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キレイドアでのレイシアと霧夜の生活は、危険と隣り合わせなものの、なんだかんだで命を奪われることもなく過ぎていく。
少しずつ奥へと向かい、様々な植物や生物について理解を深めていく。
この場所に、危険だろうとも、国を作ると決めた。
住まうというのならば、このキレイドアの生態をもっと知る必要があった。レイシアは脳筋という言葉が似合うような性格で、あまり頭を使わない。考えるより、行動する。そういう少女であった。
霧夜は、そうではない。魔剣という物騒な存在で、存在そのものを畏怖されるような武器であるが、レイシアとは違って、記憶力が良く、どちらかというと思考し続けるような性格をしていた。
そういった意味で、レイシアと霧夜は相性が良かったというべきなのか、レイシアが中々覚えられない事も、霧夜が記憶していた。
長い間、魔剣としてこの世界に存在し続けたというのもあって、霧夜にはそれだけの知識が埋まっていた。
自我を確立している、そんな魔剣だからこそ、魔剣としての剣生の記憶をはっきりと覚えていた。
だからこそ、毒のあるものについてもわかっていて、レイシアに教えることが出来た。レイシアが記憶できなかったことも、霧夜は覚えていた。
「あんた、便利ね」
《……お前は、もうちょっと覚えろ。ここで生活をしたいっていうのならば、ここに国を作りたいっていうのならば、お前がもっと覚えるべきだろーが!》
「あら、自慢じゃないけど私は体を動かすのは得意でも、頭を使うのは苦手よ」
《知っている! 短い付き合いでもそれがよくわかる。本当脳筋だな!》
開き直ったかのような態度のレイシアに、霧夜は呆れた声を上げている。
使い手が魔剣に振り回されているのではなく、魔剣が使い手に振り回されているという現状なのだから、それはもう見ているものが居れば驚くことであろう。
レイシアという少女は、それだけ規格外で、そもそも新しい国を作りたいなどという突拍子もない事を考えて、そのために魔剣を手に入れようとさえするのだ。そんな少女が普通の感覚を持っているはずもないのである。
「いいじゃない別に、アキが代わりに覚えててくれるでしょう?」
《そう、だけど! 俺頼みとか、お前本当に……》
「なによ」
《魔剣である俺をそんなに信用して、お前は馬鹿なのか!》
霧夜の紛れもない本音である。
第一、霧夜は『災厄の魔剣』などという物騒な名前で呼ばれるほどに破滅の歴史を刻んできた魔剣である。そんな魔剣を信用しているような発言をするレイシアの正気を疑っていた。
魔剣に正気を疑われるレイシアは相当の変わり者である。
「なによ、その言い方は。アキは私を面白いと思っている。そして私が面白い事をするのを見たいんでしょう。なら、私の不利になるようなことはしないでしょう。ただ、そう考えているだけよ」
《それはそうだが……》
「まったく、アキは災厄の魔剣なんて呼ばれていた魔剣の割にお人よしというか、心配性ね。面白いわ」
《別にそんなんじゃねーよ、ただお前が俺の知らないところでだまされでもしたら面白くねーだろうが》
そんな風な言葉を言い放つ霧夜に、レイシアは面白そうにクスクスと笑った。
『災厄の魔剣』なんて呼ばれている癖に、愉快犯で、人の命なんてどうでもいいと思っている癖に、なんだかんだで使い手の事を心配はしているらしい霧夜が面白かったのである。
そんなこんなで、レイシアと霧夜の生活はこんな場所で過ごしているというのに比較的平和に過ぎて行っていた。
そんな中で、レイシアと霧夜は驚くべきものを見つけた。
「これって」
レイシアが、それを見つけて声を上げた。
それは、一つの痕跡だった。何の痕跡かって、人が生活している痕跡である。
もちろん、レイシアと霧夜が残したものではない。誰かがこの場所で、レイシアたちと同様に生活していることを思わせるものがそこにあった。
《お前以外にもこの場所で生活しようなんていう突拍子もない奴居たのか》
「………私もびっくりだわ。でも、ここで生活をしている者が居るというのならば、私は会ってみたいわ」
《どういう意味でだ》
「もちろん、こんな場所で生活を出来る者っていうのならば、私の国に相応しいでしょう?」
不敵に笑うレイシアは、まだであってもいないのにここで生活をしているであろう人を国に取り込む気満々らしかった。
《お前、まだあってもいないだろーが》
「ふふ、でも絶対に私の国に取り込むわ」
《まだ国もできてねーだろうが》
「あら、作るって決めているもの。問題ないわ」
レイシアは自信満々である。何とも不遜な態度だ。
《そうか、まぁ、いいや。とりあえずここで生活をしながらこの痕跡を残した奴を探すか》
「ええ、そうするわ。絶対に見つけて、私の国に取り込んでやるんだからっ」
《……向こうが拒否したらあきらめろよ》
「拒否なんてさせないわよ」
霧夜の言葉にレイシアはそんな風に笑うのであった。