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「――もっと刺激が欲しいわね」
《突然、何を言っているんだ、レイシアは……》
竜人たちを仲間に引き入れて、早二カ月ほど経過していた。竜人たちにこのキレイドアの情報を教えてもらったおかげで、キレイドアでの暮らしは徐々に暮らしやすいものになってきている。
危険な魔物の情報や、このあたりに実っている植物や果実の情報。沢山の情報を手に入れ、整理することによって、この未開の地であるキレイドアでの暮らしはなんとか続けられている。
とはいえ、この場所が危険であることは変わりがない。レイシアという圧倒的な強者がこの場にいなければとっくにここでの暮らしは瓦解していることであろう。
さて、比較的平和に進んでいた暮らしの中でレイシアが呟いた一言に思わず霧夜は突っ込みを入れた。
「何を言っているって、あの竜人たちを引き入れたあと、もっと面白いことが起こるんじゃないかって思ってたのに、特にそんなことが起こってないでしょう? もっとなんかこう、劇的に変わるとかそんなの期待してたのに!! アキだって拍子抜けしてるでしょう!?」
《あー、まぁ、それは確かに。もっといろいろ起こるかと思っていたけれど、比較的平和だからな。でもな、キレイドアでの暮らしが平和なのはいい事だろうが。下手に問題ばかり起こったら国を作るって目標さえも達成できないんだぞ》
「それはそうだけどー、こう、退屈なのよ!!」
《毎日、魔物を狩っておいて退屈とかいうなよ! しかも村が少しずつ整って充実していってんだから変化は十分にあるだろうが。それなのに文句ばかり言ってんじゃねーよ》
霧夜は呆れた声をあげる。
相変わらず『魔剣』である霧夜の方が常識をといている。
キレイドアは霧夜が言うように、少しずつ変化が起きている。住む場所が充実し、畑なども出来て、狩った魔物を活用して簡単なものを作ったり――、そんな風に良い方向に向かってきている。竜人たちを仲間に入れたというのもあり、空の脅威も減った。
しかし、レイシアからしてみれば退屈らしい。
《レイシアはさ、国を作るっていうのが最終目標ではないだろう。国を作って最強国家にすることが最終目標なんだろ。王になるっていうのならば、もっと我慢強く、粘り強くならなきゃダメだろうが。カリスマ性があるだけでは王になんてなれねーんだぞ》
霧夜はレイシアにカリスマ性があることは認めている。揺るぎがない瞳と言葉で、人を先導するだけの力は持っている。だけれども、それは王の素質というより英雄の素質のようなものに霧夜には映る。
王という統治者と、英雄という強者は違うものだ。
両方を備えているものが世の中にはいるようだが、霧夜の目から見てみればレイシアはもう少し王になるというのならば統治者になるための術を学んだ方がいいと思ってしまう。
「そうね……! 私は女王になるのだわ。そして最強国家を作るのだわ。なら、そのために我慢することもしなければなのね」
《分かってくれたか、レイシア》
「でもっ! 退屈で刺激がないのは体に悪いわ!! 生活が少しずつ落ち着いてきたとはいえ、この場所を国にするためにはやらなければならないことが沢山あるはずよ!!」
《レイシアさぁ……俺の話聞いてたか?》
「聞いてるわよ!! でもきっと私が楽しくなるようなことがあるはずだわ!! アキ、チュエリーと一緒に考えなさい!!」
《はぁ……》
「何をため息吐いているのよ! この場所は確かに村としてはうまく機能していってるわ。でも、私は村を作りたいのではないのよ。国を作りたいのよ!!
竜人たちを仲間にして、空の脅威は減ったし、魔物に対する対応もなんとか出来るようになっているし!! なら、なんとか私が面白い事が出来るはずだわ」
《まぁな。国を作りたいならこのままのんびり暮らしても問題だけどさ……。レイシアは国にするためにというより、自分が詰まんないからだろ》
「両方よ!! 確かに私が退屈しているからっていうのが一番の理由だけど、国にするためにもこんな風に停滞しているだけでは駄目だっていうのも分かっているのよ」
堂々と、退屈しているのが一番の理由だなんて言い切るレイシアに霧夜は内心呆れていた。呆れている霧夜を背中に背負うと、レイシアは「チュエリーの元へいくわ」と意気揚々と歩きだすのであった。
レイシアの背中で霧夜は、現状でレイシアが面白いと思えるようなことって何があるだろうかなどと思考を巡らせるのであった。何だかんだで常識的な事を言いながらも霧夜もレイシアと似た者同士で面白い事が好きなので、面白くなることに関しては問題はないのであった。