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怪我を治したレイシアは、完治してすぐなのだからもっとゆっくりすればいいのに、時間がもったいないとばかりに早速キレイドアの探索に乗り出した。
『災厄の魔剣・ゼクセウス』を手に、どんどん進んでいく。
《………お前、そんな考えなしにどんどん進んで大丈夫なのか》
「あら、心配してくれているの、アキ」
《心配っていうか、お前は俺の所有者だろうが。折角お前といたら楽しそうだからと契約までしてやっているんだ。そんなお前が簡単に死んだら俺が詰まらねーだろうが》
「ふふ、その自己中心的な考え私は好きよ」
であってすぐに契約をして、お互いの事も知らない状況である。そんな状況でありながら、「お前が大切だから」とかそういう理由で心配されるよりも、自分がつまらないからという自己中心的な理由のほうがレイシアは好ましいと思っていた。
第一他人を大切にしたところでその思いが大切にした相手に必ず通じて、その思いを相手が返してくれるわけではないとレイシアは知っている。
レイシアの両親は心の底から民を大切にしていたというのに、それはかえってくることはなかった。それどころが大切にしていた民が、レイシアの両親を殺した。そういうのを幼い頃に見てしまったからこそ、レイシアはずれた考えを持ち合わせているのだろう。
《……そうか》
「あら、アキ、照れてる?」
《魔剣になってから俺の話まともに聞くやつもいなかったし、そんなお前みたいに馬鹿げた事いうやついなかったんだよ、馬鹿》
「ふふ、アキも十分面白いわ」
一人と一振りはそんな会話を交わしていた。のほほんとした会話を交わしているが、実際問題二人はそんなのほほんとした環境の中には居なかった。
キレイドアは魔物が溢れる地であり、今もレイシアに幾多の魔物が向かってきていた。
それをレイシアは霧夜を行使してたたききったり、加護の力を行使して魔物をどうにかしたり。それを繰り返していた。
レイシアの加護は戦いにおける加護である。
圧倒的な武力センスがそこにはあって、魔剣である霧夜もレイシアの戦いぶりには驚かされるほどである。
(流石、あのラインガルの王女様で加護もちって所か。こいつらなら、本当にここに国を作っちまうかもしれねぇな)
魔物の魂を喰らいながらも、そんなことを考えて霧夜は楽しくなる。
キレイドアは未開の土地で、魔物が大量に現れる危険な土地である。そんな土地の中で生きようと考える人など今までいなかった。探索のためにこの土地に入ったものが、かえってこなかったことも大きな要因だろう。
―――だけど、自身と契約をしたこの女はそれをなすかもしれない。
それを思うだけで霧夜は愉快だった。キレイドアに国を作ろうという考え自体が面白くて、本気でそれをなすかもしれないと思えば余計に面白かった。
「……魔物の数が流石に多いわね」
《そりゃそうだろ、ここはキレイドアだからな》
「ま、覚悟はしていたけれども……。中々大変そうね」
そういいながらも表情は楽しそうで、いくら魔物がわいてこようともこの場に国を作ろうという意思が揺らいでいないことがわかる。
《寝泊りする場所でも先に確保したほうがいいぞ》
「そうね。アキが居るとはいえ、なるべく安全な場所で寝るべきだもの」
そんなわけでレイシアと霧夜はまずはしばらく寝泊りする場所を探すことにした。
レイシアはしばらく魔物を葬りながら進んで、洞窟を見つけた。
「あれよさそうじゃない?」
《いいと思うけど、ああいう所って大抵なんかの棲家だと思うが》
「まぁ、そうね。人も獣も考える事は一緒だろうし、ああいう洞窟あるならそこに何か住んでてもおかしくないわ」
そんな事を言いながらレイシアは霧夜を手に、洞窟へと向かっていく。周りへの注意は怠らない。どこから魔物が襲ってくるかは定かではないのである。ゆっくりと周りを警戒しながら洞窟へと近づく。
そして入口にたどり着いた瞬間、それは襲い掛かってきた。
鳴き声を上げて洞窟の中から、獣が現れる。鋭い牙をもつ、動物でいうライオンに似ているかな? と思えるような獣である。大きさはレイシアの体の三倍ぐらいはあるだろう。
とびかかってきたそれを上空へととびかかって避ける。
《やっぱり居たな》
「でかいわね。でもこいつを殺せばこの洞窟は私のものってことね」
そんな物騒な事をつぶやき、レイシアはその獣を殺そうとばかりに向かっていく。
一閃。
それでまずそれの耳を切り落とす。
獣はそもそも、こちらが小さいということでレイシアの事を甘く見ていた。だから、警戒心もそんなないままに切り落とされた。
苦しみの声を上げる。
そこから警戒心をなくしたかのように、とびかかってくる。避けられない時もあったが、それでも致命傷までの傷はない。
少しずつ霧夜を振るって、魔物の戦力を落としていき、そして動きが鈍くなったところを心臓を狙い、霧夜が結局その魂を喰らった。
それで終わりだ。
それが終われば、その魔物を解体する。丁度おなかがすいてきたらしい。
要るだけの分を洞窟の中へと持っていき、火を起こすために木々を集めてくる。その際に洞窟の中へと持ってこれなかった魔物の死骸はあっとういうまに骨だけになっていた。どうやらレイシアが去ったあとすぐに魔物たちが食らいつくしてしまったらしい。枝を集めて、火を起こす。
レイシアは魔法は使えないし、霧夜も火を噴いたりとかは出来ないため、そういう手段で火を起こすのである。
レイシアは元姫だというのに、それを欠片も感じさせないほどに野性的である。国が滅んでから色々あったことがうかがえる。
そしてレイシアが火を起こして肉を焼いてそのまま食らう。
男のようにがつがつ肉を食べたレイシアはあたりをしばらく探索すると、洞窟の中で一休みするのであった。