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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第三章 魔剣と少女の村づくり

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6

 「素手でも倒せる事がわかったし、対策はやりようがあるわね」

 《いや、あんなこと出来るのレイシアだけだろうが》

 レイシアが巨大な鳥の死体を前に、得意げに言った言葉に霧夜が思わず突っ込んだのは無理もない事だろう。あんなことが出来たのはレイシアが加護もちであり、それだけの身体能力を持っていたからに他ならない。そもそもあんな狂暴な生物相手に肉弾戦をやろうなんて馬鹿はまずいない。

 「いえ、出来るはずよ。というより、此処で暮らす民は全員、これぐらい出来るようになってほしいわ」

 《無茶いいすぎだろ!》

 「無茶? いいえ、違うわ。人はやればなんだって出来るものよ。私が作りたいのは最強国家であって、それ以外でもないもの。限界を超えてこんな鳥ぐらい倒せるぐらいにはなってもらわなきゃ困るわ」

 《なんという、無茶ぶりだよ!》

 「アキは本当、口うるさいわね。私の国の国民になるのだから、そのくらい出来ないと駄目よ」

 《……つか、まだ国じゃねぇだろうが。それどころか村でもねぇよ》

 「いつか国になるからいいのよ。いいえ、なるじゃないわね。国にするのよ、この私がね」

 ふふんと得意げな顔をしているレイシアである。霧夜に顔がないため表情はわからないが、もし霧夜が人であったならばさぞ呆れた顔をレイシアに向けていた事だろう。

 さて、そんな会話をレイシアと霧夜がしている間に呆然としていた周りが正気に戻った。

 「レ、レイシアよ」

 「何よ、カイザー」

 「流石に同じ事をするのは無理ではないか? 『魔剣』の言う事には同意はしたくはないが、人が皆レイシアのように出来るわけではないのだぞ?」

 「私のようにはしなくてもまぁ、いいわ。でもこの鳥ぐらいは一人でどうにかできるようにならなければ、このキレイドアで暮らしていくなんて難しいでしょう? だから、この鳥をどうにかする事は重要よ。一々、作った建物壊されても困るし、空からの脅威には対処できるようにすべきよ」

 レイシアの言う事ももっともである。だが、口で言われても出来るわけではない。

 《まぁ、レイシアみたいに力任せにあの鳥を倒すではなくてさ、もっとこう、人なんだし頭使って倒せばいいじゃねぇか》

 『魔剣』である霧夜に最もな事を言われて、正直何とも言えない気持ちになった傭兵たちである。

 「あら、何よ、私が何も考えていないみたいに言わないでくれる?」

 《何も考えてないだろうが。本当脳筋だよな。レイシアは》

 「私なりに色々考えているのよ!」

 《へぇ、そうか》

 霧夜、絶対に信じてなさそうに口を開く。というか、素手で未知の存在にとびかかる時点で、何も考えていないだろうと霧夜は思わず考えてしまう。もっと理性的な人間であったのならば、一人でどうこう対処するよりも、数人がかりで知恵を絞ってやることだろう。

 それをしない時点でレイシアは脳筋である。霧夜は見た目は良いのに残念な奴だなどと失礼な事を考えていた。

 そしてそんな仲良さげな一人と、一振りを見ながらカイザーは複雑な表情を浮かべずにはいられなかった。

 (……やはり、あの『魔剣』は危険だ。下手に常識があるからこそ危険だ。常識的に見えて、それでいて魂を喰らう事を……おそらくあの『魔剣』は躊躇いも見せないだろう。そんな存在を、国を作るにしても傍に置くのはリスクが高すぎる。いつ、食われるかもわからない。そんな恐怖にさらされて生活をしなければならないし、評判も悪くなる。聖教会を敵に回すのも、国を作るならやるべきではない)

 カイザーはずっとそんな思考をしている。

 霧夜と少なからず会話も交わした。霧夜とレイシアの様子を見た。その上でやはり、危険だと感じずにいられないのだ。

 『災厄の魔剣・ゼクセウス』は。

 だからカイザーは、レイシアがどういっていたとしてもこの『魔剣』は手放すべきだと考えている。というより、結論としてそれ以外に思い浮かばない。

 (確かに、『災厄の魔剣・ゼクセウス』がいれば、楽だろう。レイシアは驚くことに『魔剣』に乗っ取られる事がなく使えている。それがいつまで続くかもわからない。いつ、レイシアがおかしくなるかもわからない。いつ、こちらに牙を向くかわからない。なら―――)

 カイザーは思考しながら、ずっと、『災厄の魔剣・ゼクセウス』の事を見ていた。


 そしてその夜、彼は動き出した。



 『災厄の魔剣・ゼクセウス』は無防備に置かれていた。建物の入り口に。それに手を伸ばす。

 カイザーは何かがくるのではないかと身構えたが、何もなく、カイザーはそれを手に取る事が出来た。

 そしてカイザーはそれを持ったまま、森の中へと入っていく。川の前まで行く。そして、それを投げ捨てた。川の中へとどぼんっと落ちていく『災厄の魔剣・ゼクセウス』。

 それを見届けて、カイザーは来た道を戻って行った。

 (さてさて、どうなるかね)

 カイザーが去っていった後、おとなしくしばらく流されてから川から出た『災厄の魔剣・ゼクセウス』は内心で面白そうに笑うのだった。




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