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レイシアはその日、楽し気にかけていた。
もちろん、その背中には霧夜が背負われている。大きな長剣を背中に装備しながらもこれだけ身軽に動けるレイシアはやっぱり異常である、などと霧夜は思っていた。
木々が生い茂っている。視界には一面が緑。時折花が咲いていて、その花が違う色を霧夜とレイシアに見せるぐらいで、緑ばかりである。
レアシリヤやその周りは少しずつ開拓されているが、やっぱりこのキレイドアという土地は未開の土地である。――誰もが足を踏み入れた事のなかった危険な土地。
レアシリヤに住まうことになった者たちも、まだまだこのキレイドアをこんな風に走り回ると言う事は出来ない。
ただレイシアと霧夜が国民探しに行っている間もほとんどが死なずに生き延びたのを見るにこの場所で彼らは適応していたと言えるのだろう。亡くなった者の墓は共同墓地という形で建てられている。まだまだ人が少ないこのレアシリヤ。もっと人が多くなるまでは、亡くなった者はその共同墓地に埋葬されることだろう。
(俺の人間だった身体はきちんと埋葬なんてされてないからな。俺が死んだ後、俺の身体がどうなったかはわからないけれどよくてそのまま腐っていったか、悪くて魔物に食われたか。そう考えるとこうしてちゃんと誰かの手で埋葬されるっていうのはいいことだよな)
霧夜はその埋葬される様子を見ながらそんなことを考えたものである。霧夜の語らない過去には、色々と複雑な過去があるらしい。
《おい、レイシア、何処までいくんだ?》
「あら、目的地なんて決めてないわ。折角これだけ広々とした遊び場があるんだから、沢山は知らなきゃでしょう?」
《遊び場じゃねぇよ。こういう危険な場所でさえ、遊び場呼ばわりするよ》
「だって仕方ないじゃない。国民探しの時に沢山動き回りたかったのに、動き回ることが出来なかったのよ! 結構アキに止められたし!」
《全然大人しくはしてなかっただろうが! お前、あれで動き回れなかったとか、馬鹿か!》
霧夜視点ではレイシアは国民探しでキレイドアを飛び出した時に散々暴れまわっている。レイシアの暴れた痕跡の残った馬車はさぞ今も大変なことになっていることが想像出来る。だというのにいうことにかいて、動き回れなかったである。
何を言っているんだと思っても仕方がないだろう。
「アキは煩いわねぇ。私はあの程度じゃ動き足りないの。もっともっと自由に、楽しくしたいのよ。準備が整ったら私の国が最強だって言い張りたいし」
《それは宣戦布告みたいなものだろう。折角レアシリヤが少しずつ整ってきているんだから、そんな馬鹿な真似はやめろよ。今の段階でやればつぶされるだけだ。レイシア自身は生き延びても国民が死んだら意味ないだろ》
「それはわかっているわよ! でも私の目指す最強国家が出来たら周りに知らしめたいわ。私たちが如何に最強なのかを!!」
どの国よりも強く、どの国よりも亡びることのない国をつくること。レイシアはその大きすぎる野望のために動いている。そしてそれが出来れば堂々とそれを宣言したくてたまらない。
《別にその時になったらそういう宣言をしてもいいとは思うけどな。あくまであれはレイシアが作る国で、レイシアのものだし。ただそういう場合に死者を減らすために戦争の訓練もしていたほうがいいだろうな》
「戦闘訓練はしているわよ?」
《戦闘と戦争は違うだろう。俺も『魔剣』として戦争に連れていかれたことがあるが、戦争なんてものは普通の戦闘とは違う。ルールなんて皆無で、買ったものが勝利だ。もっと罠とか色々えげつないものを準備して、滅びない国にしたほうがいいだろう。今のレアシリヤはまだまだそのあたりの設備も足りない。ドワーフとの混血を国民に出来たわけだし、そういうのをもっと充実させた方がいいだろう》
「それもそうね。アキはちゃんと考えているわね」
《レイシアが脳筋なだけだろ!》
ちなみにそう言う会話がなされている中でも、普通に魔物は襲ってきたりする。その魔物はレイシアの手によって葬られている。
霧夜はその自身で魔物を切り裂きながらも、気にもせずこんな会話をしているわけである。客観的にみればレイシアも霧夜も似たようなものだろう。
「アキはどういう風に戦争訓練したほうがいいと思う? 私がこの国が出来たって宣告したらきっと周りがつぶしにかかってくるわよね、キレイドアの中だからこそ行進は難しいかもしれないけれどやろうと思えばつぶしにかかれる。――私がこうして作った私の国を奪うでしょうね」
《やっぱり毒系のトラップとか、そういうのもアリかなって思うけど。でもあんまりやりすぎるとこの場所自体が被害に遭うからな。その辺は相談した上でやった方がいいだろう》
「そうね。アキに任せるわ」
《いや、俺に任せるなよ!》
霧夜はそんな声をあげながら、本当にこいつは……とレイシアを見る。
『魔剣』に毒の罠の設置を任せる女が何処にいるんだとそんな気持ちになるのは当然であった。




