4
霧夜は楽しそうにトラップの作製を進めている。人の姿でトラップ作製をしている霧夜は楽しそうに鼻歌を歌っている。
その鼻歌は、霧夜が人間だった頃に良く歌っていた音楽である。
霧夜は『魔剣』として長い時を生きている。それでも短い期間だったとしても、霧夜にとっては人間だった時の記憶はとても鮮明に残っていて、それこそ自分の性格を作ったものなのだ。
「ゼクセウス様は、本当に不思議な『魔剣』ですよね。私、こうして《災厄の魔剣》なんて言われているゼクセウス様と一緒に罠を作製するなんて思いませんでした」
チュエリーはそんなことを言いながら穏やかな笑みを浮かべていた。こうして霧夜の正体をしっていながら、こうして笑いながら霧夜を見ているだけでもチュエリーは中々精神力が強いと言えるだろう。
霧夜は次々とトラップの試作品を作製していった。
ちょっとしたしびれ薬になる薬草を使ったものだったり、魔物の牙を幾つか立てて落とし穴みたいにしてみたり。そういうのも作製して森の中に設置した。ちなみにちゃんと霧夜はレイシアや村人たちにそのことをつげている。
レイシアの凄い所は、その罠に対する注意喚起をした上で「それで死んだとしても自己責任よ。私の国の国民だと言うのならば、その位の罠はちゃんとよけない」と言い張ったことである。レイシアは最強の国をつくりたいと望んでいる。そして国民たちにもそういう強さを身に着けることを求めている。
それは戦闘面での強さじゃなくたって構わない。だけれども、そういう罠ぐらいはどうにか対応できる国民であってほしいのかもしれない。
それに大抵の村人たちは素直に頷いていたが、驚いていたものや戸惑っていたものも当然いる。レイシアの言動は結構自分勝手なものが多いので、そのうち反発でも持たれてしまうのではないか? と霧夜はその様子を見ながら思った。
《レイシア。ああいう言い方だと反感持たれるんじゃないか?》
「持たれたら持たれたでそれだけよ」
レイシアの故郷である最強国家であったラインガルは、国民達の反乱により滅びた。その経験を知っている割には、レイシアはそのあたりを気にしていないように霧夜には見えた。
《……俺はそう言う経験をしたなら国民の反感を買わないようにするものかと思っていたけどなぁ》
「アキは本当に『魔剣』とは思えないほどに用心深いわよね。そんなの気にしなくていいのよ。下々のものたちのことだけを考えて、それに寄り添い続けた国がどうなるかといえば沈むだけよ。何でもかんでもいうことを聞くのは得策では全くない。国民の言いなりになるだけならば、為政者なんて誰でもよくなってしまうでしょう? 私が望むのはそういう国ではないわ」
霧夜とレイシアは、森の中でそんな会話を交わしている。
今、二人が何をしているかといえば、レイシアが魔物を狩りに行きたいといったのでそれに付き合っている。その森の色んな場所に霧夜が試作して設置したものがおかれているわけで、その結果がどうなっているかの様子見もかねていた。
《それで反乱が起きたらどうする?》
「制圧するだけよ。私は私に逆らうものには容赦しないもの」
はっきりとそう言い切る。
本当にこの女ならば、反乱が起きれば迷わずにそれを殺すだろうというのが霧夜には分かって、改めてレイシアのことを凄い女だと思ってしまう。
彼女は自分の信念を曲げはしない。
意見を出せばその意見は聞いてくれるだろうから、完全に自分勝手というわけではないだろうが、基本的には自分が思うままに、自分がやりたいようにレイシアは動いている。
最強の国をつくると言う目標のために、どんなものが犠牲になろうともレイシアは気にしない。どれだけの屍を築き上げたとしても、それは結局レイシアにとってはそれは必要な犠牲であると言うだろう。
レイシアは誰かに流されるなんてことはない。そういう人間なのである。
《レイシアは本当にぶれねぇなぁ》
「あら、それはアキもでしょう? まともな精神をしていたら、『魔剣』として生きていくなんて出来ないでしょう。人間としての自我を保ったまま、『魔剣』として生きているなんておかしいもの」
そんな返しをされて、それもそうだなと霧夜は考える。
いってしまえば霧夜は、一度精神的にこわれている。それこそ、人間として死んで、『魔剣』として産まれた時に。そしてその『魔剣』として人から嫌われながら生きていくことを霧夜は受け入れ、人を食らいながらも昔の人間としての記憶を保持したまま、生きている。
霧夜はレイシアの言葉に何か考えるように黙ってしまった。それにレイシアは何かを言うこともない。
その後はただただ魔物退治を行うだけだった。途中で霧夜の作った罠に魔物がかかっているのが見つかり、そこでようやく霧夜が口を開く。
《ちゃんと効果を発しているな。人にきくかどうかも検証したいな》
「それならさっきの話の続きだけど、反乱とか起こすような奴がいたらそれの実験体にすればいいわ」
レイシアはにっこりと笑って、そんなことを言ってのけるのだった。




