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レイシアと霧夜が国民探しの旅に出かけて、しばらくが経つ。
その間にレイシアと霧夜は沢山の人々と出会った。――紛争地域に顔を出したりもした。魔物を討伐したりもした。そうしながら国民探しをするレイシアは大変生き生きしていた。
次々と国民候補が送られてくるレアシリヤはてんやわんやしているだろうが、それはまぁ、彼らがレイシアが帰ってくるまでの間に頑張らなければならないことである。
《レイシア、結構国民も集まったし、そろそろ戻るか?》
「んー、そうね。あまり派手に動いてもレアシリヤの事を悟られてしまうかもしれないものね。まだまだ公になると大変だから」
《……っていっても十分、レイシアは目立つことをやっているけどな》
「そうかしら? そんなに目立ってないと思うけど」
《いや、十分目立っている》
レイシアは行く先行く先で色んな事を起こしている。
――国家全体を巻き込むようなことはしていないものの、小規模な事を起こしている。
それは一般的な感覚から言ってみれば、普通ではない。
《あまりやらかすと、聖教会に悟られるからな》
「聖教会は面倒ね。『魔剣』を見つけると壊すことばかり考えている連中だもの。アキと、アキを使っている私を見つけたらつぶしにかかるでしょうね。そもそも『魔剣』を用いて国をつくろうとしているのだから、その国自体が聖教会に認められることはまずない。――まぁ、私はそれを知った上でそういう国をつくろうとしているんだけれど」
《聖教会につぶされないようにしないとだな。というか、国が出来たとしても聖教会は国を受け入れないだろうから、長期戦になるだろうな》
「そうねぇ。でもまぁ、私が寿命を全うして亡くなったとしても私の子孫ならそういう聖教会の人たちとバチバチやりあって、勝てるはずよ」
レイシアがそんなことを言うので、霧夜は思わず何とも言えない気持ちになった。
レイシアはとても強い力を持っている。レイシアは加護を持っていて、誰にも負けないように見える。
――それでもレイシアという少女はただの人間だ。
(レイシアは、百年も経たずに死ぬ。なんだか永遠とレイシアは生きていきそうな気になるけれども、レイシアはそのうち、死ぬ。何だか不思議な気持ちだな……)
霧夜にとってレイシアという存在は、不思議な存在だ。
レイシアは国作りを面白いからと手伝うことにしていた。その先のことは考えていなかった。けれど、レイシアは死ぬのだ。寿命が必ずあるから。
(……レイシアが国をつくるまではレイシアに使われる。それにレイシアが国を強くするのも面白いから多分、そのままだ。でもレイシアが亡くなったらどうだろうなぁ。まぁ、その時はその時か。その時になったら考えればいい)
――レイシアという存在は、寿命以外では死なないだろう。
霧夜はそれを確信している。だからこそまだまだ先のことを考えるのは後回しにする。
「ねぇ、霧夜。最後にさ、聖教会の力が強いエリアを観光しましょうよ」
《いやいや、それは危ないだろう。俺が『魔剣』だって知られたら一発でアウトだぞ》
「別に国民探しに行こうとしているわけではなく、ただ観光だから大丈夫でしょう。それにもし見つかったら見つかったでいいのよ。その時はその時よ」
レイシアははっきりとそう言い切る。
――聖教会は、色んな場所に勢力を張っている。その聖教会は『魔剣』というものを一切許さない。その魔剣は存在しているだけで罪だとそんな風に聖教会は言い切る。
特に『災厄の魔剣』などと言われている霧夜は全く以って、聖教会とは相いれない存在であると言えるだろう。
《とかいって、レイシアは暴れたいだけじゃないのか。しばらく大きな問題も起こっていなかったからな》
「まぁ、それもあるけれど……これから私が作る国は聖教会と敵対する運命なのだから、視察しておいた方がいいでしょう。敵を知ってこそ、戦い方が分かるものでしょう」
《それはそうだけど……聖教会の重要拠点にわざわざ行くなんて、正気の沙汰ではないけどな。まぁ、聖教会を混乱させれたらそれはそれで面白そうだけど》
「アキって聖教会と色々あったりしたの?」
《俺は『勇者』を殺した『魔剣』だからな。聖教会からしてみれば、破壊したい筆頭の『魔剣』だろうから》
聖教会は『勇者』と密接な関係を築いている。『勇者』を管理しているのが聖教会と言えよう。聖教会には様々な戦闘集団がいるが、その中でも最大戦力が『勇者』である。
その『勇者』を喰らった『魔剣』が他でもない『災厄の魔剣・ゼクセウス』である。
「――ふふ、そうね。でもその『災厄の魔剣・ゼクセウス』と、その『魔剣』を使う私が聖教会の元へ行くのよ。面白いでしょ」
レイシアはそう言い切って、もう霧夜が何を言ったとしても行く気満々の様子であった。
ちなみに『勇者』を喰らった逸話に対して、レイシアは興味がないわけではない。でも霧夜が言わないなら、敢えて聞く必要もないだろうと特に深く聞くことはないのであった。




