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薄暗い路地を、ふらふらと歩く人々がいる。
驚くほどにやせ細っていて、そのお腹からはきゅるるるるるるというお腹の音が鳴っている。
彼らの目は焦点があっていない。空腹から、その頭は働いていない。彼らは空腹に餓えている。——なんでもいいから食べたいと、その目は訴えている。
お金なんて持っていない。
この街で有名な織物なんて触ったこともない。
(何か食べたい、お腹すいた)
さて、一人の幼い少女がふらふらと動いている。
その少女は、生まれた時から貧しかった。親は気づけばいなくなり、ただ生活のためだけに生きている。今にも空腹で死んでしまいそうなほどの、危うい生き方をしている少女だ。
そんな少女は、突然話しかけられた。
「ねぇ、ちょっといいかしら」
少女はその言葉に、頭をあげて声の主を見る。
そこにいたのは、美しい少女である。——美しい金色の髪を後ろで一つに結んでいる。青い瞳を持つ少女――レイシアは《災厄の魔剣》——霧夜を背に背負っている。キレイドアで過ごしているとはいえ、それなりに良い衣服を着ているレイシア。肉付きもよく、餓えに苦しんだことのない美しさと強さがある。
まぁ、レイシアも国が滅んだ当初は子供一人で生きていく過程で、餓えに苦しむこともあった。とはいえ、レイシアは持前の力を使って、生き抜いてきた。たった一人で、国を作るという目標のために動き続けたのだ。——その精神力の強さは並みではない。
「――なに」
「私と一緒に来なさい」
《ちょっと待て!! いきなりはそれはないだろ!!》
少女は、レイシアの声のあとに聞こえてきた言葉に、不思議そうな顔をする。まさか、背負われている剣から声を発しているなどと思っていないのだ。
「煩いわね、アキは。まどろっこしいことはいいのよ。この子が私と行きたいかっていうそれだけよ」
レイシアはまどろっこしいことが嫌いだ。ややこしいことは嫌いなのだ。単純な事の方が好きなレイシアは、霧夜の意見など聞きもせずに少女に話しかける。
霧夜はやれやれといった様子で、仕方ないかと黙ることにしたようだ。
「ねぇ、私と一緒に来ない? 貴方は少なくとも此処の暮らしからは抜け出せるわよ?」
「なにを、言って――」
レイシアの言葉には不思議な力があった。不思議な魅力があり、カリスマ性がある。不思議とその言葉が信じられるような――そんな力がレイシアの言葉にはあるのだ。
だけど、少女も、この苦しい環境を生き抜いてきた。その分、夢というものを見られない。現実というのを知っているのだ。
「変な勧誘? 私、何もない」
「何を言うの? まぁ、勧誘と言えば勧誘だけれども――、貴方に何もないってことはないわ。貴方は生きているもの。私は貴方っていう、存在が欲しいわ」
「はい?」
《いや、だから、レイシア……。口出ししないようにしようって決めたけど、それじゃわかんねーって。相変わらず言葉たらずすぎるだろうが。えーっとお前、レイシアはまぁ、勧誘をしているっちゃしているが、お前を不幸にしたいわけではない。寧ろ多分レイシアについて行った方がいい暮らし出来ると思うぞ。苦労はあるだろうが》
困惑した後に、またそんな声が聞こえてきて、少女は益々困惑する。
「ああ、この声は私の抱えてるこいつが喋っているのよ。気にしないで」
「はい?」
「それでね、まぁ、アキが言っているようにね、私は貴方が欲しい。私は国を作ろうと思っているのよ。ううん、思っているというより、絶対に作るわ」
「は?」
少女は意味が分からないといったように、レイシアを見る。それもそうだろう。レイシアが何を言っているか分からない。——レイシアの目標は、何処までも突拍子もない事である。常人では考えられないようなそんな思考だ。
「――私はね、国を作っているの。でも国民がそんなにいないのよ。だから、私の国に来ない? 作りかけの国だけど、私はその国を世界で最も強い国にするわ」
「……何を、言って」
「ちなみに私はちゃーんと国民を大事にするわよ? 此処では食事がとれないかもだけど、ちゃんと食事もとらせるわ。そうね。魔物を狩れるぐらい強くさせる」
《難点といえば、そこまでたどり着けるかだよな》
寧ろそこの国での暮らしよりも、そこに辿り着くまでの方が命の危険が大きいだろう。
レイシアの言葉は何処までも夢がある。その力強い言葉に、心が惹かれそうになる。その言葉に、手を取りそうになる。
――けど、レイシアの言葉を心から信じられるか否かと言えば、初対面であることも相まって当然否である。
「――変な人。そんなこと、信じられない」
少女はそう答えてそっぽを向く。
レイシアは「え」といった表情をしているが、霧夜からしてみれば当たり前だろうと思っていた。
そして驚いているレイシアを置いて少女はすたすたと何処かにいってしまうのであった。簡単に断られたことに驚いていたレイシアだが、「諦めないわよ!!」と口にして、また少女に話しかけようと決意するのだった。
――霧夜はこんな調子で上手く行くのだろうかと思っているが、レイシアの好きなようにしばらくさせようと考えるのだった。




