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「ふはははは、なんて気持ち良いのかしら。こんな風に思いっきり建物を壊すのもいいわね。戻ったらそういう日でも作ろうかしら。特別に壊すものを用意して、それを壊すだけの日とかあるのも楽しそうじゃない??」
《相変わらず頭がおかしいな……そんな日なんて作ったら益々脳筋以外がよってこなくなるだろうが》
「それでいいじゃない。私に賛同する、私の意見に従うものが私の国民だもの」
喧騒から抜け出した後、レイシアと会話を交わしながら、霧夜はやっぱりこの女色々おかしいなどと思っていた。レイシアも《災厄の魔剣》なんて呼ばれているような存在にそんなことは言われたくないだろうが幸いにも彼女に心を読む能力はない。
「このままずらかるわよ」
レイシアは、この教会破壊後にレアシリヤに戻る予定である。そのため即急に行動を起こす。
帰るために、駆け出す。馬車も時折使いながら船に乗り込むために港街へと向かう。だけれども、聖教会というのは、やられっぱなしである存在ではない。
レイシアは、教会を破壊したとして聖教会の者に接触された。
「ああ、なんと悲しきことでしょう。このような美しき女性が、邪神に魂を売るなど」
その聖教徒にとって、レイシアは狂ってしまった邪悪なる徒でしかない。ただしレイシアは正気を保ったまま、こんなことをやっているが。
「あら? 私の魂は私のものよ。誰にだって売らないわ。なんて戯言を言っているのかしら」
「なんと口の悪い。神の元へ送り届けることが一番の供養となるでしょう。さぁ、神の元へ送り届けてあげましょう。教会を破壊する恐ろしい真似を行い、『魔剣』を使う神敵を滅ぼすのです!!」
「私が教会を破壊したなんて間違いじゃないかしら?」
「もし間違いだったとしても良いのです。それは『魔剣』でしょう」
聖教会と呼ばれる組織は、過激である。聖教を信じる者には祝福を、その信念と異なる者には死を――。そういう教会である。
レイシアが本当に教会を破壊した本人であるかどうかなど、どうでもいいのだ。『魔剣』を手にしているだけで、レイシアは聖教会にとっての神敵である。
「本当になんて面倒な奴らなのかしら。そういう信念さえなければ死ぬことなんてなかったのにね」
そしてレイシアは、幾ら多くの敵に囲まれても死ぬ気など全くない。どんな敵も殺しつくしてでも、自分は生き延びるというそういう意志が彼女にはある。
美しい青色の髪が、射抜くように聖教徒たちを見ている。
その美しさに、彼らは怯みそうになる。でもレイシアは敵である――そう気合を入れて彼らはレイシアに襲い掛かる。
だけど、霧夜を振るうレイシアはすぐに彼らを切り殺した。
このレイシアを追ってきた連中は、『魔法』を使えるものでもなかった。ただの人間が、加護持ちであり、『魔剣』を持つレイシアにかなうはずもなかった。
そしてレイシアは、聖教徒たちを滅ぼしながら船へと乗った。
「ふぅ、結構しつこかったわね」
《そりゃそうだろう。教会まで破壊されて、奴らの面子は丸つぶれだろうし》
「うちに教会をつくるとしたら絶対に聖教会は無理だから、王家を神聖視するものか――それとも『魔剣』であるアキを信仰するものにするのもいいわね」
《馬鹿言うなよ。俺は《災厄の魔剣》だから、そういうのには向かないだろう》
周りの人に聞こえないように、心の中でレイシアと霧夜は会話を交わす。
霧夜はレイシアの言葉を聞きながら馬鹿らしいと思っていた。『魔剣』を祀る教会などありえないと。だけどレイシアは鼻で笑う。
「それは分からないわ。だって私はあんたを利用して、あんたを使って国を興すの。見方が違えば『魔剣』だって『魔剣』とは呼ばれないわ。そうね、アキには『建国の剣』みたいな呼び名で呼ばれてもらおうかしら。それはそれで面白そうでしょう」
《え、絶対やだ》
「嫌がれば嫌がるほど、それをしたくなるわ」
《マジ、やめろよ》
霧夜は本気でレイシアの言葉を嫌がっていた。
霧夜は長年『魔剣』として生きてきて、『魔剣』であることを楽しんでいる。人としての過去を持っていたとしても、彼はあくまで人を滅ぼす『魔剣』である。その行いを改める気など全くない。だというのに、そういう肩書を手にする気はなかった。
でもそれを言ってもレイシアは笑うだけである。
「あら、別にアキは今のままでいいわよ。今のままで『建国の剣』としてまつられるの。きっと面白いわよ」
《……本気でやりそうだけど、マジでやめろよ。俺より建国の女王としてレイシアが神みたいになるのがいいだろう》
「それは当然よ。私が絶対ルールだもの。でも私だけじゃなくて、アキもそういうのになったほうが面白いし、国も盛り上がるわよ」
レイシアは当たり前のようにそう言い切って、楽しそうに海を見つめていた。
結局霧夜が「その話はもういいだろう」と止めたため、その後、その話はされなかった。
そしてレイシアと霧夜は馬車や船を乗り継ぎ、レアシリヤに戻るのだった。




