13
『災厄の魔剣・ゼクセウス』とカイザーが和解したというのもあって、カイザーは霧夜がレイシアの側にいることを不安視する《赤鴉》のメンバーの説得も行うようになっていた。
「よかったですね、ゼクセウス様」
チュエリーはにこにことして、霧夜に話しかけた。
《まぁ、どちらに転んでも俺はよかったけどな》
「ゼクセウス様はほんとうに自由ですね」
チュエリーはにこにこと笑っていた。
「ところで、ゼクセウス様、村づくり、次はどうすべきだと思いますか?」
《どうすべきか、ねぇ……それは俺に聞くより、レイシアに聞くべきことなんじゃねーの?》
「レイシア様は、頭を使うことが得意ではないようですから。ゼクセウス様に先にお聞きしようとしたのですよ」
《自給自足だろ、目指すは》
「それはそうですね。今も狩りなどで自給自足はそれなりに出来ていると思いますが」
チュエリーはそういいながら、つい先ほどレイシアが「狩ってきたわ!」といって持ってきた巨大な魔物に視線を向ける。
《村を目指すなら狩りだけでもいいだろうけど、国を目指すならそれだけではダメだろう。国を作りたいならもっと根本的に栄える場所を作る必要があるだろうな》
村だけなら、狩りだけでもいいだろう。少数の村であるのならば。でも、村ではなく国を作りたいのならばもっと先を目指さなければならない。『魔剣』なのに、霧夜はそんなことを言う。
「ふふっ」
チュエリーは、笑う。
「では、頑張りましょう。レイシア様の作り出す国を、国としての形にするために。私とゼクセウス様で、国をどういうものにしていくか、もっと詳しく考えていかねばなりませんものね」
現状、レイシアが生み出そうとしている国の頭脳——というか、今後の行く末を決める話し合いを主にしているのはチュエリーと霧夜だけである。カイザーも霧夜と和解してからはそのことも受け入れているようだった。
《農業、出来るようにすべきだな》
「それはそうですね。狩りだけより、作物を自分たちの手で収穫できるようになればそれは素晴らしいことですわ」
《……まぁ、それもきちんと考える必要があるがな。生憎俺にはそういう知識はない。チュエリーは?》
「私もさほど詳しくはありません。それにキレイドアに生息している食物に関しては、未知数なものが多いです。私たちの考えうる範囲でどのように育てていけるかは見当もつきません」
《初めのうちは適当にやっててもなんとかなるだろうが、国としてやるとすればもっと本格的にやる必要があるな》
霧夜、『魔剣』のくせに真面目にそんなことをいう。
「そうですね。まずは、手始めに、キレイドアに生息している作物の中で、食べられるものの種を収集し、この場所で育ててみることから始めましょうか」
《ああ。あとは、家畜だな。食べるために魔物を育てられれば、食の心配はなくなるだろう》
「……このキレイドアで、それをするのは難しいと思いますけどね」
《まぁ、それはおいおい考えるとしよう》
霧夜はそういいながら、自分がこの状況をなんだかんだで楽しんでいることを自覚する。
(国づくりに必要な知識は、どちらかというと人間だった頃の知識の方が役にたちそうだな。実践的なものではないが、それでもそういうものは読んでいた(・・・・)記憶があるし。……しかし、人間であった頃ならともかく、『魔剣』なんてものになってからこういうことにかかわるとは思ってなかった)
霧夜は、最近、人間だった頃を時々思い起こす。『魔剣』になってからは、『魔剣』らしく生きることを目指していた。『魔剣』としての人生? を楽しもうとそんな風に思って。そんな霧夜が何の因果か、レイシアと出会った。そしてレイシアは……、
(ああ、そうか。レイシアは、俺の事一人の人間のように扱ってやがるもんな。剣としてではなく、人として。だから、人間だった頃のこと思い出すのか。それに他の連中も、レイシアがああだから、皆、俺にああいう接し方だしな)
レイシアが、一人の人に接するように霧夜に接するから、だから人間だった頃のことを時折思い出すのだろうと霧夜は思った。
(『魔剣』になってから、国づくりか。そして俺が思いっきりかかわる国を作る、それは愉快なことだ。――――だから、協力をする。……俺を人として扱っているのが、気分が良いってのもあるけど、一番は愉快だからだ。―――何かあれば、レイシアをすぐ喰らう。レイシアが俺を飽きさせずに楽しませ続けるか、それとも挫折して俺に食われるか、どちらにせよ、俺にとって愉しい未来しかねぇからな)
霧夜にとって、どちらにせよ、愉しい未来しかない。寿命などないといえる『魔剣』の霧夜にとって、『魔剣』としての生を楽しむことが今の生きがいなのだから。
「……ゼクセウス様、どうしました?」
《ちょっと考え事をしていただけだ、それより———》
霧夜は、考え事の内容をチュエリーには一切いうことなく、話を変えるのであった。