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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第三章 魔剣と少女の村づくり
41/197

10

 ―――信じなさい。

 レイシアはそういった。

 力強い目でカイザーを見据えて。

 そのあまりにも強い決意の言葉が、意志の強い目が、全てがカイザーの心に信じればいいと語りかける。

 (『魔剣』が危険だとわかっているのに……、それなのにレイシアを信じたいと感じてしまうなんて。信じるべきだと、そんな風に思ってしまうなんて。そう思ったとしても、あの『災厄の魔剣』は危険でしかないというのに、それなのに……)

 カイザーは自分の気持ちに戸惑っていた。

 『魔剣』を認めたくない。

 『魔剣』を傍においておきたくない。

 ――――なぜなら『魔剣』は危険だから。

 その気持ちはカイザーの中にある、本当の気持ちである。

 だけど、それでも————レイシアという存在を信じたいと思ってしまう。レイシアという存在に、猛烈に惹かれている。レイシアがいうことなら、全部聞いて、その先までついていきたいと思ってしまう。

 「何を悩んでいるの! いいから、私を信じなさいって言っているのよ! 私の手を取りなさい! 絶対に後悔なんてさせないわ。アキのことだって、失敗はしないわ。私は、アキのことをずっと面白がらせ続ける! 答えは、それ以外に認めないわ!!」

 レイシアはそういう少女である。

 自分が信じた道を突き進む。自分が思ったままに進もうとする。

 それでいて、自分が進む道の成功を疑わない。いや、成功させるという決意に燃えている。

 自分のやることは、出来る、出来ないではなく、やるか、やらないかだと少女は思っている。

 答えは、それ以外認めない、などといってレイシアはカイザーを見る。

 実際にレイシアは自分の国の国民となるカイザーを諦める気もないし、カイザーが霧夜を認めないという選択肢を認める気もなかった。

 レイシアは霧夜をカイザーに受け入れさせる、という選択肢以外考えていなかった。

 それが、カイザーには伝わる。

 伝わったからこそ、思わず笑ってしまった。

 「……レイシアは、レイシアだな」

 「何を当たり前のことを言っているのよ」

 「……自分の意志を絶対に曲げない。『災厄の魔剣・ゼクセウス』を何といっても離す気はない」

 「ええ、そうよ。わかっているじゃない」

 レイシアは美しく微笑む。微笑んでカイザーをまっすぐに見ている。

 「―――俺は、お前を信じたい」

 「ええ、信じなさい」

 信じたいと告げた言葉に、自信満々にレイシアはいう。信じたいなら、信じなさい、とそうレイシアは思う。

 「でも『魔剣』はやはり危険だと思うから、『災厄の魔剣・ゼクセウス』が害になると思ったら排除する。それでも、構わないか」

 「ええ、いいわ。そんなことはさせないから」

 排除するといわれても、レイシアは笑った。なぜなら、そんな未来はありえないから。そんな未来を、レイシアはこさせる気は一切ないから。

 「ふっ」

 思わず、そんなレイシアにカイザーはまた笑みを零す。

 そして、カイザーは、自分の背中に背負った大剣を引き抜く。

 「ん? 何よ、喧嘩でもするの?」

 「いや、違う」

 カイザーはそういって、大剣をレイシアの前にさす。

 そして跪く。

 「どうしたのよ?」

 「……レイシア、俺の誓いを受け取ってくれ」

 「誓い?」

 「ああ」

 「いいわよ。受け取ってあげる」

 偉そうに、レイシアはいった。それもまたレイシアらしい言いぐさである。

 カイザーがそんなことを言い出したのは、改めて目の前の少女についていきたいと思ったからだ。レイシアについていきたいと、レイシアのために剣を捧げたいと、自分の持てるものを使いたいとそんな風に思ったからだ。

 「レイシア。お前を俺は主君とする」

 「ええ」

 「お前に、この剣を捧げる。俺の全てをかけて、お前の手助けをする」

 「ええ。使ってあげる」

 何処までも、不遜にレイシアは笑う。

 正式な誓いではない。そんなかしこまったものでもない。

 ただ、カイザーが言いたくていった誓い。そして、レイシアが受け取った誓い。

 「その選択をありがたく思うわ。貴方を絶対に後悔させないわ。私は、これから国をつくる。貴方はそのための手足として動いてもらうわ」

 「ああ」

 「私がつくる国は、誰にも負けない国。それでいて、私が好き勝手に出来る国よ。ねぇ、きっと楽しいわ」

 「……お前は楽しいだろうな。俺らは苦労しそうだが」

 「そうかしら? きっと楽しいわ。そのためには、アキを警戒していても構わないけど、アキと仲良くしなさい。アキはカイザーが思っているよりも、ずっと”人間らしい”わ」

 レイシアはそういって笑った。

 人間らしいも何も、元人間なのだからそれは当然なのだが、流石にそこまではカイザーには告げなかった。

 立ち上がって、レイシアの隣に立っていたカイザーは「……話してはみる」とだけ答えるのであった。





 

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