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レイシアは亡き故郷があった大陸に来ても相変わらずである。元々そこの国民であった人たちを見かけたとしても、動く事は決してない。ただ淡々と自分の目標である国民探しを進めている。
そのブレなさに霧夜は毎回、驚いてしまう。
霧夜も中々割り切った性格をしているが、それは『魔剣』になって長い時を生きているからである。ただ十数年生きているだけの少女がこれだけ割り切っているのはある意味異常である。
その異常さは、ラインガルの元々あった土地に足を踏み入れた時に顕著になった。ラインガルを取り戻そうとしている国民たち、その集団たちを見かけてもレイシアは接触することはなかった。
以前、元ラインガルの国民であるメナトがラインガルという国に執着していた様子を見ていたからかもしれない。元ラインガルの国民は――新しいレイシアの作る国の国民になろうとしないということを理解しているのだろう。
だからこそレイシアは彼らを国民にしようとはしていないのだろう。
ラインガルという国は、それだけ大きな国で、カリスマ性を持っていた国だった。
――自分たちで反乱を起こしてラインガルという国を滅ぼしたというのに、それにも関わらず彼らはラインガルの幻想を求めている。
そのラインガルの元国民たちは、武力行使をして今、ラインガルの地を治めている国を追い出そうとしている。その紛争により、命を失っていくものも多いと言う。独立だけを目標に動いている彼らは、独立した後、やっていけるのだろうか? という疑問は残る。
「なんとも滑稽なものね」
レイシアは、ラインガルを復興させたいとしているレジスタンスたちを見た後にそんなことを言っていた。
「――そもそも彼らがお父様とお母様を打倒しようなんて思わなければ、ラインガルは残ったままだった。あの国は、残ったのに」
《ラインガルが潰れなければ、レイシアもこんな風ではなかっただろうな。ただの王女として生きていたのか?》
「そうね。私もただの王女として健やかに生きていたと思うわ。そして婚約者でも出来て、結婚とかもしていたかもしれないわね。今では考えられないことだわ。そういう未来に進んだ私がアキに出会ったら、すぐに殺されたでしょうね」
《そうだなぁ。ただの王女様ならば壊すのは簡単だろうし。簡単につぶしたとは思う》
「そうよね、そういうのがアキだもの。私は今の自分が好きよ。今の私のまま、最強の国家をつくるの」
真っ直ぐにレイシアはそんなことを言う。彼女は後悔を欠片もしていない。――……彼女はただその目標のためにためらわない。
その言葉が本心からの言葉だと霧夜は、何度だって実感する。
実感した一つの要因は、その翌日、接触してきた元ラインガルの民を切り捨てていたことだろうか。
レイシアという王女は、ラインガルの民にとって大切な存在だったのだろう。だからこそ、レイシアの顔を見ればすぐに彼らは気づく。顔を隠していても見られてしまえばすぐに気づくのだ。
「レイシアひ――」
姫でさえも言わせなかった。周りに誰もいないことを承知の上で、ただ殺した。彼らがレジスタンスだと分かったからこそとすぐにレイシアは霧夜を振るって、その人を殺した。
《躊躇いなさすぎだな》
「当たり前でしょう。此処で騒がれたらややこしいことになるもの」
レイシアは、いずれ自分がラインガルの元王女だとバレても構わないとは思っている。でもそれは今ではないと思っている。そしてラインガルの元王女というより、新しく出来る国の女王として名を馳せたいと願っている。
《レイシア、ラインガルという昔の国よりも、レイシア自身に惹かれて、国について来ようとしている人がいれば連れていくか?》
「そうね。ラインガルを理想としていないならありかもしれないわ。でもそれは難しいわ。ラインガルはそれだけ良い国だったもの。私という存在がいるなら新しい国をキレイドアに起こすよりも、元々のラインガルを復興させようと彼らはするはずだわ」
何故ならそちらの方がきっと簡単だから。
キレイドアという人が生きにくい地で、わざわざ国を興すのは難しい。非現実的な目標だから。
レイシアだってそのくらい分かっている。だからこそレイシアはラインガルの民のことを連れて行こうとはしていない。
レイシアはその後もラインガルの元国民達にバレないようにしながら国民探しを続けた。ラインガルの元国民と遭遇する時は時々あった。だけど結局相いれないため、レイシアの手によって切り捨てられていた。
「――ある程度、仲間に出来そうな人は集めれたわね」
レイシアは元ラインガルの国土を後にする。ラインガルを復興させるために、彼らはまだまだ尽力を尽くしていくだろう。その道にレイシアが進むことはない。だけど、いつか――この土地がまたラインガルとして復興するのならば、新しく出来たレイシアの国と関わることはあるかもしれない。
未来は誰にも分からないからこそ、そういう未来がある可能性もある。
《……その時はどうするんだ?》
「その時次第ね。でもラインガルが復興したとしてもそれはそれよ。国交を結べるならそれはそれだけど……多分、それはないでしょう。私に元ラインガルの王女という消えない肩書がある限りきっと私をラインガルに縛り付けようとするかもしれないわね。それに全力で私は反抗するから、敵になると思うわ」
《……本当、全然ブレねぇな。レイシアの事は敵に回したくないって思うぞ》
「ふふ、『災厄の魔剣』にそう言ってもらえるなんて光栄だわ。私もアキと本気で敵対したいとは思わないわ。アキが私の敵に回るなら叩き潰すけど」
《おー、怖い怖い。レイシアが面白いままなら俺は敵に回らねぇよ》
霧夜のそんな声を聞いて、レイシアは面白そうに笑っている。




