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レアシリヤと敵対している聖教会とそして国々の部隊は比較的鈍足で進んでいる。
というのもその場に魔法使いがいるから。それに数が多いので、移動には時間がかかるものである。
――そのレアシリヤの建設されたばかりの城を目指す過程で、彼らは”闇夜の悪夢”や”闇夜の悪魔”と呼ばれるものに襲撃されている。
気づかないうちに内側に入り込み、仲間を確かに殺していく――。
そんな恐ろしい魔物のようなもの。姿が分からない、化け物。
……まさか、いかにレアシリヤの女王と『魔剣』が規格外であろうとも敵のトップが夜襲をかけてきているとは彼らは思っていない。
夜襲は、彼らの心を疲弊させるには十分なものだった。それでいて昼の間はその存在が襲撃をしてこないと、彼らは安堵している。
――魔物による襲撃よりも、それが襲い掛かってくることを恐れているのはあまりにも”悪夢”がもたらす被害が大きいからだろうか。
理性のない魔物ではなく、明確に意思のある人がこれだけのことをやらかしていること。一切の躊躇いもなく、味方の命を奪っていること。
それらはその場にいる者たちを恐怖させるのには十分である。
聖教会の魔法使いや騎士がいる部隊相手にそれだけのことを起こしてくる相手がいるなどと彼らは思ってもいなかった。
今回のレアシリヤの討伐は、あくまで彼らにとっては討伐である。向こうが降伏するか、滅ぼされるかのそれだけの話だった。
これだけの襲撃を受けてもなお……彼らにはまだ慢心がある。
「さてと」
レイシアはその部隊のうちの一人を気絶させ、その纏っているローブを奪い取る。
聖教会の信徒がよく身に付けているローブである。それを身に纏えば、敵の中に紛れ込むことが出来ると思ったのだろう。
彼女は目立った動きをしなければ、簡単に紛れてしまう。
……その聖職者のローブが、フード付きのもので頭をすっぽり隠せるものだからというのもあるだろう。レイシアの見た目は大変良いので、そのまま顔をさらしていれば大変目立ってしまうのだ。
昼間の進軍の時間の休憩時間、その隙を彼女と『魔剣』は狙っている。
聖教会の魔法使いは大変目立つ。それだけ特別な存在であり、この集団の象徴でもあると言えるだろう。目立たないような服装はしていない。シンボルである聖教会のマークの飾りをつけたその魔法使いたちは、夜襲が起きていることに恐怖心を感じてならないらしい。
自分の仲間たちが死にゆくこと。それに慣れ切っていない彼らは、いつも通りのパフォーマンスが出来ないでいる。
そんな彼らに対して、追い打ちをかけるのが彼女とその武器である『魔剣』である。
突如として、何処からか大剣が飛んでくる。
潜入した彼女は目立たないように『魔剣』を手にはしていなかった。その代わり、すぐに飛んでこれるように霧夜は準備していたのである。
そして飛んできたそれは、魔法使いの一人に深く突き刺さる。
「きゃあああああ」
悲鳴が聞こえる。
その一瞬の隙を彼女と彼は見逃さない。
そのままその魔法使いの身体からひとりでに離れた霧夜は、そのままレイシアの手の中へと納まった。
「な、なに!?」
「だ、誰なの!?」
恐怖と警戒。
それに満ちた声。
そんな声を上げる魔法使いの命を次々と奪う。
自分たちの休憩のための野営地。そういう場所だからとその魔法使いたちは護衛を連れているわけではなかった。
野営地の中であるのならば、敵が忍び込んでくることもないだろうとそう思っていたのだろう。
寝ている間は警戒をしなければならないからこそ、騎士たちがいたが昼間はそうでもない。魔法を行使する暇もなく、彼らの命は奪われていく。
中にはかろうじて、魔法を行使できたものもいたが――恐怖で支配されている中で正しく魔法を使うことなど出来ない。本来の力を発揮するなどが出来ず、そんな魔法が彼女に通じるはずがない。
殺して、殺して、殺して――。
そうしているうちに騎士たちが彼女を囲んだ。
罵声が響く。彼女と彼に対する怨嗟の声が、聞こえてくる。
睨まれ、武器を向けられ――その中心に、彼女と彼がいる。
「さて、アキ、行くわよ」
《ああ》
彼女の言葉に、彼は返事をする。
そして、戦いが始まった。
切り捨てていく。騎士の一人を大剣を刺したまま、飛ばして、他の騎士を巻き添えにしていったり、霧夜が重力を操り騎士たちの動きを封じたり――そうしながら、騎士たちを倒していく。
《レイシア、そろそろ切り上げるぞ。全員相手にするのはキリがない。だから一旦ひくぞ。掴まれ》
「了解。アキがそういうなら一回引くわ。目的はある程度達成したものね」
彼らはそんな会話を交わす。そしてレイシアがその柄に掴まったかと思うと、勢いよくその『魔剣』は移動し始めた。
下が騒がしくなる中で、レイシアは霧夜に掴まったままその場を後にするのだった。