9
カイザーはレイシアを見据えている。
レイシアに呼び出された理由を彼はちゃんと理解している。なぜなら彼は、彼女がともに歩む事を決めた『魔剣』を捨てたのだから。
カイザーはそのことでレイシアがこちらに言いたい事があるのだとすぐに見当がつく。
(レイシアの事だから、俺を説得しようとしているのだろう。このレイシアの目は、『災厄の魔剣・ゼクセウス』を手元に置く事をあきらめていない。只の『魔剣』だって危険だというのに、『災厄の魔剣・ゼクセウス』はその上を行く。意志があるからこそ、余計に危険な『魔剣』。そんなものを、俺は傍に置く事をやはり受け入れられない)
レイシアは自分の意見を曲げない存在である。それはカイザーも短い付き合いでもきちんとわかっている。そういう芯が通って、突拍子もない事をやる存在だからこそその存在に惹かれた。カイザーがレイシアについていこうと思ったのが、レイシアがついていくに値する存在だと思えたのだ。
だから、『災厄の魔剣』を味方にして、それの意見を取り入れながら建国していきたいという考えを改めてはいないだろう。
(なら、説得するまでだ。あれは、危険なのだから。流石にあそこまで危険な存在を身内にしておけるはずがない。国を建国するのならなおさらだ)
カイザーはそう考える。
そしてカイザーの目の前の存在は、レイシアは、逆の事を考えている。
(どうにかカイザーを説得してアキを受け入れてもらわなきゃ。そもそもそれもできなきゃアキは私を面白くないと思うだろうから)
とそんな事を。
そしてカイザーとレイシアの、互いを説得するための話し合いが始まった。
「カイザー、私はアキを、手放す気はないわ。貴方は、アレを危険だというかもしれない。だけど、アキは確かに危険思考は持ち合わせているけれど、それでもまともでわかりやすい思考を持っているわ」
「……まともな思考を持っていながら、『魔剣』として人の魂を喰っているからこそ危険なんだろう。それならまだ自我がない『魔剣』の方がまだましだ」
レイシアとカイザーの意見は、真っ向から対立している。
レイシアは、霧夜が自我を持ち合わせている『魔剣』だからこそ、手放したくないと思っている。
カイザーは、霧夜が自我を持ち合わせておきながらも人の魂を喰らう『魔剣』だからこそ、手放して欲しいと思っている。
相対する気持ちを彼らは抱えている。
「自我があるからこそ、アキは面白いのよ。普通の『魔剣』だったら、私はいらないと思ったわ。『魔剣』を欲して私はうろうろした。最初はどんな『魔剣』でもいいと思った。けれども、私は出会えた『魔剣』がアキで良かったと思う。だって、自我のない『魔剣』ならどう動くかも分からないもの。勝手に私が望まない相手の魂を喰らうかもしれない。そういう聞き分けの悪い『魔剣』よりも、ちゃんと自我があって意思疎通が出来る方が楽じゃない。私の作りたい、誰にも負けない国家には、他に例を見ない自我がある『魔剣』がいるほうがインパクトもあるもの」
レイシアは自我がある『魔剣』である霧夜を傍に置きたいと思っている。面白い存在だからこそ、そして自分の目指す未来にその存在がいるのがぴったりだと思うからこそだ。
「……自我が明確にあるからこそ、いう事を聞かない場合もあるだろう」
「あるかもしれないわ。でも、私がアキにとって面白い存在である限り、アキは私の国づくりに協力してくれると言ってくれた。アキは、『魔剣』だからこそ、ややこしい嘘もつかないわ。自分がやりたいように生きている。私がアキを面白がらせればそれで済む話だもの」
レイシアと霧夜の付き合いは短い。でも、短くてもその性格はわかるものだ。『災厄の魔剣・ゼクセウス』が、暁霧夜がどういう存在か。どういう思考をしているか。それがなんとなくでも理解出来る。
愉快犯で、自分が面白ければそれでいいとあの存在は思っている。
だからこそ、カイザーがどれだけ心配をしていたとしてもレイシアは心配がないと断言する。
「面白ければといっても……、そうあれるかどうかは別だろう。レイシアは人で、アレは『魔剣』だ。考え方も何もかも違う存在だぞ。それを面白いと思わせ続けるのは困難だ。最悪な場合、皆の魂が食われる」
「そうでしょうね」
「なら———!」
レイシアがカイザーの言葉に同意すれば、カイザーは声を上げようとする。だけどそれは、レイシアの続けた言葉に遮られた。
「アキは私が面白くなくなれば、私の魂を喰らうでしょう。そして貴方たちの魂だって喰らうかもしれない。でも———、私はアキを愉快な気持ちにさせ続ける。いえ、させなければならないから、面白い存在であり続けるわ。これは願望ではなく、決定事項よ。やりたいではなく、やるのよ」
そういって、レイシアはまっすぐカイザーを見る。
「私は、アキに魂を喰われる事態にはならない。しないわ。私は何処にも負けない国を作るという夢を絶対にかなえるわ。だから、アキは危険ではないわ。私がアキを面白がらせ続けるから。そして、協力させ続けるから。
――――カイザー、私を信じなさい。私を信じて、ついてきなさい。私は絶対にカイザーが心配する未来を来させないから」
レイシアは、そしてそう告げるのだった。




