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「どこからでも、かかってきなさい!!」
レイシアは、霧夜を抜き放って、彼らに向かって切っ先を向けている。
レイシアは、空を飛ぶ人々の集落の中心部にいる。相変わらずほとんどの者達が宙に浮いた状態だが、そのうちの若い男達がレイシアの前に立ちはだかっていた。
レイシアと向き合うようにその場にいる彼らは、真剣な眼差しをレイシアに向けている。
そんな状況の中で、霧夜はなんでこんな状況になったのかと思い起こしていた。
レイシアは彼らに向かって、国を作るから従えと言い放った。つかなくても無理やり従わせるとそんな不遜な態度をしながら言ったのだ。
そんなレイシアに対して、彼らが言った言葉といえば、「自分達と戦ってほしい」という事だった。
……レイシアに背負われたまま話を聞いていた霧夜は正直、何言ってんだこいつと思ってならなかった。しかし、レイシアときたら彼らの言葉を聞いて、不遜に笑った。
それでだ、何故戦わなければならないのか、何故そんなことを言ったのかという理由を問いかける事もなく、戦闘をすることになった。レイシアと空を飛ぶ不思議な人種との間に余計な会話は一切なかった。ただ案内されるがままに、彼らの集落の中心部の開け放たれた場所に連れていかれた。そして戦闘をすることになった。……霧夜からしてみれば、なんだ、それである。
(……意味わかんねぇな。しかも俺を使うとか、真剣勝負かよ。あとこいつらも脳筋なのか? レイシアと同類? 何でまず、戦うなんだよ。話し合いとかないのかよ。脳筋が当たり前なのか? この世界だと当たり前……ってことはねぇよな。多分こいつらだけだろ)
何で一先ず戦うなのか霧夜には正直な話、理解不能であった。『魔剣』として生き、『魔剣』らしくあろうとしている霧夜だが、元々の性格は理性的で脳筋とはかけ離れた性格をしているのだった。
「アキ、魂は駄目よ」
《分かってる。仲間になるかもしれないやつの魂は喰わねぇよ》
霧夜が軽く答えれば、レイシアは「アキって『魔剣』なのに平和主義よねー」と面白そうに笑った。霧夜はレイシアの心にしか聞こえないようにしゃべっているがレイシアは口を動かしている。……傍目から見て見ればレイシアが独り言を言っているようにしか見えないだろう。実際にレイシアと対峙する彼らも怪訝そうな顔だ。
―—そんな中で、審判を務める者が合図をした。レイシアと彼らの戦いの始まりである。
一対複数という真似をしたくなかったのか、もしくは一人でもレイシアを仕留めきれると思ったのか、レイシアの元にとびかかってきたのは一人だけだった。レイシアはその事実に目を細めた。
「私に、たった一人でかかってくるの? 甘く見過ぎだわ」
冷たい声を発したかと思えば、レイシアは霧夜を振るう。命を奪う事が目的ではないので、殺さないように手加減をしながらだ。
空からとびかかってきた男に霧夜を向ける。躊躇いもせず切りかかれば、もちろん、彼はそれをよけた。避けたと同時のタイミングで、その腕をつかみ取る。レイシアの手をはがそうとしてもはがせない。
レイシアの力は強い。
そのまま、レイシアは彼を引き寄せ、地面にたたきつけた。
一瞬の出来事である。レイシアは彼を組み伏せた。地面に勢いよくたたきつけられたその男は意識を失っている。
「ねぇ、私を相手にするなら全員でかかってきなさい。私は全てを受け止め、全てを蹴散らすわ」
強い瞳。躊躇いもない口調。―—レイシアは、自身が負けるなどとは思わない。自身の勝利を一切疑う事などしない。
堂々と言い切る姿は、美しいと言えた。
元々見目が美しい少女だ。だけど、それだけではない。何処までも強い意志で、躊躇いもせずに言い切る。その姿勢が美しいのだ。
空を飛ぶ彼らが幾らかかってこようとも関係ないと言い切ったレイシアに、彼らは少しだけ呆けた。だけど、すぐさま正気に戻って「後悔しても知らないぞ」と口にする。それから目の前にいた若い男達だけではなく、空の上に避難していたもの達までもが一斉にレイシアに襲い掛かった。
「アキ」
《おう》
名前を呼ばれた霧夜はレイシアが言いたい事が分かったのだろう。その場で、魔力を纏う。そして自身の意志で、空を飛ぶ彼らに重力を課した。
何人もの者たちが、叩きつけられる。
身動きさえ取れないものも多くいる。
それは霧夜の力である。『魔剣』である霧夜の力もまた、使い手の力の一部であると言える。
しかし、重力を課しても、まだ起き上がってとびかかってくる者もいた。
レイシアはそれを見て面白そうに笑う。彼女にとって、こんな状況でも向かってくる意志のあるものは愉快な存在でしかなかった。もしくは、良い遊び相手といった所だろうか。
「ふふふふっ。私にかかってきなさい!!」
レイシアは戦闘狂であるかのように、恐ろしいほどに笑みを浮かべている。
その言葉になんとか体の動かせるものはレイシアに向かってきたわけだが、すぐさまレイシアの手によって無力化されるのだった。