12
「『災厄の魔剣・ゼクセウス』」
《普通にゼクセウスでいいぜ?》
カイザーの言葉に、霧夜は答える。人間だった頃の名前は、契約者であるレイシア以外には告げる気はないため、そういった。
「ゼクセウス、お前は……何を考えているのだ。普通なら、『災厄の魔剣』などと大層な呼ばれ方をしている魔剣が破壊行為ではなく、国づくりに貢献するなんて思えない。だけど、お前は、それをしようとしている。俺が、ゼクセウスのことを危険視するのは、お前の考えが分からないからだ。だから、俺はそれを知りたい」
《ふーん。俺が何を考えているか、ね》
霧夜はそういって、まじまじと、カイザーを見る。
《俺は面白いことが好きだ。楽しいと感じるのが好きだ。だから、だな》
「それだけじゃ分からない」
《まぁ、しいていうならレイシアが面白かったからだな。俺はレイシアがあんなに面白い存在ではなかったら、俺はレイシアの魂を喰らうつもりだったからな》
「喰らうつもり……」
カイザーは霧夜の楽しそうな声に顔を強張らせて、繰り返す。
カイザーからしてみれば、自分が主と仰ぐ存在の魂を喰らうなどという言葉を聞かされてたまったものではない。
《ああ。そもそも俺は自分に自我があることを知らしめるつもりもなかった。俺を手にしている奴なんて精神的にぶっ壊れているやつばっかだったしな》
霧夜はそんな説明をしながらも、カイザーのことを面白そうに観察している。レイシアの説得によって納得したカイザーは、本当の意味で自分という存在を受け入れることに納得しているのか、それを試している。
《レイシアはその点ぶっ壊れてはいない。ある意味壊れてはいるかもしれないが、正気を保っている。正気を保った上で、俺を欲しいなんて、いった。それにその目的が建国だなんて、そんな目的で魔剣を手にしようなんて奴はそうはいない》
霧夜は、『災厄の魔剣』である。時に国を滅ぼし、時に人を破滅においやる。そのように言われている魔剣。
人の魂を喰らう、おぞましい存在。
その情報を聞いただけでまともな存在は、霧夜のことを忌避するだろう。だというのにレイシアは、国を滅ぼすといわれている魔剣を、建国という目的のために必要としていた。
その点だけでも霧夜にとってはレイシアは面白い存在だった。ある意味、レイシアという存在は壊れている。母国が滅んだ時に、心が歪んでしまった。滅びない国を作りたいという目標を叶えるためだけに、行動をするようになった。
「それは、そうだが……『災厄の魔剣・ゼクセウス』は国を滅ぼすような魔剣と言われているというのに、それだけで、協力することを決めたのか?」
《それだけねぇ……まぁ、俺が面白いと思うかどうかだな。俺が魔剣となった時、俺は魔剣として魔剣らしく生きようと思った。魂を喰らう能力があるなら魂を喰らおうと思った。俺は俺が楽しいように、面白いと思うままに、魔剣として生きることを決めたからな》
「魔剣となった時……?」
霧夜が元人間などという事情を知らないカイザーは思わず訝しそうに呟く。
そもそも、カイザーには魔剣として生きる。という意味がよくわからない、魔剣とは本来明確な自我など持ち合わせていないものだ。本能のままに動く危険な存在である。
《ああ、それはスルーしてくれ。とりあえず、俺は俺が楽しければいいんだよ。レイシアは俺を楽しませ続けるといった。そして、俺を楽しませられなくなったらその魂を俺に捧げるって契約をしているんだよ。お前が俺を手放すようにいったとしてもあいつは俺を手放す気はねぇだろうし、俺だってあいつの側にいるか、あいつを食らうかしか選択肢は考えてねーしな》
霧夜は一切偽らずにその気持ちを口にする。
それにカイザーは何とも言えない顔をする。彼は、霧夜を危険だという思いをなくしているわけではない。寧ろ危険だとは思っている。だけれども、レイシアのことを信じようと思ったから。レイシアに何が何でも、自分の全てをかけてでも、手助けをすると決めたのだから—―――。
「そうか……。やはり、お前は危険だ」
《ああ、まぁ、そうだろうな》
「でも……俺は、レイシアについてくと決めた。レイシアの作る国のために動くと決めた」
《国を作れるか分からないのにか?》
「作れるだろう、レイシアは。何が何でも、目標を達成するだろう。俺はそう信じている。馬鹿みたいな戯言に聞こえるレイシアの願望だけど、それが叶うと思っているからこそ、ゼクセウスも、こうしてここにいるんだろう?」
《……まぁな。尤も俺は国を作ることが出来なさそうなら喰らうだけだ》
なんだかんだいって、霧夜はレイシアが国を作るだろうと思っている。国を作れるだろうと考えている。レイシアはそれだけ、有言実行をするだろうと周りに思わせられるだけの少女である。そもそも『災厄の魔剣』に面白いなどと思われる少女が普通のわけはない。”国を作る”なんていう突拍子もない目標を本気で口にし、本気で実行しようとしたからこそ『災厄の魔剣』は———霧夜はレイシアを使い手と認めた。
「なら、俺とお前はある意味同志だ。お前は確かに危険だが、レイシアの願いのためにここにいる。だから、お前の存在を、ひとまず受け入れよう」
《はっ、そうかよ》
同志などと言われて、何とも言えない気分になりながら霧夜はそう答えるのだった。
そうして、カイザーと霧夜はひとまず和解したのであった。