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レアシリヤ。それが、レイシアが示した国の名前。
『災厄の魔剣・ゼクセウス』の真名である暁霧夜の文字を含めた国名。
その名前が発表されたが、特に反対するものはこの集まりの中には居なかった。
その国の名前が、本当に国として知らしめることが出来る日がいつか来るのか、それさえも分からない。だけれども、レイシアという少女は、それを成し遂げる事を心に決めてしまっている。
そしてこのキレイドアにまでついてきた面子は、それが出来ると信じているからこそ集まっている面子である。
霧夜は馬鹿みたいな、夢みたいな話だと思う。こんな場所で、何もない場所から、国を作ろうとするなんてと。だけど、それと同時になんて愉快で面白いのだろうかと考える。
面白くて、愉快で、その先を見たいと思っているからこそ霧夜はレイシアに協力しているのだ。
まずは、チエリーと霧夜が語っていたように自給自足をするという話になっていたので、まずは食べられる植物の採取をするのが第一。そしてそれらの植物を育てられる場所を作ったりするのも必要だ。
そのことを深く考えなければならないのだが、レイシアは相変わらずの脳筋なので自分で考えないので、霧夜とチエリー主体である。カイザーも魔剣が加わることに不安があるようで、その会話に加わっていた。
少しずつここに住まっている面々たちは、強くなっていった。レイシアがなれていけばここで一人でも生きていけるようになるようにと無理やりのように突っ込んで行ったからというのもある。
それに家もまだ一軒しかない。それを増やしていくことも目標である。少しずつ、その場所は村としての形を作ろうと必死である。基本的にレイシアは肉体労働なことしかしていない。よっぽど頭を使うことが苦手なのだろう。ほぼまかせっきりだ。
「―――大分、村になってきたわね」
少しずつ、本当に少しずつだけど村らしくなっていっている。ちなみに屋根を持っていくあの鳥は、レイシアが居る時はレイシアが全て対処している。そして他の面子もなんだかんだで少しずつ対応できるようになってきていた。
レイシアは少しずつでも、とりあえず村になってきたことに満足そうだ。
《まだまだ自給自足にはほど遠いけどな》
「でもいいのよ。ひとまず私の長年の夢が。それが出来ているだけでも大きな一歩だわ」
レイシアはそう言い切った。
レイシアの長年の夢。母国が滅び、両親が殺されるのを見たからこそ願った大きな夢が、ようやく形になろうとしている。『災厄の魔剣・ゼクセウス』という相棒を手に。
《途中であきらめても仕方がないような夢だっていうのに、よくあきらめなかったな》
霧夜は正直レイシアの嬉しそうな言葉に、そんな気持ちを言う。霧夜が同じ立場だったとして、諦めずに国を作ろうと出来るかというと、出来ないと思う。たった一人の人間が、国を作りたいなどという大それた夢を抱くこと自体が滅多にないことだ。そしてその夢をかなえようと行動できる人間がどれだけいるだろうか。
(俺が人間だった頃、やるといったことをそんなにやれたことはあんまりない。普通に生きていた俺にとって、レイシアみたいな大きな夢を思うことさえなかったしな。魔剣になってからも、そんな情熱なかったしな。ただ、俺は折角魔剣になったから、魔剣として生きているだけだしな)
霧夜は、そんなことを思う。明確な目標というものは、霧夜にはない。魔剣になって、ただ、魔剣としての生を生きていただけなのだ。だからこそ、レイシアのような情熱も、ぎらついた思いもない。命の終わりというものがないと言える魔剣だからこそ、そういう情熱がないとも言えるだろう。
「当たり前じゃない。やりもしないうちから諦めるなんて言葉は私の中にはないわ。ようやく村になれたんだから、次は、もっとこの拠点を大きくしていくのよ。人数だってこれだけでは少ないわ。もっと、もっと多くしていかなきゃ。それに、《赤鴉》は男ばかりだもの、女性も増やさなければならないわ」
《そりゃあ、傭兵なんだから野郎ばっかだろう》
かろうじて女性も少なからずいるが、ほとんどが男性である。女性がもっといなければと、レイシアは思っている。
「そのためにももっと安全な場所にここをしなきゃ。女性で戦えるものなんてそうはいないでしょう」
《ああ、レイシアみたいなやつはそうそういねぇからな》
「すぐに色々な場所にいって勧誘してきたいけど、それよりも、この村をどうにかしていくことが第一よね?」
《おお、珍しく考えているな。その通りだ。そういうのは着実にすすめていくのがいいからな》
「アキは魔剣でも慎重よね」
《どうせなら、国を作るのを見た方が楽しいからな。レイシアが好き勝手して破滅するのもありだとは思うけど、国が出来た方が面白い》
「ふふ、アキは本当面白い魔剣よね。アキに、面白い国を見せること、私は約束するわ」
根拠もないだろうに、その日レイシアは霧夜に向かってそういって笑った。
―――そしてレイシアの作り出していく村は、徐々に村らしくなっていく。




