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31日にちょっと昨日間違えて投稿していたものをあげなおしてます。
「ふぅん、何だかでっかい教会ね」
レイシアと霧夜は、聖教会の影響が強い街へとやってきている。
その街は、神官が多い。その神官たちは、神というものを心から信じている。
神を信じればすべてが上手くいくでしょう。悪い事が起きるのは、神への祈りが足りないからです。 そう言っている言葉をレイシアと霧夜は聞いていた。
霧夜は正直言って、うわぁと引いている。
(宗教が悪いものだとは言えない。宗教によって救われている存在もいるだろうし、そういう信仰は自由だ。だけれどもその信仰を無理強いするのはアレなことだしなぁ。それに他の考え方を認めず、自分たちと考えを違うものを異端者審問する。それで無実の人だって罪人として裁かれているし)
霧夜は人間だった頃、そこまで宗教と関わることがなかった。
そもそも宗教をあまり感じない国で生きていたため、そういうのはそこまで感じたことはなかった。『魔剣』になる前にそういうものの恐ろしさを自覚したわけだけだ。そして今もその宗教の恐ろしさを霧夜は実感している。
『魔剣』である霧夜は真っ当な宗教団体からしてみれば、滅ぼすべき悪でしかない。
霧夜は『魔剣』、そしてレイシアは『魔剣』の使い手。その事実が知られれば、この街では大変なことになる。
ちらりと霧夜が周りを見渡すだけでも、信仰心の深い人々で溢れている。彼らは自分が信じる神をどこまでも信じている。――神という存在を信じていれば、それですべてが救われるとそう信じている。現実なんてそんなに簡単で、単純なものなどでは決してない。
(――神を信じている者がその神が虚構にしか過ぎないと知ったらどうなるのだろうか。そうなった時に絶望するのだろうか? 絶望したらどんなふうに考えるだろうか)
――『魔剣』としての生を思う存分楽しんでいる霧夜は、悪い癖が出ている。レイシアという常識外れと共にいるからこそ、常識人のように見えるが――その本質は『魔剣』になった時から愉快犯である。こういう場をかき乱したら楽しいのではないか。こういう場で絶望の渦にこの場にいる人々を追い込んだらどうなるだろうか――とそういう心が湧いてくる。
「アキは教会に入ったら苦しくなるとかあるの?」
《ない。ああいうのは迷信だと思っていたけど、実際にそうなるとは思ってないけど。そういうのある?》
「さぁ? どうだろう? 私の母国も教会は力が強くなかったから、そのあたりはわからないわ」
《ふぅん》
霧夜はレイシアの言葉を聞きながら、『魔剣』にだけ効く呪文などがあったら嫌だなと考える。そういうものがあり、霧夜が行動不能になっているその間にレイシアの身に何かがあったら――と思うと嫌なのだ。
ただしそれは決してレイシアのことを思っての言葉ではない。
自分がレイシアの面白い未来を見ることが出来なくなるというのが嫌なだけである。
(『魔剣』の事を滅ぼすべき悪としているからこそ、『魔剣』をどうにかするための術を持ち合わせている可能性が高い。俺が思考することさえも出来ないような『魔剣』だったならばされるがままだけど、俺はそういう『魔剣』とは違うから対策をやろうと思えばできるはず)
霧夜は今までただ《災厄の魔剣》として自由きままに生きていた。『魔剣』になってから深く人とかかわりあうこともなく、生きてきた。もし何らかの要因があったとして、それで『魔剣』としての生が終わったとしてもそれはそれでいいと思っていたとも言えるかもしれない。
――けれど、レイシアと深くかかわって、それを見届けたいと望んでいるから、このまま消えることも、眠りにつくことになることも望んでいないのだ。
レイシアは面白がって敢えて霧夜を装備したまま、教会の中へと入る。教会には、何人もの町民たちがいる。
祈りを支える人々。それを見ながらレイシアも祈りをする仕草をする。でも内心は神になど祈っていないことが霧夜には分かる。レイシアは誰にも祈らない。――レイシアが信じているのは、ただの自分の力だけである。
自分だけの力を信じ、神など信じもしない。
加護をもらっているにも関わらずそういう少女である。レイシアという者は。
神なんてものを信じていない『災厄の魔剣・ゼクセウス』と、加護をもらっていても神など信じていないレイシア。
そんな二人は、敬淑な信徒のふりをしながら教会に佇んでいる。
誰一人、霧夜とレイシアがそういう存在だとは気づかない。同じように神を信じるものとして見られている。
レイシアはその後、霧夜を抱えたまま教会から出る。
そして宿をとる。
宿の一室に入ると、レイシアは面白そうに笑いながら霧夜に声をかける。
「気づかれないのはそれはそれで面白くないわね」
《いや、気づかれたら駄目だろ。ちょっとぐらいなら大丈夫かもしれないけれど》
霧夜はそうなったら面白そうという好奇心もあるが、なるべくこれからのためにはレイシアを止めるべきだろうとそんな言葉をかけていた。




