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「竜人ですか」
レイシアと霧夜は空を飛ぶものたち――竜人たちの集落に一泊した。その後、一度レアシリヤに戻ることを決めた。
一度、レイシアに敗れた竜人たちは一泊するレイシアを奇襲することなどなく平穏に夜が明けた。竜人たちはレイシアが強ければ従うという言葉に嘘がなかったようで、レアシリヤに戻るというレイシアを笑顔で送り出したものであった。
竜人たちの集落を後にして、レアシリヤに戻ったレイシアを迎え入れたのは心配そうな顔をしていた村の者たちである。
正体の分からない空飛ぶ存在の元へ向かい、一日戻ってこなかったというのもあって彼らはそれはもう心配していたようだった。そんな心配を知らないとばかりにレイシアはそれはもう良い笑顔を浮かべて竜人達のことを語った。
話を聞いたチュエリーやカイザーたちはもちろん、竜人などという存在が存在していることを知らなかった。なので、戸惑うのも無理はない話だった。
「それで、そんな空を飛べるような得体のしれない存在を屈服されたって? 本当にレイシアは予想外のことばかりをする」
「ふふふ、ほめてもいいのよ?」
レイシアはカイザーの言葉に、得意げに笑っている。本人としてみれば、新しく村人を手に入れる事が出来たと満足なのかもしれない。
「流石ですわ。レイシア様に、ゼクセウス様。あなた方だからこそ、空を飛ぶ存在を味方につけることが出来たのですわ。本当に素晴らしい」
《って、チュエリー、レイシアが調子に乗るからあんまりレイシアを褒めるな》
「何よ、アキ。いいじゃない。私は褒められた方がやる気が出るのよ!!」
《それで考えなしに行動されちゃ、こっちが困るんだよ!!》
今日も元気に口喧嘩をするレイシアと霧夜をカイザーたちは呆れた様子で見つめていた。
「それで、その配下に加えられたことはよろしいことですが、その者たちをどうするのでしょうか? 山頂に住んでいるということですが、下に降りてきてもらいますか?」
《そうだった。チュエリー、そのあたりをどうするか決めようと思って一度戻ってきたんだよ》
「アキとチュエリーたちが考えなさい! 私はアキが難しいこと考えてくれている間に《赤鴉》の連中鍛えてくるから」
《って、まてこら。俺やチュエリー達であいつらをどうにかするのを話し合うというのは良いが、レイシアも混ざれ。レイシアが配下に加えた連中なんだから、俺に任せずにちゃんと意見は言え。つか、『魔剣』に丸投げするんじゃねぇよ》
レイシアは考えることが嫌いなので、さっさと霧夜たちに丸投げして《赤鴉》の連中を鍛えようなどと言い出していた。なので、思わず霧夜は止める。
「なんでよ? 別にいいじゃない。私がいたとしても特に良い感じの意見とか出せないわよ?」
得意げにそんなことをいうレイシアに、正直言って霧夜はため息しか出てこない。
《いいから、居ろよ。国を作るんだろ。そのトップに立つやつが話し合いに一切参加しないで許されるわけないからな。そもそも、もう少し考えろよ。丸投げして、丸投げされた奴が好き勝手に独裁政治でもしたらどうする気なんだよ……。国を作ってそのトップになるっていうんだったら話し合いとかも重要なんだから。ただ上にいるだけが王なんじゃねーし》
相変わらず『魔剣』の癖に至極まともな事を口にしている霧夜であった。
レイシアは何処までも丸投げする気満々であったが、王になるというのならば、丸投げするではなく、きちんと把握しておかなければならないものだ。任せている相手が下克上をしないとも限らない。
「だって、アキはそんな独裁政治とかしないでしょ?」
《しないけどな? でも、『魔剣』である俺に任せきりにするんじゃねぇよ! ちゃんといろっていってんだよ。未来のためにもちゃんと理解しておくべきだって》
「はいはい。じゃあ、居るわよ。それで、あの竜人たち、どうする方がいいの?」
《俺の考えを言うと、全員をこちらに住まわせるのはやめた方がいいだろう。あいつらにもあいつらの暮らしがあるわけだし。逆にこちらから向こうに移住するのも無理だな。あそこは人には住みにくい。だから、何人かこちらに移住してもらう形にするべきかとは思うが。それで交流を図って、このキレイドアについて知っていくことが重要だろう。あとあいつらは強い奴の言うことを聞くっていうんだから、レイシアは常に強くあり続けなければならない。レイシア以上に強い奴がいれば簡単にあいつらは裏切るだろうから》
「それは問題ないわよ。私が常に強くあればいいんでしょう?」
《軽いな、本当に。レイシアが死んだ後にはどうなるか分かんないぞ。あいつらを配下にして》
「それも関係ないわね。それは私の跡に王を継いだ奴が考えることよ」
……レイシアは何処までも自分本位である。最強国家をつくりたいという目標を掲げているが、死んだ後の事は知らないらしい。
《はぁ、そうかよ。まぁ、いい。チュエリーはあいつらに対してどうするべきだと思う?》
「ええっと、私はレイシア様とゼクセウス様のように彼らを直接見ていないので、何とも言い難いのですが……。ただ、こちらに人をよこしてもらうだけではなく、向こうにも人をやった方がいいのではないでしょうか。それで、適度にやり取りをして、このキレイドアで生きていくための術をもっと確立していくべきでしょうね。なんとか、今は生きていけていますが、このキレイドアは未知にあふれていますから……」
《それはそうだな、あとは――》
それから霧夜主導で、彼らをどうするかという話が進められていくのであった。その間、レイシアは少し退屈そうにしながらも、ちゃんと話を聞いているのであった。




