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ルーベの街、その街でもレイシアは国民を探したかった。けれど、探すことを霧夜に止められたので、ひとまずこの街はスルーすることにした。というわけでさっさとルーベの街を後にする。
《レイシア、もうちょっと待てよ?》
「もー。いつになったら国民を探していいのよ!!」
さて、ルーベの街を後にしてレイシアと霧夜は驚くべきスピードで次々と街を移動した。レイシアは国民探しをしたくてたまらないという欲求でいっぱいだったが、霧夜が止めるので必死にその欲求を抑えていたのだ。
しかし流石にいくつもの街を移動した段階でそんなことを言われて、レイシアは我慢の限界である。
霧夜としてみれば、レイシアは許可を出すとどんどんやらかすだろうと思っているので、レイシアの我慢の限界が来るまで止めようと企んでいたのであるが。
(……レイシアがここまで我慢したのが良かったと思うべきか? もっと早くに暴走する恐れもあったからな。しかし、あれだな、マジで何で俺が『魔剣』なのにこんな風にレイシアのことを考えなければならないんだろうか)
霧夜はそんなことを考えながらも、この生活に楽しみを見出している自分にも気づいて不思議な気持ちになって仕方がない。
(『魔剣』の俺がこういう暮らしを楽しんでいるなんて本当不思議だ。俺は『災厄の魔剣』と言われて、人を狂わせる剣だと言われているのに――)
そんな自分がこういう風に人と共にあること、そのこと自体も霧夜には何とも言えない気持ちだ。
《レイシア、じゃあここで探すか?》
「いいのね!? やるわね。誰をぶっ飛ばす!?」
《待て待て待て、ぶっ飛ばすって話じゃないだろうが。もうちょっと穏便に行こうぜ。もっと穏便にだ。戦う必要は何もない。それは分かっているだろ? ただ国民を探せばいいんだからな??》
レイシアは何処までも戦闘狂で、派手なことが好きなのだ。細かいことを重ねるよりも、大きな事を一つやる方が良いのである。その方が単純で良いと思っているのだ。
《駄目だって。ぶっ飛ばすは駄目だぞ? マジでやめろよ?? 第一王になろうってやつを国民探しに行かせているだけでも十分レイシアを楽しませようとしているんだからな!?》
「なによー。もっと楽しみたいのよ。地味なのは嫌なのよ!!」
《駄目だって。こそこそも楽しいんだろ? こっそりとやらかしてここに住んでいる住民を、国民に変えるんだぞ? 凄い楽しいぞ、きっと》
「こそこそと? それも楽しいの?」
霧夜はなんとかレイシアの興味を引くことが出来て、ほっとする。
ちなみに今はウドーキという街にいる。その宿の一室で霧夜とレイシアは話しているのだ。……宿の一室でこんな物騒な会話をして、今にも誰かをぶっ飛ばそうとやる気満々だなんてレイシアと霧夜以外にはいないだろう。
《ああ。楽しいぞ。こっそり隠密活動をするのも中々良いものだぞ。俺が元いた場所ではな、こういう隠密活動をする忍者ってやつが人気でな。あれは良いと思う。レイシアも人に知られないように行動を起こして人知れず噂になるってかっこいいと思わないか? 俺はそういうのかっこいいと思う。名前を知られずにただ噂として広まっている正体不明の存在はいいよな》
「……アキはそういうものに憧れているの? なんだかいつもより長文喋れるわね。しかも興奮してる?」
《そうだなぁ、ちょっとはあるな。憧れ。レイシアがそういう風にやったら、俺も同じようなことやってるってことだしな》
霧夜、久しぶりに人間だった頃のことを思い出してそんなことを考える。『魔剣』としての生が長くなっていても、人間だった頃のことはよく覚えているのだ。特にレイシアと過ごすようになってから昔の記憶を霧夜はよく思い出すようになった。
それは、レイシアが霧夜の事を一個人として扱っているからなのかもしれない。
霧夜の言葉に、レイシアは少し黙ったかと思えば、
「いいわ、ならそのニンジャ? ってのはよく分からないけど、そういう風にやってあげるわ!! その代わり楽しくなかったら承知しないわよ? 楽しくないなら、私は自分がやりたいようにやるわよ!!」
レイシアはそんな風に言い放った。
レイシアは霧夜の言葉を聞いて、そういうこともありかと思い至ったらしいレイシアはやる気に満ちた表情をする。
「じゃあ、そのニンジャっぽく、国民探しをするわよ。そのニンジャは私が楽しく国民探し出来るのでしょう?」
《ああ、もちろんだ!》
そんなわけで、霧夜がなんとかレイシアを説得して、目立たないように国民探しが開始することになるのであった。