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レイシアが作ることを決めた国、その名前はレアシリアの名が決められてから早三か月。
その最初の村は、村としての形が整ってきていた。あの鳥の魔物に関しては、レイシアが今の所対応している。他の者達はまだ充分に対応しきれていなかった。
あの鳥に対抗する武器として弓が作られている所だが、何分戦闘職ばかりしかいない村なのもあって良い弓も作れていないでいた。傭兵団の中で弓を使うものはいたが、それも少数だった。
霧夜は、戦闘職以外も必要だととても思った。このまま脳筋でしかない連中だけでは、どう考えても駄目だろうと思って仕方がない。
レイシアときたら、チュエリーや霧夜に任せると言い張って好き勝手である。霧夜は『魔剣』という存在で、本来なら武器としてしか役割がないはずなのに頭を使う仕事を任され続けていて何とも言えない気分だった。こうしてレイシアの野望に付き合うのは面白いと思っているけれども、頭もないのに頭を使うことをしているのも不思議な気分だ。
「―――霧夜、大分私の国いい感じなんじゃない?」
《まだ国じゃないだろ》
「じゃ、いずれ国になる村」
《……国、になるとしてその場合この村が首都になるようにするのか? どちらにせよ、国を名乗るのならば、いずれお城とかも作らなきゃいけないだろう。そうなるとやっぱり戦闘職だけではダメだな。流石に俺も建物の作り方とかわかんねぇぞ》
「アキ、長生きしているのにそういうのは知らないのね」
《長生きっていっても、俺は『魔剣』として使われていただけだからな。そんなの知るわけないだろうが》
『魔剣』にお城の作り方とかを教わろうとしている時点で相変わらずレイシアは色々とおかしな感覚を持っている。
「お城ねぇ……」
《お城、必要だろう。あった方が国だってすぐに示せそう。ただ作るにしてもある程度国として形になってからだな。今すぐ作ったらここに集落があるということが周りにばれる。そうなったら叩き壊されて終わりだろ》
「確かにそうね」
《まぁ、ひとまず、この村の長の家みたいな感じのはちゃんと作った方がいいだろうな。この後、人がどれだけ増えていくかは分からないが、ちゃんと誰がトップか分かった方がいいだろう》
霧夜の言葉にレイシアは頷く。
レイシアはそれもそうかと思いながら、この村をどうしていくかを思考する。でも深く考えることはレイシアは苦手なので、結局すぐに放棄する。
「まぁ、そういうのは全部アキたちが考えてくれるでしょ」
《やっぱ人まかせかよ、いや、魔剣まかせか》
霧夜はため息交じりに言う。
『魔剣』と会話を交わすレイシア。この村ではもはやだれもそのことに突っ込むことはない。霧夜を国の中核に据えて、この国づくりは進められている。
「……はぁ、どちらにせよ、人を増やさなきゃいけないわね」
とりあえず、レイシアの口からしぼり出たのはそういう言葉だった。
目標の一つは人を増やすこと。このまま、人を増やさなければ国になんてならない。国なんて幾ら名乗ったとしても国だなんて認められたりはしない。やはり、国として認識されるためには何かしらの理由が必要なのだ。
《そうだろうけど、その前にまずはこの村をきちんとすることも大事だろう。あれもこれもと手を出したら失敗するに決まっているからな》
「あーもう、まどろっこしいわね。さっさと私は国を作りたいのに」
《そんな簡単に作れるわけねぇだろ》
霧夜、はやく国を作りたいと告げるレイシアに思わず突っ込む。
「わかっているわよ。とりあえず、村をもっと形にする。少しずつ上手くいっているだろうけど、まだ生活が安定しているともいえないし。霧夜、私はあいつらをもっと鍛えるわ。ここで生活出来るように。だからあんたは、チュエリーともっとこの村をよくしなさい」
《はいはい》
霧夜はレイシアの言葉に返事を返す。
それから、霧夜とチュエリー、あと、カイザーも含めてこの村をもっと住みやすくするための話し合いをした。その間レイシアはずっと村の連中を鍛えていた。
そしてそんな風に村の営みが進んでいく中で、レイシアが何か不思議な物を見たといっていた。
《不思議な物?》
「ええ。何か、見た気がするの」
《それなんだよ》
「分からないわ。でも、面白くなりそうだと思わない?」
何か見た。でも何かは分からない。そんな風にレイシアはあるとき魔物狩りから戻ってきていった。
霧夜はそれを聞いて、なんだそれはと思っている。でも、面白そうだとレイシアは笑っている。何か分からないことに恐れるではなく、面白いと不敵に笑っている。
霧夜はレイシアはどんな状況でも、こうやって面白がるのだろうと霧夜は考えて呆れた様子だ。
《……その不思議な物が、村のためになればいいが》
「ふふ、なればいいなんて希望観測はいらないわ。なればいいのにではなく、私の国のための糧に何が何でもするわ」
《何か分からないのにか?》
「ええ。何か分からなくてもよ」
そしてレイシアは、霧夜の言葉に自信満々に笑うのだった。




