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レアシリヤの者たちは、迫りくるものたちの間引きを続けていた。特にレイシアと霧夜、そして竜人たちにより敵の数は減少していたと言えるだろう。数が多ければ多いほど、それだけ脅威なので少しでも敵対する者たちの数を減らすことは重要なことである。
要塞化を進めているこの場所は、中々敵からしてみれば攻めにくい場所だろう。城壁に囲まれた漆黒の城。それでいてレアシリヤの民だけではなく、不意をついて襲ってくる魔物たちの相手もしなければならないのだ。
食糧に関しても途中で失われることも多い。
魔物に襲われ、それを捨てざるを得なくなったり――というのは案外よくある話である。
そもそも彼らはキレイドアの地に慣れていないので、それだけ足取りが重くなるのは当然の話。
……味方の数を明確に減らされていった。それでいて相手には『魔剣』もいるとなると、逃げてしまうものだっていた。
そういう悪循環の中でもレアシリヤの城へとたどり着いたものたちは、あの城を落とさなければと闘志に燃えている。
数少ない残った魔法使いたちが、時間をかけて魔法を形成する。
――それを当然、レアシリヤの者たちは邪魔していたが、彼らも本気のようでその魔法を食い止めることは出来なかった。
大きな風が吹いた。それはまるで嵐か何かのような、強風。
それはドワーフの血を引く者たちの作り上げた城壁の一部を破壊した。全てを破壊することは出来なかったが、人が通れるぐらいには穴が開く。
流石に城壁が思いっきり壊されるとは思っていなかったので、レアシリヤの人々の間には一部混乱が生じた。
「アキ!! 侵入者たちを根こそぎ殺すわよ」
《ああ》
レアシリヤの戦闘の要は、女王であるレイシアとその武器である霧夜である。
(あれだけ頑丈な城壁を簡単に壊すなんてやっぱり魔法使いっていうのはどいつもこいつも物騒だ。一人ならともかく、複数人いるとこれだけの力を発揮するしなぁ。聖教会はやっかいだとしかいいようがない)
霧夜はそんなことを考えながら、敵の位置を知覚する。どこに誰がいるか、何処から迫ってきているか。それらを知るとすぐに使い手である彼女に知らせる。
これは戦争なので、レアシリヤの戦う力のない民のことを敵は容赦なく殺そうとするだろう。特に聖教会にとってみれば異教徒など生きていていいものではない。聖教会に仇を成すものを生かす理由はない。他国の騎士たちに関しても、敵対している者に慈悲はないだろう。特に女性に関しては慰め者にされてしまったりする可能性は高い。
レイシアが捕まってしまえば、誰かの元へ無理やり嫁がされる可能性もある。実際にレイシアに関しては捕らえられるなら捕らえるようにという指示がなされているようだ。
とはいえ、レイシアの力を目にした者たちは彼女を大人しく捕まえることなど出来ないだろうと理解はしているのだろう。
本気で殺すつもりで襲い掛かっている。
彼らがレイシアに集中して襲い掛かってくるので、彼女はそれらを次々と撃退して回る。その『魔剣』は切った者の魂を次々と喰らっていく。当たりさえすればそのまま魂を喰らうことが出来るので、パタリパタリと、敵は倒れていくのだ。
この場は霧夜にとっての食事場である。
「ああああ、なんて忌まわしき『魔剣』なのでしょうか!! 神の元へと行くはずの魂を喰らうなんて!!」
そんな叫び声が聞こえてきたかと思えば、その神官服を着た若い男性が何かを紡ぐ。何を言っているかは、レイシアと霧夜の耳には届かない。ただ、それで紡がれたものが少し問題だということは理解できる。
《レイシア、あれは俺が食らわない方がいいものだ。前に見たことある》
「そうなの?」
《ああ。『勇者』の魂を喰らった後に散々追いかけられた時にな。俺を捕まえるためのものだろう。それか、弱体化させるための聖教会お得意の技術だ》
「なら、避けるしかないわね。それにしてもよっぽどあいつらって『魔剣』のことを嫌いなのね」
《特に俺が『勇者』を殺したからだろうな。あいつら『勇者』を崇拝しているし。俺が破壊されるのも、レイシアが死ぬのも阻止したい》
「当然よ。どちらかだけが残るなんてのは私の望むところではないわ。それにしてもあれ使えるのあの神官だけかしら」
《あんまり使える人は少ないと思うから、とりあえずあいつ殺そう》
「ええ」
『魔剣』に対して作用する何か。
言葉を紡いだその神官は、それを霧夜に向けてくる。だけどそれが向けられるのが分かっていて霧夜がそのまま食らうわけがない。霧夜に当たらなかったことに対して、その神官は癇癪を起したかのように騒いでいる。……そしてどうやらその特別な技術は連発が出来ないらしい。
「なら、いいわね」
《ああ》
レイシアと霧夜はそんなやり取りをしたかと思えば、次の瞬間、その神官を殺した。
二人の想像通り、その技術を使えるものの数はどうやら少ないようだ。それ以降、霧夜にそれを向けてくるのは一人しかいなかった。その者も二人はすぐに殺した。