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霧夜はレイシアに背負われたまま、黙ってドワーフとの混血たちとレイシアの話を聞いていた。
突然の言葉に彼らは驚いている。それはそうだろうと思う。寧ろこんな突拍子もないレイシアの発言に戸惑いもせずに頷ける存在はそうそう居ないと言えるだろう。
「なにを、言って」
「何をって、言葉通りよ。私の元へ来なさい。居場所がないなら作ってあげる。いいえ、貴方達が作るのよ。私の元でね」
相変わらず自信満々にただ言い切る。
レイシアの言葉には全くの躊躇いがない。ただレイシアという少女は自分の元へくれば、目の前の人々を幸せに自分なら出来ると信じ切っている。
自分自身をどこまでも信じているからこそ、その言葉には重みがある。
(本当にそれを成し遂げてしまいそうな――そんな雰囲気をレイシアは醸し出している。レイシアは、周りに出来なくても出来ると思わせる。いや、多分こいつならやるだろうけれど)
霧夜はそんなことを思いながら、黙って話を聞いていた。下手に口を開いて、ややこしい事態にするよりこの場はこのまま目の前の混血たちが流されていった先で『魔剣』のことを知ったらどうなるだろうかというその好奇心もあったからだ。
「……あなたの元へ?」
「それはどういう……」
「あのね。此処に私は人を集めてるの。貴方たちがこの環境を抜け出したいのでしょう。新しい環境を迎えたいのならば、この場所に来なさい」
レイシアはそう言って、彼らに地図のようなものを渡している。霧夜がちらりと見たその地図は大分おおざっぱなものであった。
――キレイドアの奥の方に、印がつけられている。
その地図を見て、彼らは目を見開いた。それもそのはずだろう。キレイドアとは人の手の入っていない、そんな危険な場所だ。
なんで、その場所を示しているのか、彼らには理解が出来ない。
「――その場所に私は国を作っている。ただ、私が作りたいから作っている国よ。貴方達がこの状況から抜け出したいならそこに向かいなさい。このまま拒絶されて生きていくより、その方がいいわ。何より、私は貴方達が私の元へやってきて、そして私のために力を尽くしてくれるなら貴方達を幸せにするわ!!」
なんだかプロポーズの言葉みたいだなと、霧夜が思ったのも無理はないだろう。
レイシアは本気で自分の作ろうとしている国にやってこようとしている人々を全員幸せにしようと思っている。無理だとはきっと思っていない。国民になってくれるのならば、悪いようにはするつもりはないのである。
「え」
「――まぁ、来ないなら来ないでもいいわ。でもきっと私の元に来た方が貴方達は居場所が出来るわよ。私はちょっと今から船の予約を確認しにいってくるわ。もし行く気があるならそこにいきなさい」
レイシアはそれだけ言うと、その場を後にする。
言い逃げである。
レイシアはこの街にやってきた目的を、彼らと会話を交わしているうちに思い出したようだ。彼女は他の大陸に向かい、そこでも国民を探そうとしているのだ。
船の予約を確認する必要があった。
レイシアが狙うのは、乗客の身分を気にしないようなそういう船である。他の大陸へ向かう船は幾つもあるが、貴族たちが乗るような船だとちゃんと乗客の事を調べたりするので、そういう船にはレイシアは乗りたくなかった。
《なぁ、レイシア、あいつらあれだけ言い逃げでいいのか》
「問題ないわ」
二人は言葉を発さずに、心の中でそんな会話をする。
霧夜はもっとドワーフとの混血達に何か言った方がいいのでは? と思っているが、レイシアは問題なしと思っているようだ。なので、それ以上は何も言わなかった。
レイシアはその後、船を予約した。
少しガラの悪い男たちが多く乗っている船のようで、レイシアを見て彼らはニヤニヤしていた。船に乗っている間にレイシアに襲い掛かろうと思っているものもいるのかもしれない。霧夜はその思考がわかり、彼らに同情した。
レイシアという存在は見た目が幾らか弱い少女にしか見えなくても、その実力も性格も苛烈の一言に尽きる。
(うん。多分、船はレイシアに制圧されるな。こういう荒くれものは特に自分より強い連中には絶対服従だろうし。レイシアの強さを知ればきっとレイシアの言う事を聞くだろう)
霧夜はほとんどその未来を予想していた。寧ろこういう荒くれものはレイシアに心酔しやすいように霧夜は思う。
頭を使うような者たちよりも、力で人を従わせるような連中は――レイシアという存在を特に眩しく思えることだろう。
レイシアは船の予約が取れて、ご機嫌そうだ。
船の出発は、二日後。
あと二日でレイシアは霧夜と共にこの大陸を一度後にする。
「楽しみね、アキ。アキは他の大陸は結構いっている?」
《俺は『魔剣』として色んな人の手に渡ったからな。でもそこまで色んな場所を見れたわけではないし……。見れるなら色々みたいかな》
宿でレイシアと霧夜はそのような会話を交わした。
霧夜の歴代の使い手たちは、精神的にぶっ壊れている存在や、霧夜によって狂わされた連中ばかりだったので、他の大陸をきちんと見てこれたわけでもないのである。そのため、霧夜は他大陸でどんなものが見れるかと少し楽しみになっていたのである。




