96 日常は何が起こるかわからない
田中次郎 二十八歳 彼女有り
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性九(準魔王級)
役職 戦士
鬼の宴が終わって幾日か。
当然二日酔いというバッドステータスを付与された俺は這って冷蔵庫に向かいポーションに頼るという工程を経て次の日には無事仕事に戻っていた。
まぁ、溶かされてなくなった鎧の代替え品を会社から支給されるまでは動けなかったが、そこらへんは頼りになる彼女であるスエラがどうにかしてくれた。
わずか数日で新品で前よりもいい鎧が届けられたのは嬉しかった。
まぁ、前よりも厳つく威圧的になってしまったが気にしない。
そんな俺はといえば
「ちょ、まっ、せ、ぐは!?」
「ふむ」
打撃音と共に吹っ飛び、地面に擦れる音がしたと思ったら、最後に壁に激突する音が響き、ペタンと手が垂れて動きが止まった海堂を見て。
「ハリセンは凶器だったか」
「いや、リーダーのステータスがおかしいでござる!! 何をやったでござるか!? なんでハリセンであんな威力が出せるでござるか!? チートでござるか!? サーバークラッキングでござるか!? パワーレベリングでござるか!?」
どこぞの激安の殿堂にあるハリセンで木刀に鎧完全装備の海堂をしばき倒せた感想を武器のせいにしていた。
成長したという自覚はあったが、過小評価しすぎていたらしい。
ステータスが変わりすぎてそれに伴い体の動かし方もだいぶ変わった。
そんな状態でダンジョンに入るのに不安があり、俺の体の慣らしを兼ねた訓練を行なったのだが。
やって正解だった。
ここまで違っていたら前と同じように体を動かし、加減を間違い味方に被害が出ていたかもしれない。
そんな確認作業に付き合ってくれているこの場にいるメンバーは、俺の相手をし壁に激突した海堂と、エボルイーター事件の事後説明のためにシフトに入っていた南と勝だ。
二人には第三者視点でアドバイスという方面で一緒に訓練室に来てもらっていた。
他の北宮とアメリアは用事はあるが後で合流する予定だ。
その配役のおかげか南が俺に対してツッコミ、勝が陸上選手並みに綺麗なフォームで治療しに走っていったわけだが。
「ああ~どれかといえば……パワーレベリングか?」
「やはり抜け道があったでござるか、なら拙者も!!」
「ただし命懸けと頭につくがな。あとは期間限定だ。さすがの俺もダンジョンの最深部にお前たちを連れて行く余裕はない」
「やはり美味しい話はなかったでござる」
訓練をした感想は思いのほか手加減が難しいに尽きる。
ブンブンと軽く振っただけでは普通は出ない音を出し手にはしっかりとした空気を切るような感触を感じ取っていた。
玩具でも魔力で強化したハリセンを振るえば立派な武器になるというのを実感した。
ちなみに最初からハリセンというわけではない。
一応木刀からチャンバラブレード、そしてハリセンと経由している。
結果、木刀は俺の中で真剣と変わらない性能を発揮し、チャンバラブレードは鉄パイプと同じで、ハリセンでようやく訓練用の武器としてダメージを最小限にできた。
これを実感した時に教官はどれだけうまく手加減していたのか理解した。
俺のような大雑把な魔力強化でこれでは、たとえチャンバラブレードでもキオ教官が強化すれば俺は胴体と下半身が泣き別れしていただろう。
初撃で死にかけたのは忘れたいところだが……泣き別れよりはマシと思うことにする。
「魔力強化も加減を覚える必要が出てきたか」
「あ~、雑魚相手に最強魔法を使う必要はないでござるから、魔力節約で必要かも」
効率面もそうだが、なにより。
「イタタタタ、先輩手加減してほしいっす」
このまま放置すれば先に海堂が使い物にならなくなる。
「ああ、すまんな海堂」
海堂たちが強くなるのを待つのもありだが、それだとこいつらの訓練相手になれない。
せっかく上等な仮想敵になれるんだ。
強い相手と戦えば戦うほど魔紋は育つ。
そうすれば仕事も楽になり、効率的に動けるようになる。
