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情報収集を霧夜がやると聞いた時、レイシアは反対を示した。それは霧夜を心配しているから……というわけではもちろんない。
「何それ、ずるいわよ!!」
レイシアは情報収集という形で霧夜があの、空を飛んでいる種族達の傍に行くことをずるいと反対していたのだ。
レイシアは見た事もない種族に興味津々で、今すぐにでも突撃をしたいと感じている。それなのに、レイシアではなく霧夜が近づこうとしているのだ。——レイシアからしてみれば面白くないのだった。
憤慨しているレイシア。
その目の前でそんなレイシアを面倒だと感じている霧夜。
そしてそのやり取りを見ているチュエリーやカイザー達。チュエリーは面白そうにくすくすと笑っている。レイシアと霧夜のやり取りが面白いらしい。カイザーは神妙な顔だ。
「……ゼクセウスよ、情報収集をするとはどうするのだ。ゼクセウスは剣であろう。どのようにまずは移動をするのだ」
《あ? 俺は別に自分で移動することは出来る。それに俺は人間にも変えられるし、どうせなら人の姿で観察してくる。剣で行くよりそっちのがいいだろう》
霧夜はそう口にすると、自身に魔力を纏わせた。その渦巻いた魔力が、霧夜を包み込む。そしてその魔力が、霧夜の姿を変化させる。
大剣だった『魔剣』が、人の姿へと変化する。
その幻想的な、信じられないような光景にチュエリーは目を瞬かせる。
レイシア以外は、人の姿に変化する霧夜を見るのは初めてである。
人の姿に変化した霧夜は、この世界では見た事のない漆黒の髪を持つ。夜を思わせる黒。何色にも染まらない黒。その姿に変化して、口元を愉快そうにゆがめる。
「ねぇ、アキ、私も一緒に行っていいでしょ!!」
「ダメに決まってるだろうが。レイシアは此処のトップだぞ? 国を作るんだろうが。それなのに、何が起こるか分からない場所にトップを連れていけるか」
「何よ!! アキだって私が国を作るにおいて重要な存在なのよ!! 『災厄の魔剣』を所持した私が国を作るっていうのに大きな意味があるのよ!」
「あのなぁ……人間であるレイシアは簡単に死ぬけど、俺は剣だからそんな簡単に死なないんだよ。だからこそ、俺が行くっていってるんだろうが」
人間であるレイシアは、簡単に死ぬ。そのことを魔剣として長い間生きてきた霧夜は十分に理解していた。今まで沢山、人の死を見てきた。いや、人の死を作ってきた。それに比べて、魔剣である霧夜には死という概念がないに等しいのだ。
だからこそ、レイシアよりも霧夜が情報収集に行くほうが安全である。
そもそもレイシアは何かしら理由をつけて、自分も一緒に行きたいと言っているだけであって、霧夜の事を心配している訳ではない。
国を作りたい、などと大きな野望を抱いている存在でありながら、何とも考えなしにレイシアは動こうとする。
(行動力があるからこそ国を作ろうなんて、普通では考えつかない事をするんだろうが。でも行動力があるからこそ、無茶をしようともするのか)
霧夜はそんな事を考えながら、子供のように剥れているレイシアを見る。行動力があるというのは、レイシアにとっての長所でもあり、短所なのだ。
「……レイシア、これからもっと楽しい事が待ってるんだぜ?」
「……本当?」
「ああ。考えてみろよ。今、我慢したら、その分次の楽しい事がもっと楽しく感じられると思うぞ? 小出しにされた面白さよりも、我慢した先の面白さの方がきっと楽しいぞ? ほら、食事と一緒だって。大好物を後にしたほうが一層美味しく感じるだろう?」
霧夜はそんな風に口にしながら、何でこんな風になだめなきゃならないのかとこの状況に呆れていた。
レイシアはその言葉に、少しだけ黙り込んだ後、顔を上げて言う。
「それもそうね!! なら、大人しくここにいてあげる。だからアキ。絶対にこの後、面白くしなさいよ」
「はいはい」
霧夜はニヤリと笑って宣言したレイシアの言葉に、適当な返事をする。
(情報収集に行って、味方に引き込めたら一番いいか。まぁ、敵対したら敵対したでそれも面白いけど。その場合、出来そうなら屈服させて奴隷のように扱うのもありか。ただどういう存在か分からないから、そのあたりはどうにかしねぇとな。……それに面白く出来なかったら、レイシアが煩いだろうし。出来る限り面白くするか。俺が楽しむためにも)
霧夜は出来る限り面白くすることを決意する。それはレイシアが煩いだろうからというのもあるが、自分が面白いと感じたいからというのもある。何だかんだでレイシアと霧夜は似た者同士なのである。
そしてそれから数日後、『災厄の魔剣・ゼクセウス』――暁霧夜は空を飛ぶ摩訶不思議な存在に対する情報収集に出かける事になった。




