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レイシアは、カイザーが戻ってきた後、一人森の中へと向かった。
そして、「アキ」と『魔剣』の名を呼んだ。それと同時に、捨てられたはずの『魔剣』はレイシアの手に戻ってきた。
レイシアの元へ戻ったアキは、愉快そうな声を上げた。
《おっ、レイシア。気づいていたのか》
「もちろん。カイザーは、余程貴方が気に食わないみたいね」
《当然の事だな。『魔剣』と仲良くしようなんて普通思わない。レイシアとか、あとチュエリーがおかしいだけだ。俺を国づくりに加えている時点で色々おかしいからな》
「まったく、アキは面白い事が好きだから私がアキにとって面白い存在である限り、私に害をなす気はないでしょう?」
《まぁな》
「逆に私が貴方を恐れて手放そうとしていたらアキはどうするの?」
《つまらなかったなって、魂喰らって終わりだぞ》
「よね。知っているわ。アキもおとなしくカイザーに捨てられてたけど、面白がっているでしょう?」
《おう。面白いぞ。カイザーはレイシアと国づくりの事を思って俺をレイシアから離した方が良いと思っている。それに対してレイシアはどうする?》
「そうね、私の国には『魔剣』を受け入れられない存在はいらないと言うのが一番楽なのだけど……」
レイシアはアキを地面に突き刺して、向かい合って会話を交わす。カイザーの『魔剣』を傍におくべきではないという考え方は一般的な考え方である。『魔剣』などというものは、人に恐れられるものだ。人を悪に落とすものだ。
……自我があるとはいえ、アキは十分邪悪な存在だ。人の魂を喰らうという行為に対して忌避感もない。元人間だと言っているくせに、平気でそういうことをするのが『災厄の魔剣・ゼクセウス』なのだ。
レイシアは『魔剣』に進んで近づいてくる面白い存在。愉快で、使い手に選んだら面白そう。そんな理由でただ使われる事を許している。
レイシアが面白くなくなれば、アキは躊躇なくその魂を喰らう。
そういう危険性があるからこそ、カイザーはアキを危険視しているのだろう。
「でも、気に入らないものは出ていけなんて言っていたら国には出来ないわよね」
《当然だな。王になろうっていう人間がたった一人の国民を説得できないなんて駄目だろう。誰ひとり説得の出来ない王なんて、反乱を起こされて死ぬだけだろ》
「知っているわ」
《レイシアがカイザーをどんなふうに説得するか、それを俺は傍観させてもらう》
「ふふ、それで私の説得がアキのお気に召さないものだったら私の魂を喰らうのでしょう?」
《ああ。というか、それわかってながら笑うとか、本当、レイシアは面白いよな》
「『魔剣』一つ恐れていたら、最強国家を作るなんて叶うわけないでしょう?」
それはレイシアの心からの本心だ。そもそも、キレイドアなんていう未開の地に国を作ろうという前代未聞の行為をレイシアは起こそうとしているのだ。
キレイドアという、人が足を踏み入れる事が叶わないとされている未開の地で、生活をしようとしているのだ。
「……私はこのキレイドアに、国を作ると決めたのよ」
最強国家を作りたい、なんて子供が夢を見るような願望。祖国がつぶれた時に、レイシアが抱いた野望。
その野望を、かなえられないとはあきらめなかった。子供の頃の夢なんて、大人になってからは叶っていない事の方が多いだろう。でも、夢を抱いたままレイシアは大きくなった。
「そのために、『魔剣』はいるの。私には力が居るもの。だから、カイザーには納得してもらうわ」
《はは。出来るのか?》
「出来る出来ないじゃなくて、やるのよ」
レイシアは強く言い張って、アキを睨みつける。
「そもそも、アキがあおるからでしょ。カイザーがこんな行動に移したの」
《あおった方が面白いだろ。それにこういう事は遅かれ早かれ起こった事だろ。問題は早く解決したほうが楽だろうっていう俺の気遣いだぞ?》
「嘘つきね。アキはカイザーの反応を楽しんでいるだけでしょう?」
《ま、そうともいうな》
アキは悪気なんて感じさせない声を上げる。アキは悪いなんて思っていない。『災厄の魔剣・ゼクセウス』は自分の欲望に忠実だ。
忠実に動いてきた結果、『災厄の魔剣』などと呼ばれている物騒な『魔剣』だ。
《で、説得しに行くのか?》
「……そうね。でも他の皆を起こすのも悪いから明日カイザーに話すわ。いや、カイザーだけじゃなくて全員に『魔剣』がどうして必要なのか言うべきね」
行動を起こしたのはカイザーだが、『魔剣』を国づくりに加えていることに何か言いたそうにしているものは少なからずいる。現在、人が少ない状況でもそれなのだ。これから国を作るに際して、『魔剣』を忌避するものはもっと出てくるだろう。
《『魔剣』を手元に置くために人を説得するっていうのも面白い状況だよな。今まで見た事ない》
愉快そうな声を上げるアキを見つめ、レイシアはどう説得するものかと思案するのであった。