有効活用できるものは、有効に活用しないとな。
「勝、海堂の治療は?」
「終わってますけど、俺の魔力もそろそろ限界です。これ以上やるとなるとポーションを使うことになりますが」
「これ以上続ければ経費がかさむし体力的にも問題か。それにもう少しで北宮達と合流だな……ダンジョンに潜るとなればこれ以上は無理か。なら、訓練はここまでだな。部屋に戻るぞ」
「うっす」
「はい」
「は~い」
その有効活用も当分は先か。
予定よりも少し早いが訓練を切り上げる。
俺が考えていたよりもステータスの恩恵は大きい。
その全容を体に叩き込まないと後々問題になる。
監督官のように全力でぶつかれる相手となればキオ教官とフシオ教官が思い浮かぶ。
折を見て頼まないといけないかもしれない。
それも今後の話だ。
今はとりあえず、ダンジョンに入って実地で体を慣らすか。
「ワオ」
『フム』
「……あんた、どんだけ強くなってるのよ」
「俺も予想外だった」
北宮たちと合流した俺たちは休憩を挟み、その後でダンジョンに挑んだ。
蟲王のダンジョンは現在閉鎖しているため、機王のダンジョンに挑んでいる。
階層は三八層、新記録の階層に足を踏み込んでいるが
『アメリア、これが君の言っていたサムライのイアイっていう技なのかい?』
「う~ん、そうなのかナ?」
「違うと思うっすよアメリアちゃん。けれど、本当に綺麗に切れてるっすね」
「なんというか、拙者たちのいる意味が荷物運びになってるでござるな」
「俺はマッピングしているぞ?」
「あんたたちはまだいいじゃない、私なんて魔法を一発も出してないのよ」
敵が弱すぎた。
軽く踏み込んだだけで相手の間合いを侵略し、振るった一撃はゴーレムの硬い装甲を豆腐でも切っているように切断できた。
鉱樹も進化したにしても、あっさりしすぎている。
今も鉄でできていそうな蜥蜴のゴーレムを縦に切り捨てたところだ。
「力を試したいって言っていたでござるが、これじゃ拙者たちが育たないでござるよリーダー」
「そうだな……」
それに加えてこれじゃ慣らしにもならない。
正直に言えば柔らかい的を切っているのと変わりない。
この階層は俺にとっては温すぎる。
このままでは体が鈍ってステータスダウンにつながってしまうかもしれない。
そうなる前に本格的に何か対策を考えなければ。
「はぁ、仕方ない。俺が最後尾で後方監視に当たるか。海堂が前衛、南とアメリアが続けて索敵その後ろに勝と北宮だ」
「うっす」
「そうした方が良さそうでござるね」
「Ok!!」
「はい」
「わかったわ」
とりあえず俺が前に出るのは終わりだ。
陣形を入れ替えて俺は最後尾に移動し再度ダンジョン攻略を始める。
しかし、こういってはなんだが本当にダンジョンというのは強くなると見えてくる視点が変わる。
視覚的にも聴覚的にもそうだが、精神的に余裕の度合いが段違いに違う。
油断していいわけではないが、直感的にそう感じてしまう。
危険はあるが対処できる範囲が大きく変わる。
「!! 正面から敵だヨ!」
「拙者のレーダーにも反応したでござる。数は三体! 海堂先輩、出番でござるよ!!」
「うっしゃぁぁ!!」
「ここで待ち受けるでござる。北宮は先制攻撃で勢いを削ってそのあとに海堂先輩は攻撃を、アミーちゃんは海堂先輩の後ろにつくでござる。マイク殿はそのサポートを」
「OK! いくよマイク!」
『わかったよ。宿代分は働くとしようか』
「南、魔法の属性は?」
「氷でござる!」
南の魔法とアメリアの耳が敵を捉え戦闘態勢を整える。
次から次へと南が指示を飛ばし、パーティーメンバーがそれに応える。
海堂が双剣を構えいつでも走り出せるようにし、北宮の詠唱が始まる。
指示のない俺はと言えば周囲に気を配り不意打ちを防ぐように自然な体勢で立つ。
パーティーメンバーの位置を知覚しいつでもサポートに入れる準備をする。
時間にして五秒ほどか、重量的な足音に反して相手の動きは速い。
すでに通路の先にその姿が見える。
さっきと同じトカゲ型のゴーレムが一体とその後ろから弓を背負い手にハルバードを持った巨人型のゴーレムが二体追従してくる。
