10
―――信じなさい。
レイシアはそういった。
力強い目でカイザーを見据えて。
そのあまりにも強い決意の言葉が、意志の強い目が、全てがカイザーの心に信じればいいと語りかける。
(『魔剣』が危険だとわかっているのに……、それなのにレイシアを信じたいと感じてしまうなんて。信じるべきだと、そんな風に思ってしまうなんて。そう思ったとしても、あの『災厄の魔剣』は危険でしかないというのに、それなのに……)
カイザーは自分の気持ちに戸惑っていた。
『魔剣』を認めたくない。
『魔剣』を傍においておきたくない。
――――なぜなら『魔剣』は危険だから。
その気持ちはカイザーの中にある、本当の気持ちである。
だけど、それでも————レイシアという存在を信じたいと思ってしまう。レイシアという存在に、猛烈に惹かれている。レイシアがいうことなら、全部聞いて、その先までついていきたいと思ってしまう。
「何を悩んでいるの! いいから、私を信じなさいって言っているのよ! 私の手を取りなさい! 絶対に後悔なんてさせないわ。アキのことだって、失敗はしないわ。私は、アキのことをずっと面白がらせ続ける! 答えは、それ以外に認めないわ!!」
レイシアはそういう少女である。
自分が信じた道を突き進む。自分が思ったままに進もうとする。
それでいて、自分が進む道の成功を疑わない。いや、成功させるという決意に燃えている。
自分のやることは、出来る、出来ないではなく、やるか、やらないかだと少女は思っている。
答えは、それ以外認めない、などといってレイシアはカイザーを見る。
実際にレイシアは自分の国の国民となるカイザーを諦める気もないし、カイザーが霧夜を認めないという選択肢を認める気もなかった。
レイシアは霧夜をカイザーに受け入れさせる、という選択肢以外考えていなかった。
それが、カイザーには伝わる。
伝わったからこそ、思わず笑ってしまった。
「……レイシアは、レイシアだな」
「何を当たり前のことを言っているのよ」
「……自分の意志を絶対に曲げない。『災厄の魔剣・ゼクセウス』を何といっても離す気はない」
「ええ、そうよ。わかっているじゃない」
レイシアは美しく微笑む。微笑んでカイザーをまっすぐに見ている。
「―――俺は、お前を信じたい」
「ええ、信じなさい」
信じたいと告げた言葉に、自信満々にレイシアはいう。信じたいなら、信じなさい、とそうレイシアは思う。
「でも『魔剣』はやはり危険だと思うから、『災厄の魔剣・ゼクセウス』が害になると思ったら排除する。それでも、構わないか」
「ええ、いいわ。そんなことはさせないから」
排除するといわれても、レイシアは笑った。なぜなら、そんな未来はありえないから。そんな未来を、レイシアはこさせる気は一切ないから。
「ふっ」
思わず、そんなレイシアにカイザーはまた笑みを零す。
そして、カイザーは、自分の背中に背負った大剣を引き抜く。
「ん? 何よ、喧嘩でもするの?」
「いや、違う」
カイザーはそういって、大剣をレイシアの前にさす。
そして跪く。
「どうしたのよ?」
「……レイシア、俺の誓いを受け取ってくれ」
「誓い?」
「ああ」
「いいわよ。受け取ってあげる」
偉そうに、レイシアはいった。それもまたレイシアらしい言いぐさである。
カイザーがそんなことを言い出したのは、改めて目の前の少女についていきたいと思ったからだ。レイシアについていきたいと、レイシアのために剣を捧げたいと、自分の持てるものを使いたいとそんな風に思ったからだ。
「レイシア。お前を俺は主君とする」
「ええ」
「お前に、この剣を捧げる。俺の全てをかけて、お前の手助けをする」
「ええ。使ってあげる」
何処までも、不遜にレイシアは笑う。
正式な誓いではない。そんなかしこまったものでもない。
ただ、カイザーが言いたくていった誓い。そして、レイシアが受け取った誓い。
「その選択をありがたく思うわ。貴方を絶対に後悔させないわ。私は、これから国をつくる。貴方はそのための手足として動いてもらうわ」
「ああ」
「私がつくる国は、誰にも負けない国。それでいて、私が好き勝手に出来る国よ。ねぇ、きっと楽しいわ」
「……お前は楽しいだろうな。俺らは苦労しそうだが」
「そうかしら? きっと楽しいわ。そのためには、アキを警戒していても構わないけど、アキと仲良くしなさい。アキはカイザーが思っているよりも、ずっと”人間らしい”わ」
レイシアはそういって笑った。
人間らしいも何も、元人間なのだからそれは当然なのだが、流石にそこまではカイザーには告げなかった。
立ち上がって、レイシアの隣に立っていたカイザーは「……話してはみる」とだけ答えるのであった。