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レイシアという少女は、元々自由気ままな気質を持つ。自分の望みをかなえるためだけに最強国家をつくろうなんてしている人間が、まずもってしてまともであるはずがないと言えるだろう。
まともな人間は、どんな犠牲を払ったとしても最強の国をつくるなんて恐ろしい真似を実行できるはずがない。信念というものはそもそもその心の強さを持たなければどうしようもないものだ。
レイシアの叶えようとしている夢を叶えるためには沢山の困難があるだろう。それを乗り越えられると――レイシアは心から思っている。
そしてその心の強さと、加護持ちである強さが人を惹きつけるカリスマ性であると言えるだろう。
その眩しすぎるほどの光に惹かれて、人は集まってくる。
『災厄の魔剣・ゼクセウス』――暁霧夜は、そういう人間とはあまり関わったことはない。人間であった頃はそういう人間と関わるような性格ではなかったし、『魔剣』になってからもそういう信念を持っている存在と関わることはあまりなかった。
(レイシアは制圧すればいい、実験体にすればいいってそう簡単にいうわけだけど……それはそれで反発をうむだろうからな。幾ら最強国家をつくるためとはいえ、何でもかんでも制圧はしない方がいいだろうし、その辺は俺の方でブレーキをかけるべきか? ……つーか、俺がストッパーになっててどうするんだか。俺も一応『災厄の魔剣』って呼ばれているわけだし、幾らレイシアが当たり前みたいに俺に色々任せてきたとしても『魔剣』としてはこのままじゃいけないんじゃないか……?)
霧夜、根は真面目なのでレイシアが振り回す分、結構まともなことばかりしている。
最も根は真面目とはいえ、『魔剣』として長い間生きている霧夜なのでレイシアのストッパーにならない時や『魔剣』らしい部分は当然ある。とはいえ、最近『魔剣』らしいことをしていないのではないかとちょっと葛藤しているようだ。
(『魔剣』らしい事といえばやっぱり使用者を狂わせることだけど……レイシアは俺が幾ら狂わせようと色々やってもぶれねぇしなぁ)
ちなみに霧夜は時々最初に会った時のようにレイシアを狂わせようとすることはある。しかしレイシアは精神力が強すぎて全くきかないのである。
霧夜は立てかけられたまま、色々考え込んでいた。周りから見てみればただ立てかけられているようにしか見えないので、究極のポーカーフェイスである。
(やっぱり手っ取り早いのは、敵が来た時に思いっきり魂を喰らうことかな。この村の中では人の魂なんて食らってないからな。此処に国が出来ることを知ったものがいればきっと、此処を制圧しにくる。そうしたらその相手の魂は幾らでも喰らえるだろう)
――霧夜は、そんなことを考えながら次に人の魂を喰らえるのはいつだろうかなどと、『魔剣』らしいことを考えていた。
そんな霧夜に話しかけてくる者がいる。
「ゼクセウス」
《カイザーか。どうした?》
霧夜に話しかけたのはカイザーだった。
カイザーは霧夜のことを相変わらず警戒はしているものの、徐々に霧夜という存在に心を許しているように思える。
それは霧夜がこうして今は大人しくしているからだろう。
カイザーだって、霧夜が躊躇いもせずに敵の魂を喰らう様を見ればまた危険だと言い出す可能性もある。霧夜はそれはそれで面白いと思っているので、それもありだと思っていた。
「レイシアは急激に村の住民を増やしたが、何を考えている?」
《それを何で俺に聞く? 本人に聞けばいいだろう》
「本人には聞いたが、国を作るために必要としか言わなかった」
《その通りだろうな。レイシアはそれしか考えていない。如何にこの国を最強国家にするのか。まず国家にするためには人がいるってことで集めたんだろう?》
レイシアという存在は、ただ自分の目標を叶えることしか考えていない。
だけど霧夜の答えもカイザーからしてみれば、望んだ応えではなかったらしい。
「……そういうことではない。いや、それはわかる。ただこれだけ急激に人を増やせば、反発なども起こるだろう。そういうことに対しての対策などは考えているのか?」
《レイシアは考えていないだろうな。寧ろそういうのが起こったらレイシアは制圧するだけだ。――レイシアは自分の国民になったお前たちの意見はちゃんと聞くだろう。だけれどもレイシアは甘くはないから、例えば反発されればすぐに制圧する》
他でもないレイシアの故郷が、力を示さなかったからこそ――滅びたから。
大切にしていた場所も、大切にしていた家族も――それが全て失われたのは強くなかったからだ。
だから最強国家をつくる。そうレイシアはあの日、国の滅びを見た日に決めたのだ。
《俺もやり過ぎた分はレイシアを止めるが、別に制圧自体は悪い事とは思っていない。お前がそういう事態さえも起こしてほしくないなら、それをレイシアに告げればいいだけだ》
霧夜はレイシアの作る最強国家を見たい。そう思っているから、突き放すようにカイザーにそう告げるのであった。




