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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第十章 魔剣と少女と戦いと
189/197

21

 その『聖剣』の使い手と思われる彼は、金色の髪を持つ美しい青年だった。

 いかにも神に選ばれしものといった風貌で、その手には白銀の輝くを放つ長剣。それこそが、『聖剣』と呼ばれるものだろう。

 それは『魔剣』である霧夜とは正反対だ。白と黒。全く正反対の輝きを持つ力を持つ剣。

 その使い手が対峙する。とはいえ、互いの使い手の心構えは全く違うだろう。

「悪魔だなんて人聞きが悪いわね? これは戦争なのよ。戦に置いて敵を殺すことは褒められることであって、責められることではないわよ」

「だ、だからといって……!! あ、あなたはレイシア姫ですよね」

「女王よ」

「……レイシア女王、その『魔剣』を今すぐこちらに渡すのです」

「あら、私は聖教会の信徒を沢山殺しているわよ。それで交渉する気? 多分、他が許さないわよ?」

「そ、それでも争うよりは和解した方がいいに決まっています。レイシア女王がそれだけ残忍なのも全てその『魔剣』のせいでしょう。あなたに少しでも良心が残っているのならば、すぐさまその『魔剣』を渡すのです」

 ――その青年は、何処までも人の善意というものを信じ切っているのだろう。

 だからこそ、レイシアとも対話すればどうにでもなると思っているのかもしれない。それでいてこれまでその説得により、敵と和解してきたのかもしれない。まぁ、彼が和解出来たのは『聖剣』という武器を持っているからともいえるだろう。本人にそんな自覚があるかはともかくとして、『聖剣』を手にしている聖職者から和解を求められればその力に屈して頷かざるを得ないだろう。

「はっ」

 レイシアは青年の言葉を鼻で笑った。

「私がアキを自分の意思で手放すわけないじゃない。本当に甘ったるい考えをしているわね。『聖剣』の使い手っていうのは。この場であんたの選択肢は、このまま私に殺されるか、私から逃げるかの二択しかないわよ」

 そして彼女は不遜に笑ってそう言い切ると、その『魔剣』を青年へと向ける。

 戦いが避けられないと実感したらしいその青年は、『聖剣』をこちらに向ける。



 ――そうして、戦いが始まった。



 その青年は戦うことにそこまで慣れいないように見受けられた。それだけレイシアが切りかかれば、対応に苦戦していたから。それでも彼がレイシアを前にしてまだ殺されていないのは、その『聖剣』が光属性の魔法を宿したものだったからなのかもしれない。流石にそういう武器を相手にしたことはレイシアにも霧夜にもない。

 『聖剣』の使い手の青年を相手にしながら、他の神官や騎士をさくさくと殺していく。

「意思があるわけではなさそうだけど、所有者を守るための行動は『聖剣』は行うのね」

《自動機能だな、おそらく。自分で考えて行っているわけじゃないならやりようがあるだろう》

 時には所有者のために、障壁のようなものを張り、時にはその傷を癒す。

 ……とはいえ、『聖剣』の力は決して万能なわけではない。霧夜のように明確な自我があるのならば、所有者と意思疎通が出来る武器ならばまた違っただろうが、青年の所有している『聖剣』はそんなものではなかった。

「アキ、あれ、どうにか出来る?」

《ああ》

 青年はレイシアの繰り出す攻撃に青ざめるばかりだ。今まで『聖剣』の力を行使すれば、敵が問題なく葬れていたからだろう。これまで青年にとって倒すべき相手は自分よりも弱者であり、自分の方が上だと無意識に思っていたのかもしれない。

 だからこそ、こうして『聖剣』の力を行使しても倒れないどころか向かってくるレイシアは恐怖でしかないのだろう。霧夜が重力を操り、その青年の身体を地面へと誘う。少し相手にすれば『聖剣』の能力ぐらい分かる。

 あの『聖剣』は重力から使用者を守るためのものは持っていない。使い手がこういう状況でも対処が出来る者だったなら問題なかっただろうが、その青年はレイシアの目から見てそこまで強いわけではない。

 『聖剣』の使い手であったから持ちあげられ、自分を強者だと勘違いしたままここまで来てしまったのだろう。

 武器の力は所有者の力そのものであると言えなくもないが、『聖剣』の使い手がこんな有様を見せることに驚いた。

 『聖剣』がその手から離れる。

「アキ、あれには魂ある?」

《わずかに。喰ってみるか》

「ええ」

 『聖剣』に微かに魂の気配を感じた霧夜は、その魂を喰らって、

《うえっ、まずっ》

 吐き出した。

 一度『聖剣』から抜かれたその魂は、霧夜によって吐き出された後、元の場所に戻ることはなかった。

「そんなにまずいの?」

《なんか、色々交ざったような感じ。特に美味しくもない。『魔剣』に喰われないようにあえてまずくしてるとかあるのかも。俺、喰おうとした段階でちょっと躊躇したし。喰ってはみたけど……》

「そうなのね。それにしても……魂は神の元へ行くべきとしている聖教会の持つ『聖剣』にも魂が宿っているって中々不思議なことよね」

 レイシアは霧夜の言葉にそう返しながら、恐怖で震えている青年に近づく。

「ひ、ひぃい」

「怯え切って情けないわね。私の国に攻め入ってきたのだから、自分の死ぐらい覚悟した上できなさい」

「た、助けて!! な、なんでもするから」

 悲鳴をあげるその青年をレイシアは冷めた目で見た後、霧夜に「喰らいなさい」と告げる。

 その後、青年の魂は霧夜に喰われ、『聖剣』は回収された。






 

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