「指示変更! 海堂先輩、蜥蜴の足止めを! 北宮は弓を牽制でござる! アメリアちゃんはその隙に後ろの二体に切り込む! 勝は海堂先輩のサポートでござる!!」
蜥蜴型ゴーレムはその勢いのまま突撃してくるが、後ろの二体はその場で足を止めハルバードから弓へと武器を変更した。
そして魔力により矢を形成し放つ準備をする。
それを見て瞬時に予定を変更し指示を走らせた南自身もサポート魔法を展開する。
空中にシールドを展開し海堂とアメリアに身体強化魔法を付与する。
そしてついに海堂と蜥蜴ゴーレムが接敵する。
「硬いっすねぇ!?」
両手の剣を同時に振り下ろした海堂の攻撃はその強固な体に弾かれる。
予想以上に硬い装甲に顔をしかめるも役割は果たした。
敵の勢いは殺せたのかそのまま後衛に突進される心配はなくなった。
海堂は地面に着地したら今度は敵の足回りを、特に関節部分を攻撃し相手の動きを封じるように動き始める。
「勝くん! 魔力は多めにしたほうがいいっすよ!!」
「わかりました!」
注意が海堂に向かっている隙に小柄な影が何倍もの体の大きさを誇る金属の蜥蜴に挑みかかる。
「ふぅ、はぁ!!」
勝が放った一撃は敵の右前脚で言う脛付近に当たり、見事に敵を転倒させる。
そのまま流れで落ちてきた頭を回し蹴りで反対方向に蹴り出してみせる。
敵は突然の攻撃に対処できなく、無抵抗にその攻撃を受ける。
そして崩れた敵に海堂が飛びかかっていった。
「あっちは大丈夫そうだな」
脇から見てその動きには余裕が見える。
万が一はあるであろうが問題はないだろう。
倒すのにも時間はかからないだろう。
そう思い、今度は女性陣の戦闘の方を見る。
「撃たせるわけがないじゃない!!」
こっちはこっちで魔法と弓の撃ち合いになっている。
北宮の氷の槍と敵の魔法の矢が空間を飛び交っている。
敵は一体がサポート役として魔法の迎撃と防御を担当、もう一体は完全に攻撃に集中している。
それはこっちも一緒だ。
北宮が魔法で攻撃を担当し、南が魔法で防御を担当する。
ただ違うのは。
「っ!!」
こちらは縦横無尽に動き回れる攻撃手がいるということか。
壁を蹴り天井を駆け、上下逆さまな視界など関係なしに敵に接敵するアメリアは重力を感じさせない動きで相手の背後を取る。
「ヤァ!」
ゴーレムの装甲が硬いのを承知しているアメリアは肩口に剣を突きたて動きを封じる。
弓の稼働が止まったのは防御を担当していたゴーレムだ。
そして守りがなくなれば。
「私に勝てると思ってるの!?」
うちの魔法使いの餌食になる。
撃ち出している魔法速度を瞬間的に早め、相手の攻撃よりも回転速度を上回れば。
氷の槍が殺到しあっという間にハリネズミが二体完成し、一分もしないうちにもう一体今度は少し大きめのものが見れるようになった。
「追加は?」
「ないネ」
「反応はないでござるねぇ。リーダーが倒しすぎたのではないでござるか?」
「ありえるわね」
確実に倒したことを確認して、周囲におかわりが来ていないか確認し、戦闘が終了した。
全体的に危なげなく戦えた。
そう評価できる結果だった。
海堂と勝は戦利品の回収を、南たちは周囲を警戒している。
それを見て、まだまだパーティー的にも余裕があるのは見てとれる。
時間を見てもまだ余裕はある。
ここは行けるだけ行ってみるのが吉か。
「回収終わったっすよ!」
「そうか、なら罠に警戒して行けるところまで行くぞ」
俺たちの仕事はダンジョンを攻略し問題点を洗い出す。
攻略できたエリアを攻略できないようにする。
強くなり報告書も書く内容が変わると思いつつも今日も仕事は仕事。
やることをやるとしよう。
田中次郎 二十八歳 彼女有り
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性九(準魔王級)
役職 戦士
今日の一言
スキルアップで仕事は楽になるが、能力のある者は仕事が増える傾向があると思う。
今回は以上となります。
これからも本作をよろしくお願いいたします。




