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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第一章 魔剣と少女の出会い
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 レイシアの朝は早い。

 まだ食堂で働く人々も起きていないような、朝日も昇っていない時間に目が覚める。

 食堂で一夜を明かしたレイシアは、鎧と兜を身につけてはいなかった。ラフな格好をしている彼女は、只の少女に見えた。

 兜の下に隠れていたのは、美しい少女だった。

太陽のような明るさを持つ金色の髪は肩で揃えられていた。顔は驚くほどに小さくて、透き通るような青色の瞳がその中で輝いている。鎧の下に隠された手足は驚くほどに細く、剣を触れるのかと疑いたくなるほどにか弱いものだった。

 用意されていたタオルで顔をぬぐい、手鏡で自分を見る。

 最低限の身だしなみが整っている事を確認したレイシアはもったいない事に、その美しい顔の上から厳めしい兜をすっぽりとかぶってしまった。そして着なれた鎧を身に纏う。

 その後、レイシアは椅子に腰かける。そしてそこから窓の外を見た。

 まだ朝早い時間であるためか、街には人影はほとんど見られない。かろうじて二、三人姿が見えるだけであった。

 (あと、二日か)

 レイシアは青い空を見上げて、ただこの街に来た目的の事を考えていた。

 (しっかりと情報を集めなければならないわね。もし無駄足だったら、キレイドアでひと稼ぎしよう)

 情報というのは非常に曖昧なものである。何せ、遠距離で連絡を可能にするものなどこの世界にはない。

 遠く離れた国から間違った情報が舞い込んでくるなんて当たり前にある事である。レイシアはある情報を高い金を払ってエヴァント大陸の王都の情報屋から買い取った。このユトラス帝国の存在するアーデュス大陸から海を隔てて渡ってきた情報だ。その情報屋も正確かは定かではないと言っていた。

 けれどもその情報はレイシアにとって重要なものだった。

 だからこそ、此処まで来た。

 海を渡って、わざわざこの大陸にまで、レイシアはやってきた。

 (この街の情報屋を探し出す作業もしなければ…。アレが出されるのは二日後って話だけれども、アレが本当に出されるかわからないもの)

 昨日は宿を探す事に夢中で、情報屋を探し出す暇などなかったのだ。もう少し早めにこの街に来るつもりだったものの、予想外に遅れて予定より三日遅れてこの街にたどり着いてしまったのだ。

 レイシアに時間はあまりなかった。

 『これから、少し出かけてきます。朝食までには戻ってきますので』

 レイシアはそんな言葉を紙に書いた。

 時間がないため、それだけ書いてとりあえずやる事をやってしまおうと考えたようだった。

 それを見たらすぐわかる場所へと置いたレイシアはそのままその食堂を後にするのであった。




 それから二時間ほどレイシアは街中を徘徊した。時々絡んでくる輩も居たが、そういう連中は剣技を持って黙らせた。

 「よう、俺達と――」、そんな風にレイシアを女と理解して誘ってきた輩は問答無用でぶちのめした。

 「あー? てめぇふざけんなよ!」、そんな風に酒に酔ってレイシアに突っかかってきた輩は相手が武器を出してきた事もあって容赦なく徹底的にやった。

 目には目を、歯には歯を、という言葉通り、力には力をとレイシアは思っている。

 相手が力をふるってくるから、こちらをそれよりも大きな力でぶちのめす。レイシアが絡んできた相手にやった事はそれだけであった。

 朝早くという事もあり、暴れる様子は目撃される事はなかったようだ。

 ただ一つ気がかりなのは、絡んできてぶちのめした相手の一人が傭兵らしきものだった事である。

 此処で傭兵と冒険者の違いについて述べよう。

 傭兵とは兵長をトップとした制約に縛られない自由な集団である。多くの仲間達を連れて、世界を放浪する。時には魔物を退治し、時には人を護衛し、時には戦争で一つの国に加担する。そういう集団である。

 そして冒険者といえば、冒険者協会と呼ばれる組織に所属するものの事をさす。冒険者協会に所属すればある様々な援助を受ける事が出来る。冒険者協会には様々な依頼がなされる。その依頼をこなすことで冒険者達はお金を得るのだ。こちらは魔物の退治や、人の護衛、盗賊退治などといった事はこなす。

 何故傭兵が一人いた事を懸念しているかと言えば、仲間がやられたからと同じ傭兵団に所属する傭兵が仕返しにやってくる可能性がある。もちろん、冒険者相手でもその可能性はあるが、冒険者の場合はそんなに大人数ではないのだ。

 しかし、レイシアはそれを知ってもなお焦ってはいなかった。

 食堂へと戻ったレイシアを食堂の親子――アイオスとメナトは笑顔で迎えてくれた。

 「レイシアさん、おかえりなさい」

 この食堂の息子であるメナトは昨日と同じ、晴れやかな笑顔をレイシアに向けていた。

 「ただいま」

 「何処にいっていたのですか?」

 「ちょっとその辺まで」

 自分の目的を誰かに言うつもりなど、レイシアにはなかった。適当にメナトの言葉にそう答えて、食堂の一人席に腰かける。

 二時間も街を徘徊して、レイシアはお腹がすいていた。すぐにメニューを見て朝食を注文する。

 朝早くだからか食堂内にはお客はあまりいない。レイシアを含めて数えられるだけである。だからだろうか、朝食を運んできたメナトはレイシアに話しかけてきた。

 交わされるのは、他愛もない世間話だ。

 この街の誰と誰が恋仲であるだとか、メナト自身の話とか、昔話だとか。

 特にそれらには興味はないが、レイシアは食事をとりながらも適当にメナトの話に返事を返していた。

 「僕はこの街に母さんと一緒に五年前にやってきたんです」

 ふと、メナトが言った。

 そういった目は何処か悲しそうで、何かがあったのだろうとは予想出来た。それでもメナトの事情にレイシアは興味がなかった。

 何かあって、此処に来たから何だというのだ。

 冷たいかもしれないが、レイシアの正直な思いはそれであった。

 レイシアはあまり返事をしなかった。それでもメナトはレイシアの何が気に入ったのか沢山の話をした。

 結局朝食を食べている間、ずっとメナトはレイシアに話しかけ続けた。

 「じゃあ、私はまた出かける」

 朝食を食べ終えたレイシアはまたそれだけ告げて、食堂を出て行くのであった。



 そうして時間は過ぎて行く。



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