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空を飛べるということは、それだけ地の利があるということ。
普通の人にとって、空というのは不可侵な領域である。宙に浮かぶことなど、普通は出来ない。だからこそ宙を舞う魔物相手は人の身では大変なことである。
侵略者たちは当然、竜人などという存在のことを知らない。空を飛ぶ不思議な人々が自分たちを攻撃してくることには混乱している。
次々と落とされる石。
それだけではなく、時折人の身には害をなす液体なども投げられる。
それらはレイシアの指示によってされていたものである。彼らはレイシアを自分たちの王として定めているので、その王が定めた敵相手に彼らが躊躇をする必要はない。
「なっ、卑怯だぞ!!」
逃げ惑ううちの一人が言った。
それを竜人たちは冷めた目で見下ろしている。彼らにとってみれば強者に弱者が付き従うことは当然のことなのだ。レイシアという少女と、その武器である『魔剣』は普通の人であればまずどうすることも出来ないような存在なのだ。
圧倒的な強者――。
どうすることも出来ないようなそんな化け物を相手にしようとしているのにも関わらず、こんな風に油断しきっている姿も理解が出来ない。また戦闘においては言ってしまえば勝者こそ正義である。
それに殺し合いにルールなどありはしない。だからこそ、卑怯などという方がまず間違っている。
侵略する側が、侵略される側に反抗されてそんな言葉を口にするなど滑稽以外の何でもない。
そもそも圧倒的に侵略されているレアシリヤの方が国民の数が少ない。そのレアシリヤが大国を相手に生き抜くためには何でも利用するほかないのは当たり前のことだ。使えるものはなんでも使って生き残ること。
一番重要なのはそのことだけだ。
竜人たちは彼らに容赦なかった。空から攻撃を繰り出し、その命をうばっていく。空を飛ぶ相手への対応を想定していなかったらしい彼らはあっけなく崩れていく。
キレイドアというこの地にやってきたにもかかわらず、想定外のことを考えていないというのがまず、この場所をなめている。それでいてレアシリヤという国を簡単につぶせるものだと思い込んでいる。
――誰も開拓することの出来なかった未開の地。
そんな場所に国を作るということがまずまともなことではないのに。
それでも人は自分の思い込みで、自分の常識で物事を考えてしまうもの。
だからこそ、こうして彼らは死を迎えるのだ。正しく敵を知ることなく、侮り続けた者の末路である。
「やっぱり空から一網打尽っていうのはいいわね」
《空を飛べるっていうのはそれだけ地の利があるからな》
「私が空からどうにかするとしたら、竜人に抱えてもらうとかかしら」
《俺の上に乗れば飛ばしてはやれるぞ。まぁ、その場合、お前の命を俺に預けているようなものだけど》
「あら、それは魅力的ね。やってみましょう」
《ただその間、俺を武器としては使えないぞその間無防備になるし》
「別にいいじゃない。アキは私を落とす気はないでしょ」
《ねぇけど……でも人を上に乗せて飛ぶとかしたことない。そんな必要なかったし。だから、レイシアのことを落とすかもしれない》
「やってみなければわからないでしょ。ほら、アキ。やってみるわよ」
レイシアと霧夜は、竜人たちが敵を蹂躙する様子を眺めていた。何かあれば手を出そうと思っていたものの、その必要も全くなかった。
それだけ竜人たちと敵とでは心構えも何もかも違った。
レアシリヤ側は敗北すれば国自体がなくなる。竜人たちにとっても王と定めたレイシアの死を意味するものでもある。だからこそ全力を尽くすのは当然の話だ。対して向こうからしてみれば自分たちの国に対する危機感などはない。だから、その間には明確な差がある。
レイシアと霧夜は、周りに敵が居ないことを良いことに半ば遊ぶような形で空に浮かぼうとしていた。
横に置かれた霧夜の刀身にレイシアは乗る。霧夜は魔力を使って、浮いた。
結構揺れるのだろう。少しだけ地面から浮いただけでレイシアは少しよろめきそうになっている。
《レイシア、やっぱり難しいぞ。これ》
「ふんっ。何度もやってみて本当に無理なら諦めるけど上手くいくならこれは出来るようになるべきことだわ」
《まぁ、出来るようになったらレイシアの攻撃方法も増えるしいいと思うけど。でもその前にレイシアが落ちて死んだら元も子もないだろ。俺も悲しいし》
「アキは本当に心配性ね?」
《そりゃあ、死なれたら困るからな。……というわけで、中断しないか?》
「アキってばあんたが面白そうな案を私に言ったんでしょ。なら最後まで付き合いなさい」
《せめて戦いが落ち着いてからはどうだ?》
「今だからこそ必要だわ。もし今回のことが落ち着いたらしばらく戦いはないかもしれないじゃない。いくつかの連合軍を追い返して生き延びた国って手を出しにくいわよ。今だからこそ、空に浮かべたら面白いことになるわよ」
レイシアは一度言い出したら聞かないタイプなので、そう言って押し切るのであった。
……国が攻め入られている状況だと言うのに、その女王と『魔剣』は全く持っていつも通りのマイペースだった。