一体の地竜を見て思わずこの状況を作り出した本人に対して文句をこぼすが、海堂のセリフで一瞬力が抜ける。

しかし、二体の竜の瞳から発される威圧感にすぐに体は引き締められる。


「後ろの混乱は?」

「今、北宮ちゃんたちが収めようとしてるっすけど、芳しくないっすねぇ」

「ったく、二人で抑えるのは限界があるんだぞ」


現状は俺がメインで注意を惹きつけ、海堂が撹乱することでどうにか二体のドラゴンの注意を引けている。

その間に他のテスターの連携の形成を図ろうとしているが。


「なんで行き止まりなんだよ!!」

「他に出口は!!」

「知らないわよ!!」

「おい! お前盗賊だろうさっさと鍵を開けろよ!!」

「知るか!! 魔法でロックされてるんだよ!! 魔法使いのお前がどうにかしろ!!」


唯一の出口であろう鉄格子の前では口論が発生している。

加えて


「無理よ!! あんなのに勝てるわけがないじゃない! それならいっそ!!」

「諦めるんじゃないわよ!! 今ここであんたがいなくなって何が起きるってのよ!!」

「そうでござるよ~それにここは経験値を稼ぐチャンスでござるよ~」

「あんたはもう少しまともに説得しなさいよ!!」

「コミュ障にそれは無茶振りでござる」

「いつもの私への強気の態度はどうしたのよ!?」

「おちついて、ほら深呼吸だ」

「は、はい」

「はい、水をどうぞ」

「ありがとう」

「怪我をしている子は早く治療して!!」


北宮が喉元に刃を突きつけようとするテスターを羽交い絞めにして押さえ込み、その正面でおずおずと南が説得を試みている。

その脇で過呼吸を起こしている相方を火澄が介護し、勝が水を差し出す。

アメリアはドラゴンとの戦闘の余波で怪我をしたテスターのサポートに回っている。

最初のドラゴンのインパクトがあまりにも強すぎた。

合流しようとした直前に、別のドラゴンの登場。

奇襲という形を取られ、ドラゴンを目の前にして戦意を喪失しているテスターがあまりにも多く、それをまとめるのに戦力を割く必要があった。

おかげでこんな無茶をする羽目になっている。

背後から聞こえる様子から察するに、もうしばらくはあのままだろう。


「っち、海堂!!」

「おら!! くらえっす!!」


このまま膠着状態を維持すれば、他のテスターたちが回復してくれる。

そんな楽観的な思考は抱けない。

人間が無理だと一回でも思えば、それを思い込みで固定観念として抱いてしまう。

その様子をありありと感じてしまう雰囲気を前に舌打ちを止められない。

切り払うように前に出ようとした地竜の前足に鉱樹を振るって牽制したあと俺は飛び退く、間髪いれず放たれた魔法で一瞬視界が隠れるもあの巨体だ、見失う心配はない。

鉱樹をドラゴンの鱗に走らせた感覚は硬いが切れないことはない。

そんな手応えを感じ、全力稼働を視野に入れる。


「硬いな。海堂あとどれくらいもつ?」

「うえぇ、魔力がもうないっすよ」

「だよな」


さっきから全力で魔法を放ち続けている海堂がガス欠を起こすのは仕方ない。

考えろ、どうすれば現状を打破できる。


「海堂、南と代わってこい、その間は俺が持たす」

「了解っす」


互いに進む方は逆だ。

俺は前に進み、海堂は後ろに駆ける。


「あああああああああああああ!!!」


気合と同時に踏み込み衝撃波を生み出しながらドラゴンの体をゴリゴリと削り、後退させる。

そして、戦いに思考を割きながらも、今回の出来事の意図を推測する。

そもそも監督官の目的はなんだ?

最初の話ならばこれはテスターとの交流を目的としたイベントだったはずだ。

それが、なぜこんなことに。


「リーダー!! サポートいくでござる!!」

「おう!!」


交代で走ってきた南の補助魔法でさらに体が軽くなるのを感じ、一体のドラゴンを足場にしてもう一体に跳びかかる。

ガキンと硬い音を響かせ。


『ガァァァ!!』


相手の鱗を砕く。

痛みでのけぞり、重い足音を醸し出す地竜に追撃すべく踏み込もうと地面に着陸する。


「尻尾かよ!!」

「リーダー!!」


だが、タイミングを測ったもう一体の地竜が横に薙ぎ払った尻尾で地面に着地する前に吹き飛ばされてしまう。

空中で撃退され、慣性の法則に従ってそのまま壁に激突、そして衝撃で生まれた瓦礫の下敷きになる。

ゴロゴロと岩どうしがぶつかる音を耳に視界が暗くなる。


「ああ!! っくそ」


しかし、大したダメージではない。

その瓦礫を押しのけるように立ち上がり、すぐに這い出る。

そして、耳に入り視界に映ったのはドラゴンの雄叫びと、さっきまで防波堤になっていた俺がいなくなったことにより、更に混乱するテスターたちだった。


「おいおい、あんたらずっとテスターやってきたんだろうが」


海堂とアメリアが前に飛び出し、少しでも注意を引きつけようとして、北宮が少しでも動きを止めようと魔法を放ち、勝が怪我人を運ぼうと隣の人に肩を貸し、南が時間を稼ぐために障壁を張り巡らす。

動ける人間と動けない人間、その差に生まれる呆れた感情、それ以外に湧き立つ何か。

プツンと何かが切れる音。


「……」


それが何かと言われれば怒りに近い何かとしか言い様がない。

その対象は混乱しているテスターたちに向けてか、あるいは自分にか。

ゆっくりと一歩目を踏み出し、その混乱に向けて歩みだす。


「すまんが、もう少し耐えてくれ」


聞こえはしないだろうが、頼み込むように戦うパーティーメンバーに言葉を紡ぐ。

そして俺はこの行動が正しいか正しくないか問答することなく、すっと混乱するテスターたちの前に立つ。

ああ、俺は何を考えていたんだ。

やることがはっきりとしている俺の頭は理性など放っておき、邪魔だと叫び散らすテスターの雑音を消し去り。

代わりにすぅっと息を吸い込ませた。

そして


「だぁまぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」


テスターどもの感情を一旦白紙にするかのような一声を俺に吐き出させた。

その場の混乱は俺の一声で収まりを見せる。

だがそれは一時のこと。

何を言われたか理解していないから呆然としているだけだ。


「さっきから喚き散らして、それでドラゴンが倒せるわけがないだろうが!! 頭使えばわかることだろうがァ!! ガキかてめぇら!!」


猿叫と兼ね合わせた俺の叫びは一気にテスターたちの意識を飲み込んでみせた。

相手のことを考えすぎて行動を我慢するのはここで終わりだ。


「武器を獲れ!! 呪文を唱えろ!! いいか!! これからお前らにドラゴンの倒し方ってのをおしえてやる!!」


叫び声で場の雰囲気を制圧し、魔力を全開にし、鉱樹の根を張り巡らせる。


「さぁ!! 仕事の時間だ!!」


この戦いに俺は一切の自重をしない。



田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性九(準魔王級)

役職 戦士


今日の一言

吹っ切れた。


今回はこれで以上となります。

これからも本作をよろしくお願いします。

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