彼女は希望
――頼むから、無事でいてくれ!
20年前に炭鉱が閉鎖し、ゴーストタウンとなった田舎町を、僕は必死に走り回っている。
僕は一人の少女を捜していた。早く見つけ出さないと、彼女が身が危険だ。
この町は現在、一つの大きな狩場となっている。
狩りのターゲットは人間。
あえて呼称するのなら、『人間狩り』といったところだろうか?
15年程前に、狐などを狩る従来のハンティグに飽きたどこか国の大富豪が、生きた人間を狩るという、狂ったゲームを思いついたのが始まりだという。
参加者は刺激を求める世界中のVIP達。
彼らは思い思いの得物を手にハンターとなり、狩場へと放たれた人間達を狩っていく。
最先端の武器を有するハンター達と、丸腰で逃げることしか出来ないターゲット達。それは最早、ゲームというよりも虐殺に近い。
狩りの開始から約二時間。開始時点で50人程いたターゲットの数はすでに10を切り、町の至る所には犠牲者の亡骸が転がっている。まさに地獄絵図だ。
――無事で良かった。
町外れの廃工場に逃げ込む少女の姿を見て、僕は安堵した。
絶望的な状況にあって、彼女の存在は希望そのものに見えた。
早く彼女と接触したいが、その前に周辺の状況を入念に確かめておかないといけない。ハンター達に存在を悟られては困る。
――よし、大丈夫そうだ。
周囲にハンターの気配が無いことを確認し、僕は廃工場の中へと立ち入った。
「だ、だれ?」
僕の気配を感じ取った少女が、恐怖に歪んだ顔で振り返った。
これだけの極限状態の中だ。精神的にも相当追い詰められているのだろう。
「捜したよ。無事で良かった」
心の底から神に感謝した。彼女を生かしてくれてありがとうと。
「君は僕の希望だよ」
「何を言ッ――」
悲鳴を上げられないように口を塞ぎ、腰に携帯していたナイフを心臓目掛けて突き立てた。
呆気なく、少女は動かなくなった。
「やった、やったぞ!」
嬉しさのあまり、子供のようにはしゃいでしまった。
このゲームには三年前から参加しているが、あまり狩りの才能が無いのか、いつも周りに先を越されて結局一人も仕留めることが出来なかった。
万年最下位で、何度もハンター仲間達に馬鹿にされてきた。
そんな僕が、今日初めて狩りに成功した。
他のハンター達に見つからずに、彼女の身が無事で良かった。おかげで僕が狩ることが出来た。
今年も最下位かと絶望していた僕にとって、彼女はまさに希望だ。
ありがとう。名も知らぬ少女よ。
来年の参加は見送ろうかと思っていたけど、気が変わった。
初めて味わった狩りの感覚に、病み付きになりそうだ。
了
主人公は狩る側の人間だったというオチでしたが、少し意外性が弱かったかもしれませんね。