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さて、キレイドアの森の中をレイシアは歩いている。その背に背負われているのは、『災厄の魔剣・ゼクセウス』。
一人の少女と、一振りの魔剣がこうしてキレイドアを歩いている。
《なんだか最初にこのキレイドアに入った時みたいだな》
「ええ、そうね。あの時と一緒だわ。アキと二人でこうして村を出るのもわくわくするわね」
レイシアは楽しそうに笑みを浮かべている。霧夜とこうして、国民探しに行くことがレイシアにはわくわくして仕方がないのだ。……言ってしまえば、レイシアははしゃいでいるとも言える。
《レイシア、はしゃぐのはともかくとして、へまをやらかさないようには気をつけろよ。はしゃいでいると失敗もするだろうから》
「あらあら、アキは本当に心配性ね。でも大丈夫よ。私はどんなことが起きてもちゃんとやりきるわ」
《いや、それやらかすって言っているじゃねぇか!!》
霧夜は思わず叫んだ。
その大きな声に反応して、虎の姿をした魔物が出現する。その桃色の毛皮の虎を霧夜を引き抜いて、レイシアは一刀両断する。
「もう、アキが声をあげるから魔物が出てきちゃったじゃない!! 静かにしなさいよ」
《レイシアが声をあげさせるんだろうが!!》
「はいはい。静かにしなさい。私とアキならキレイドアの魔物はどうにでも出来るだろうけど、静かな方がいいわ!!」
レイシアのそんな言葉に、霧夜は大人しく口を閉ざすのだった。
それからキレイドアの森の中をレイシアと霧夜は抜けていく。
思ったよりもその間に障害は少なかった。レイシアという加護持ちと霧夜という魔剣が揃っているが故のである。
もし、此処に居たのがどちらか片方だったのならば、これだけ簡単にはいかなかっただろう。
《……ルインベルも近いな》
「ええ。アキと出会った場所ね。少し懐かしいわ」
《ああ。でもルインベルには入らない方がいいからな。迂回して通り抜けられるのならばそれが一番いいだろう》
「そうね。……ちょっと寄ったら駄目かしら?」
《それは最終手段だから! レイシアも分かっているだろうが。俺たちがキレイドアに入ったから、もしかしたら街の連中もレイシアが死んだと思っているかもしれないけど……》
「まぁ、その場合もアキって魔剣はずっと残り続けるし、キレイドアにアキを処分しに来るんじゃない?」
《あー、そうだな。聖教会は俺の存在を許さないだろうからな。それにしてもどうやって『魔剣』を処分しているんだか……おっそろしいな》
「あら、アキでも消えるのは嫌なの?」
《そりゃそうだろ。そうやって消えるとか、生まれ変わりとかありえなさそうだし。魂の消滅とかしそうな感じで物騒じゃねぇか》
「あら、アキはそんな生まれ変わりとか信じてるの?」
レイシアは意外そうに霧夜のことを見る。レイシアにとってみれば、霧夜は冷めた性格をしていて、そんな風に生まれ変わりを信じるようには見えなかったらしい。
《あー……俺が人間だった頃、そういうのは信じられてたんだよ。そういう漫画も沢山あったしな》
「漫画?」
《あー……娯楽本みたいなやつだよ。流石に俺も自我がちゃんと残っている状態で消滅とかさせられたくはねーよ。『魔剣』として長い間生きているけど……俺はまだまだ満足は仕切っていないから》
霧夜は『魔剣』だ。人としての体は既に失っていて、剣として生きている。それは生きていると言えるようなものではないかもしれないけれど――、それでも霧夜は満足しきっていない。人よりも長い時間を生きていれば満足をする人が多いかもしれないが、一世紀以上自我を保ち続けても霧夜はまだまだ自我を保ち続けたいと思っているのだ。
「ふぅん。まぁ、アキがそんな考えなのは分かったわ。でも私は未来のことなんて何も考えてないわ。私は今が大事だから、今を生ききればその後なんてどうでもいいわ! だからそのために今の人生をやりきるのよ!!」
《レイシアは本当にブレねぇな》
「ふふ、それが私だもの」
そんな会話をしながらレイシアと霧夜は、キレイドアを抜けた。
さてルインベルに入ることなく、どうにか街を抜けていこうとレイシアと霧夜は考え、森の中を移動していく。
そしてルインベルの街に入ることなく、レイシアと霧夜はルインベルを抜けた。レイシアはつまらなそうな顔をしていた。
「……つまらないわね」
《仕方ねぇだろ。ルインベルでやらかしていたんだから。下手にしょっぱなから死ぬなんて真似になったら大変だろうが》
「まぁね。でも何が起こっても私とアキが揃って死ぬことはないだろうけどさ」
《それが慢心だっていうんだよ……。ちゃんと気を張った方がいいだろ》
レイシアと霧夜は街道を歩いていき、ベーザという街に到着した。




