3
空に存在するのは、人だ。
しかし、その人は空を飛んでいるというのに翼があるわけでもない。その空に存在する者は、人とは少し異なる点を持ち合わせている。それは、肌に存在する鱗。爬虫類が持つ鱗をその存在は持ち合わせている。
人間、というには少しだけおかしい。
―――そんな存在が空に居た。
霧夜は空を飛ぶ人なんてものがいることにまずは驚いた。そんな存在がいるなどと、魔剣として長い間この世界にいた霧夜だって知らなかったのだ。
霧夜は、その存在に視線は釘づけである。
(……空に浮いている。人間は空には浮けない。なら、あれは人間ではない。でもこの世界で俺が『魔剣』としてこの世界で生きていて、一回も見たことない存在。そんな存在が居るなんて——やっぱり、この異世界は面白い)
霧夜は愉快な気持ちが心の底から湧いて仕方がなかった。魔剣の心というのが何処にあるのかも分からないが、それでも霧夜という『魔剣』には確かに心が宿っている。
そもそも物質に心が宿っているというだけでも不思議な事だろう。だけど、そのような不思議な事が起こるのが異世界である。
「ふふ、飛んでるわ。あれ、面白いわ」
《で、どうするんだ?》
「もちろん、捕まえるわ」
ぎらぎらした目でレイシアはいった。
レイシアは、もう決めてしまっている。あの空を舞う存在を捕まえると。なぜなら彼女が興味を示している存在だから。
やると決めたら何が何でもやりきる。そう決めてしまっているのがレイシアという少女である。
《はぁ、で、どうやって?》
「どうやってって、そうねぇ……」
レイシアはそんな風に呟きながらも、その飛んで移動している存在から視線をそらす事はない。上空に向けられたままの視線。空を飛んでいるその存在に意識はずっと向けられている。
「そうだわ」
レイシアはそういったかと思えば、霧夜の柄に手をかけようとする。その段階で嫌な予感がした霧夜は思わず口を開く。
《ちょっと待て、俺の事、投げる気か? レイシア、敵対する気がないなら武器を投げないほうがいいからな?》
「何よ、アキを投げなくてどうするの?」
《他にも選択肢を持てよ》
「じゃあ、それはアキが考えなさい。私は、そういう選択肢しか思い浮かばないわよ」
《本当に脳筋な奴だなぁ。まぁ、いい、考えてやるから見失うなよ》
「ええ」
霧夜の言葉にレイシアは思ったよりも簡単に従った。
レイシアは霧夜を背に抱えたまま、その空を飛ぶ存在を追いかけている。
《レイシア、あの存在が何処に向かうのか突き止めるぞ》
「えー、それじゃあすぐに捕まえられないじゃない」
《いやあのな、もう少し慎重に行えっていうことだろ。そんな風にすぐ捕まえるよりももっとやりようがあるだろうっていう話だから》
「まどろっこしいわね。あ、山の方にいったわ!」
《結構高い山あるよな、このキレイドア。噴火するんじゃないかって不安だけど》
「山ねぇ……私たちが暮らしているのは森だものね。山ね、山……」
空を翔る存在は、山へと消えた。見失わないようにとしていたが、流石に空と地では追いつけないのも仕方がない。
《何、不満そうなんだよ》
「だって折角すぐ捕まえられると思ったのに。アキが他の選択肢を考えるって言ってたのに」
《子供みたいにふてくされるな。とりあえず、あの巨大な山の方にその存在が居る事は分かったんだからやりようがあるだろう。それにあいつらがどういうものたちか分からないが、飛ぶ事が出来るんだぞ。あっちの方がその分有利なんだぞ》
「有利だろうが、私とアキならどうにでもできるわよ」
《いやいやいや、俺やレイシアは大丈夫かもしれないけどな、他の連中は駄目だからな? 簡単に他の連中が殺される可能性もあるだろう。そういう下の連中の事も考えないと王なんてものにはなれないだろう》
「……それもそうね。まぁ、いいわ。そんな風に言うのならば、私が納得するあいつらの捕まえ方、ちゃんと考えなさいよ」
レイシアは霧夜に向かってそんな風に言い放った。
霧夜はそんなことを言われてもという態度だったが、レイシアを納得させられるにはどうするべきか思考する。
(あんまり時間をかけるとレイシアが暴走しだしそうだから、上手くあの連中の事をどうにか引き込めればいいけど。あー……ちょっと人化して探るか? いや、でもそれは難しいしな。もっと上手くどうにかしないと。あーもう、何で俺『魔剣』なのにこんな風に色々考えなきゃならないんだか。楽しいからいいけどさ。あの飛ぶ連中を仲間に出来た方が絶対に楽しいから)
霧夜はそんな風に思考をしながら、レイシアの背に背負われている。
「アキ、返事は」
《わかったよ。考えるからちょっと待て。あの連中はひとまずこちらに引き込めるように考えてやるから》
「ええ。楽しみにしているわ」
レイシアは霧夜を信じてにこりと笑って、そのまま、村へと引き返した。




