10
―—貴方達の、王になるものよ。
レイシアは、一切の躊躇もなく、そう言い切った。
彼女の青い瞳は、真っ直ぐに彼らの事を見据えている。彼女は躊躇わない。ただ、彼女は自分の目標が必ず叶うものだと信じきっている。
自分の未来が、王になっていないなどはありえないと、彼女の態度は告げている。
空を飛ぶ彼らは大混乱である。
彼らからしてみれば、突然やってきた変な男。その男が言った意味深な言葉。そしてその後にやってきた女。何者か聞けば王になるなどという。
それは意味が分からないのも当然である。
背負われている霧夜も、そりゃ混乱するだろうと呆れていた。霧夜は『魔剣』として長い間この世界に存在し続けているが、こんな存在見た事もない。だからこそ、面白いと思ってこうして共にいるわけだが。
霧夜は空を飛ぶ彼らがどんな反応をするか、わくわくしながら黙ってそこにいる。
「王? 何を言って……」
「私は、国を作るの。だから、私の下につきなさいって言ってるの」
レイシアは揺るがない。レイシアは自分の目的が叶う事を疑わない。
揺るがない信念がそこにあり、彼女はその美しい青色の瞳を彼らに向けている。
「……国を、作る?」
「ええ。そうよ。私は誰にも負けない国をこれから作るの。どんな敵にだって負けない国を作るの」
真っ直ぐにレイシアは、彼らを見据えている。
空を飛ぶ彼らは動かない。レイシアの強い意志を持った言葉に聞き入っているという態度をしている。そういう状況に持っていけることでさえ、霧夜は関心してならない。
カイザーを言葉で説得した時のように、何時だってレイシアという少女はその意志を揺るがす事はない。
霧夜はレイシアの事をそこまで知っているわけではない。ラインガルの王族であった事は知っているが、その後どんなふうに生きたのか、何故誰にも負けない国を作ろうとしているのか正しく知っているわけではない。
でもいつだって、何があったとしても、彼女は揺るがなないだろう。迷いを一切見せないというのは、それだけで一つの強さだ。迷いのない言葉は、人の心を動かすものに確かになるのだから。
「私はそのために、この場所にキレイドアにやってきたの。誰にも負けない国を、一から私の手で作るの」
視線さえも彼女は反らす事はない。
「私は貴方達が面白いと思うわ。私は貴方達のように飛べる人を知らないもの。そんな面白い存在がこのキレイドアで生きていたなんて知りもしなかったわ。だからこそ、面白いと思うの。私は貴方達が欲しい」
知らなかった存在。その存在を彼女は面白いと口にする。そして、何かをねだるように、簡単に――欲しいと口にした。
「だから、私の下につきなさい。私がこれから作る国の国民になりなさい」
レイシアは言い切った。
これだけの大勢に囲まれているのに、やはり彼女は揺るがない。一欠けらの怯えさえもその顔には見せず、堂々と、ただ自身の要望だけを言い切った。
「―—断る、と言ったら?」
「あら、断らせないわ。私は、貴方達を国民にしたいの。無理にでも国民にならせてあげる」
こんな状況でも、レイシアはやはり笑ってる。
不敵に微笑み、自分が負ける事など考えもしていない。
「たった一人で、何が出来る?」
探るような瞳で、彼らを問いかける。
「あら、此処にいるのは私だけじゃないわよ? ね、アキ」
《……まぁな》
ずっと黙ってやり取りを聞いていた霧夜は、レイシアの呼びかけに言葉を発した。引き抜かれた大剣―—禍々しいオーラを身に纏う『魔剣』。それが言葉を発したと知った彼らは驚愕している。キレイドアで生きていた彼らは『魔剣』という存在を知らないのかもしれない。
「剣がしゃべった!?」
「なんだ、あれは――」
「ふふ、これは、私の『魔剣』よ。面白いでしょう? 自我があるの」
レイシアは自慢するように、見せびらかすように霧夜の事を彼らに見せている。
「『魔剣』?」
「聞いた事がある。所持者が狂う危険なものだって」
「じゃああの女は狂っているのか?」
レイシアの事をひそひそと彼らは口にする。どうやらレイシアが狂っているように見えたようだ。
ある意味狂っているというのは正しいだろう。まともな神経をしていれば、国を作ろうと本気で考える事などありえない。そう考えれば、レイシアは霧夜と出会う前からとっくに狂っているのだ。
「私はまともよ。私は、本気で国を作りたいの。そして貴方達を私の国の国民にしたいの。『魔剣』を手にしていても私は私だわ。私はアキを手にする前から国を作りたかったのだもの」
狂っていると言われても、レイシアは動じない。
「それで、貴方達はどうするの? 私の下につく? つかないっていっても無理やりつかせるけれど、どうするかしら?」
レイシアは狂っているか狂っていないかどかはどうでもよく、ただその結論が知りたかった。自分の下につくかつかないか。
レイシアはそこまで我慢強い性格ではないので、即急に返事が聞きたかったようだ。
霧夜はもっとゆっくり説得すればいいのにとあきれながらも口出しはしなかった。
「―—それは」
そして、彼らは口を開いた。




