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「ついたわね!!」
《そうだな》
レイシアと霧夜は海を渡った先へとたどり着いた。レイシアは長い船旅を行った後だとは思えないほどに元気だった。寧ろ『魔剣』である霧夜の方が船旅で飽きてしまい、精神的に疲れていた。
やはり『魔剣』であるとはいえ、人の心を持ったままである。特に――レイシアという少女と出会ってから、霧夜は自分の中の人としての心が前よりもざわついていることに気づいていた。
(今まで俺のことを人として扱う者はいなかったからなぁ。レイシアは変わっている人間だからこそ、俺は自分が昔人間だったことを思い出してしまっているっていうか……)
霧夜は自分で自己分析をする。
――何故自分がこんなに人としての感情を思い出しているのか、それはただレイシアが霧夜を一人の人として扱っているから。だからこそ、『魔剣』としてではなく、人としての感覚を思い出している。人間だった頃なんてずっと昔で、『魔剣』として過ごした時間よりもずっとずっと短いのに。
「アキ、何処に行きたいとかある??」
《旅行じゃないんだぞ? なんでそんな風に旅行風なんだよ。もうちょっと考えろよ》
霧夜は何だかまるで旅行をするかのよう興奮気味のレイシアに呆れたような様子を見せていた。正直言って、海まで渡って国民を探しに来ているレイシアは大分変っている。
普通の人ならばそもそも国を作ろうとすることさえもありえないし、こうして国民を王自ら探しに行くのもあり得ないだろう。
でもそれが、レイシアという少女なのだ。
「いいじゃない。こういうことは楽しんでこそよ。楽しんだ方がきっと良い結果になるわ」
レイシアは自信満々に言い切る。正直言って悪いことばかり考えて目標を叶えようとするよりも楽しいことを考えて目標を叶える方がいい――そんな風にレイシアは思っている。そもそもレイシアは基本的に驚くほどに前向きな性格をしているので、後ろ向きなことを考えることはまずないのだが。
レイシアは霧夜を背中に背負ったまま、まずは港街の宿へと到着する。レイシアはフードを被り、顔をある程度隠しているとはいえ、整った顔立ちをしているので顔を見られれば見惚れられていた。
《レイシア、此処はお前の故郷がある所だろう。レイシアのことを知っている人もいるんじゃないか》
「そうね。いるかもしれないわ」
レイシアは霧夜の言葉に軽い調子で答える。故郷の話をしていると思えないほど、その事ば軽かった。心の底から故郷の民のことも、国のことも気に留めていない。……いたとしてもどうでもいいとさえ思っている。
そんな調子のレイシアに霧夜は呆れてしまう。
《本当によくそこまで割り切れるよな。俺だったらレイシアの立場だったら色々考えて、気にしてしまうと思うんだが》
「アキは『魔剣』のわりに気にしすぎよね? でもまぁ、所有者である私がそういうことを気にしない性格だから、私の『魔剣』であるアキがそういうのを気にしてくれる性格だと助かるわ。全員、私と同じ考え方だったならば国を作るのも大変かもしれないもの」
レイシアはそう言って微笑んだ。
レイシアとしてみれば、いけいけ押せ押せで、何も止まらずに前に進みたいが、霧夜のように慎重に物事を進めていくものがいなければ上手く行かないことだってきっとあると知っている。レイシアの記憶の中にある故郷でも、色んな性格の人たちが国を作っていた。国を支えていた。
《そう思うのだったらその暴走癖をどうにかしろよ。俺の言うことももっと聞こうな?》
「それとこれは別よ!! アキは私に言うことを聞かせたいのならば私が納得するだけの言葉を私に与えればいいわ。私はアキが私をちゃんと説得してくれるならばちゃんと聞くわよ?」
《はぁ……本当にレイシアは自由だよな》
霧夜は溜息をつきながらも、こういう性格だからこそレイシアが面白いのだとは理解している。そしてレイシアがこういう性格だからこそ、自分という存在を受け入れて、自分から霧夜の事を使おうとしていることも分かっている。
だから仕方がない、とあきらめる。
《ああ。レイシアが何かやらかそうとしているなら俺が力と言葉をもってとどめよう》
「あら、それもいいわね。アキと喧嘩なんて楽しそうだわ!! アキは《災厄の魔剣》って呼ばれているぐらいだし、きっと単体でも強いでしょう?」
《……何で楽しみにしているんだよ》
霧夜はそう答えながら、どうにかしてレイシアを喜ばせずに、レイシアが嫌がる形でレイシアを止める方法を考えなければならないと思った。
(それにしても俺が一人でレイシアを止めるのは正直荷が重いというか、難しい……でもやるしかないから頑張るか)
今は此処にはレイシアと霧夜しかいない。レイシアの暴走を止められるのは霧夜だけである。此処がレイシアの故郷がある場所だからというのもあるが――この大陸で霧夜は何かが起こる予感がしていた。




