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「アキは『魔剣』のくせに細かい事気にし過ぎよ」
《お前が気にしなさすぎなだけじゃねぇか!》
「うるさいわよ。もう少し静かに出来ないのかしら?」
《叫ばせているのは誰だと思っていやがる! お前がもう少し常識はずれな行動を控えてくれれば俺はこんなに叫ばない!》
「はっ、『魔剣』に常識を説かれたくはないわ」
《鼻で笑うな! 俺は確かに『魔剣』だけど!》
「大体、『災厄の魔剣』とかとか呼ばれている『魔剣』がなんでそんなに常識をとくのよ! 貴方アレでしょ、貴方のせいで国が滅んだとかあるのに!」
《なんでって、俺は面白ければどんな不幸があろうと知ったことじゃねぇけど! 面白い事を起こすお前が死んでしまったら俺が面白くねーだろうが! それに俺は基本的に常識人だ! 少なくともお前よりはな》
目の前で美しい一人の女性と、真っ黒な大剣が言い争いをしているのを、捕まった女性―――チュエリー・マッカーは呆然とした瞳で見据えていた。
(なに、これ。この人は、あいつらの一味ではない? それに第一国民にするためって何?)
わけがわからないというのが正しい感想である。
そもそもチュエリーにとって、このキレイドアの中で誰かと遭遇することは想定外であった。とある事情からこのキレイドアに足を踏み入れ、追手もいるチュエリーは、一人のんびりとここで過ごせればいいと思っていた。追手もこんな所まで追ってはこないだろうという打算もあった。
しかし、追いかけてくるものがいて焦った。しかも、第一国民にするなどという謎の言葉を告げるとか謎すぎた。
(……しかも、大剣が喋っているし、『魔剣』って口にしている。『魔剣』なの? 『魔剣』がそんな強い意志を持っているって話は聞いたことない)
わからなかった。何もかも。わかるはずがなかった。『魔剣』とは人を破滅させるもので、その『魔剣』が明確な意志を持っているなんて聞いたこともない。
「----もう、その減らず口聞けなくしてあげるわ!」
《『魔剣』の俺には口はねぇよ!》
「そういうことをいっているんじゃないわ。っていうか、貴方どっから声出ているのよ!」
《しらねぇよ! そんなの『魔剣』の不思議としか言いようがねぇよ!》
「なんで自分の事もわからないのよ? 『魔剣』歴長いんでしょう?」
《魔剣歴百二十年でもそんなのしらねーよ! 疑問に思ったこともねーよ! 大体俺が喋れるようになったのは『魔剣』として人の魂結構喰ってからだしな》
「あら、最初からじゃないの?」
《ああ。っていうか、その女に説明してやれよ! 呆然とした顔でこっち見ているぞ》
「あ、忘れてた」
レイシアは自分で捕まえて第一国民にするなんて口にしていたくせに、チュエリーの存在を忘れていたらしい。
先ほどまで追われる方からしてみればトラウマになるぐらい追いかけられたというのに、忘れてたらしいレイシアは色々と酷い。
急にレイシアに視線を向けられたチュエリーは、体をびくつかせた。
《おい、散々追い回したからか怯えられているじゃねーか》
「ねぇ、貴方はどうしてここにいるの? というか、ここで暮らしているの? このキレイドアで女の身で一人生活しているなんて凄いわね」
《無視かよ。つか、人の事お前は言えないだろう》
「私は、ある目的があってここで生活しているの。貴方を捕まえた理由は、貴方に私の国の第一国民になってもらうためよ」
《だから、それだけじゃわかんねぇって》
レイシアが笑顔で言い放った言葉に、霧夜は突込みを入れる。
「……わ、私は」
「というか、貴方名前は?」
《おい、せっかく話しだそうとしているのに遮るなよ》
「私の名前はレイシア」
レイシア、霧夜の言葉は全部無視である。
「私は、チュエリー・マッカー。事情があってここで暮らしているわ。レイシアさんは、どうして、ここに……? それに第一国民って……」
チュエリーは座り込んだまま、茫然とそう問いかける。
やっぱり話してみてもレイシアという存在はわけがわからなかった。そして『魔剣』であろう声が、親しげにレイシアに話しかけている意味も、やっぱりわからない。
『魔剣』の所有者であろうレイシアには、狂った様子はない。チュエリーは『魔剣』所持者を見たこともあったが、過去の記憶の中にいる『魔剣』所持者とはレイシアは重ならなかった。
「私はね、国を作りたいの、自分の国を!」
理解出来ないといった様子でレイシアを見ているチュエリーに、レイシアはそんな夢を語った。
自分の国を作りたいなんて、突拍子もない夢を。
《おい、いきなりそれかよ!》
「うるさいわよ、アキ。だってそれが私の夢だもの! チュエリー、私はね、ここに、このキレイドアに国を作りたいの。どこにも負ける事のない最強の国を」
自信満々にそう告げて、レイシアは迷いなんて一切ないといった様子で笑った。
その語られた夢が、よくわからなくて、チュエリーは呆ける。
「今は、このキレイドアで人が生きていけるって証明するために、私はここで暮らしているの! そうしていたら、チュエリー、貴方が居たってわけ」
笑みを浮かべて、チュエリーに手を伸ばす。
「このキレイドアで生きていける貴方を、私は第一国民にしたいの。ここに作る、私の国の国民に。だから、国民になりなさい」
詳しい説明もなしにそういったレイシア。自信満々で笑うレイシアの笑みにチュエリーは――――。




