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『魔剣』というのは、よい意味を持ち合わせない。
人を狂わす者、人を破滅に追いやる者。
そういう意味合いを持ち合わせるのが、『魔剣』という名を持つ武器たちである。
いうなれば『魔剣』とはその存在そのものが、人にとっての害悪であり、その存在そのものが悪である。
この世界でもっとも力を持つ宗教――光の神・レイナシアを崇める聖教会。
彼らは『魔剣』を絶対悪と定めている。彼ら曰く、『魔剣』を持つものは総じてくるっており、『魔剣』は存在そのものが悪であり、滅するものである。
『魔剣』を所持するものは、悪である。
そして徹底的に自らの定める悪を排除するのもまた、聖教会と呼ばれる存在である。彼らの本部はレイ神聖国という最も聖教会の影響力の大きな国にいる。が、その国家以外の国にも聖教会を崇める信者は沢山存在する。聖教会は国境を越えての最大勢力である。
さて、キレイドアという未開の地に国を作るなどと途方もない夢を掲げて宣言をしているレイシアは、自ら『魔剣』を所持している。寧ろ『魔剣』を大いに国づくりにかかわらせようとしている。
それは、聖教会の信者からすれば許せないことである。
「……国を作るというのは、まぁ面白そうだとは思うが、『魔剣』を所持しているっていうのはやめたほうがいいんじゃないか」
そう発言するのは、つい先ほどレイシア、チュエリー、霧夜に合流した《赤鴉》のカイザーが言う。
このカイザーという男、ルインベルでレイシアが叩きのめし配下にした男である。カイザーはレイシアの野望を聞いたうえで、『魔剣』を所持しているのはまずいのではないかという助言を口にした。
その心は、カイザーの後ろに控える《赤鴉》のメンバーたちも同様のようだ。
国を作るなどという途方もない野望も、目の前の少女ならできるのではないかとカイザーは思ってしまう。それは彼女がどこまでも自信にあふれていて、迷いを見せないから。
しかし、国を作るというのならば『魔剣』はないほうがいい。作った国が邪教とみなされ聖教会に襲われる恐れがある。
「いえ、やめないわ。アキがいたほうが絶対楽しいもの。それに私の目指す誰にも負けない強い国を作るにはアキがいたほうがいいわ」
レイシアはカイザーの助言を聞かない。聖教会がなんと言おうとも、この面白い『魔剣』を手放す気はレイシアにはない。
「聖教会なんて恐れないぐらい、強い国を作ればいいのよ。単純でしょう?」
「……聖教都の信者は、レイシアの作る国には来ないだろう。それは痛手ではないか」
「いいえ。それよりもアキが国づくりにかかわらないほうが面白くないわ」
面白くないなどといって笑うレイシア。
そんなレイシアを見ながら、戸惑う表情を見せるものもいる。そもそも国づくりというだけでも夢物語。それに『魔剣』をかかわらせようなんて正気の沙汰ではない。
「とりあえず、第一目標として村を作るわよ! 私たちはここで暮らしていて問題はなかったけれど、人数が増えるなら生活拠点は必要だわ! ぼやっとしている暇はないわよ」
戸惑うものたちに向かって不遜に笑う。
「ここまで来たってことは、私についてくることをあなた達は決めたのでしょう? 光栄に思いなさい。貴方達は偉大な最強国家の建国にかかわれるのよ」
国を作るというのはレイシアの目標であり、そして決定事項である。誰がなんと言おうともかなえようとしていること。大きな野望。
「……あーと、出来る出来ないかはともかくとして、レイシアについていくことに異論はないんだ。ただ、『災厄の魔剣』は……」
「何を臆しているの? 問題はないわ。『災厄の魔剣』は面白い『魔剣』よ。私が『災厄の魔剣』を面白がらせればこれはおとなしくしているわ。ねぇ、アキ。黙ってないで貴方も説得しなさい」
「え、えっと、『魔剣』に説得とは」
ちなみに、彼らが現れてから霧夜は一切声を上げていなかった。成り行きを見守っていたともいえる。そのため、カイザーたちは霧夜が自我を持ち合わせた『魔剣』とは知らない。
《あー、俺は喋れるぞ》
「は?」
「アキは自我を持ち合わせた『魔剣』よ。だから、問題ないわ」
《俺はレイシアが面白いと思ったから、レイシアに使われてやることにした。レイシアが面白くなくなればこいつの魂を食って消えるが、レイシアが面白い限り国づくりに力は貸してやる》
「いや、待て。この『魔剣』が自我があったとしても面白くなければ食うといっているが」
「問題ないわ。私がアキを楽しませ続ければいいだけじゃない。簡単な話じゃない」
「いや、おお、それでいいのか?」
「問題なし。私が問題ないっていっているんだからいいのよ。それにアキは役に立つわよ? 頭もいいし」
「はぁ?」
カイザーを含む《赤鴉》の連中は大混乱中だが、そんなこと知らないとばかりに次々と驚くべき発言を投下していくレイシアであった。
結局カイザーたちはレイシアが『魔剣』を手放す気がないのを知ると、それを渋々受け入れるのであった。